第8話 依頼
冒険者ギルド、二階。
広いホールを見下ろす手すりのそばで、ひとりの女性が腕を組んでいた。
燃えるような赤髪。
年齢は五十を越えているはずだが、その体躯は未だ衰えを知らない。
背筋は真っ直ぐで、肩幅も広く、立っているだけで圧がある。
【フレイ・ヴァーミリオン】。
五十五歳。
元Aランク冒険者。
そして現在、このアントスの冒険者ギルドを束ねるギルドマスターだ。
彼女は、階下で起きた騒動を見ていた。
スカー・フールが瞬殺される瞬間を。
「……なかなか面白そうなヤツが来たね」
口元が歪む。
「テスタ!」
声をかけると、背後から一人の女性が歩み出た。
細身の体。
黒髪を後ろでまとめ、冷たいほど整った顔立ち。
ギルド長秘書――
【テスタ・ブラム】。
「かしこまりました」
短い返事。
「アリアと一緒にいる小僧をギルド長室に呼んどきな」
「承知しました」
テスタは踵を返し、静かに階段を降りていった。
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一階ホール。
スカーとの騒動のあと、ギルドは大騒ぎだった。
人だかりが出来ている。
ディーンとアリアを中心に、まるでドーナツのように人々が囲んでいた。
拍手。
口笛。
歓声。
「すげぇぞ兄ちゃん!」
「Bランクを瞬殺だ!」
そんな中、アリアがディーンの袖を引いた。
「……ねぇディーン、さっきの技って何? 私あんな技初めて見た!」
興味津々。
ディーンは頭をかきながら説明する。
「あれはな……俺の家で代々伝わる体術だ」
「体術?」
「だから【家伝体術】。俺はこの技を外で試し鍛えるために外の世界に旅に出たんだ」
「へぇそうなんだ! すごいね」
尊敬の眼差し。
その時だった。
「アリア様とお連れ様」
いつの間にか、二人の前にテスタが立っていた。
「ギルドマスターがお呼びですので、ギルド長室までお越しください」
声は静かで、冷静だった。
ディーンは少し眉をひそめる。
言われるがまま歩き出す二人。
テスタが先導する。
「……もしかしてやりすぎちまったか?」
ディーンが小声で言う。
「もしかしたら……怒られちゃうかな?」
アリアも不安げ。
その時、テスタが立ち止まり、振り向いた。
ヒールがカツ、と鳴る。
「大丈夫ですよ」
凛とした声。
「少しお話がされたいようでしたので」
そして扉を開く。
「さぁ、こちらです」
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ギルド長室。
大きな机。
頑丈な椅子。
どれも普通の家具よりひと回り大きい。
そこに座っていたのは、フレイだった。
二人が入ると、腕組みを解く。
「今回はうちの馬鹿どもが迷惑をかけて申し訳なかった」
深々と頭を下げた。
アリアが慌てる。
「頭を上げてください! フレイさんの責任ではありません」
だがディーンは怪訝な顔をしていた。
それに気づいたフレイが笑う。
「おっと、自己紹介がまだだったね!」
胸を叩く。
「アタシはフレイ・ヴァーミリオン! ここのギルド長だ!」
視線をテスタへ向ける。
「テスタ・ブラムです。ギルド長秘書でございます」
ディーンは腕を組んだ。
「俺はディーン・アース」
少し間を置く。
「でも俺は別に自己紹介をして欲しかったわけじゃない」
全員が静まる。
「アンタもそこの秘書さんも、あのスカーってやつより強いだろう?」
沈黙。
アリアはぽかんとする。
フレイは内心で笑っていた。
(この小僧……アタシだけじゃなくテスタまで見抜いたね)
ディーンは続ける。
「そんなアンタらが何であんなのをのさばらせてるんだ?」
フレイはため息をついた。
「……まぁウチみたいな弱小ギルドにとっては、あんな奴でも貴重な戦力でね」
「そりゃすまなかったな。のしちまって」
「別に構いやしないさ!」
フレイは笑った。
「死んだわけじゃないしね。これに懲りてあいつらも少しは真面目に働くといいんだけどね~」
そして表情を変える。
「それじゃ、そろそろ本題に入ろうかね」
空気が変わる。
「実はアンタたちを呼んだのは、とあるクエストを依頼したいからなんだ」
「依頼?」
アリアとディーンが同時に言う。
「待ってください! 私たちは冒険者じゃないんですよ?」
「そうだね。本来は一般人に頼むことじゃない」
フレイはニヤリと笑う。
「しかしね~ウチの冒険者はそこの小僧にやられちまったからねぇ」
「おいおい! さっきは別にいいって言ったじゃねぇか」
「別にクエストを受けてくれれば全部水に流すよ」
「とんだヤリ手ババァだなぁ」
「……なんか言ったかい?」
今日一番の迫力だった。
「……いいや」
ディーンは肩をすくめる。
「それで、どんなクエストなんだ?」
「テスタ、説明してやんな」
「はい」
テスタが一歩前へ出る。
「今から半年ほど前、町の西側の洞窟から突如魔物が発生しました」
「それは何とか退けましたが、原因を絶つためCランクパーティーを調査に派遣。しかし帰還せず」
「続いてBランクパーティーが向かいましたが……現在も行方不明です」
沈黙。
ディーンが言う。
「つまり俺はその洞窟の調査と原因の排除ってことだな?」
テスタは一瞬だけ言葉を濁す。
「……いいえ」
「アリアさんもご一緒です」
「な、なに言ってんだよ!」
ディーンの声が少し荒くなる。
「アリアには無理だろ!」
「いいえ」
テスタは淡々と答える。
「アリアさんの狙撃技術は相当なものです。それに回復魔法も使えます」
「でも――」
その言葉を遮ったのはアリアだった。
「ディーン。私、行くよ」
覚悟の目。
ディーンはしばらく黙る。
そして諦めたように息を吐いた。
「……しょうがねぇ。俺から離れるなよ」
「うん!」
元気な返事。
「では次の話に進みます」
テスタが続ける。
「このクエストは四人パーティーで行きます。メンバーはお二方とギルド長、そして私」
「え!? テスタさんも行くんですか!?」
ディーンが当然のように言う。
「当たり前だろ。おそらくその秘書さんがこのギルドで一番強いぜ」
三人が固まる。
「なぜそう思ったんだい?」
フレイが聞く。
「動きを見てりゃ分かる。あの大衆の中、誰にも気づかれずに俺たちの前に立った」
「それに立ち姿も普通の人間じゃない」
ディーンはテスタを見た。
「おそらくアサシンってやつだろ」
さらに続ける。
「全盛期は知らねぇが、今はギルド長より秘書さんのほうが強いと思うぜ」
フレイは笑った。
「驚いたね……その通りだよ」
「テスタは元Aランク冒険者だ。アタシの秘書になるために引退しただけでね」
テスタが小さく咳払いする。
「話が逸れましたね。とにかく四人で洞窟攻略を行います」
「分かった。それでいつ行く?」
「明後日の朝からでどうだい?」
「分かった。じゃあ明後日――」
帰ろうとしたディーンをフレイが止めた。
「ちょっと待ちな!」
「どうかしたか?」
「クエストをこなすにあたってやらなきゃならないことが一つあってね」
「やらなきゃいけない事?」
「本来、一般市民はクエストに参加させちゃいけない」
ニヤリ。
「だからアンタ達はこれからこのギルドに仮所属してもらう」
「なるほど……私たちは何をすれば?」
「ランク測定さ」
「テスタ!」
「畏まりました」
テスタの手に、水晶が現れる。
ディーンがツッコむ。
「どこから出したんだよ」
「秘書ですから」
机に置かれる水晶。
説明が始まる。
「Eは白、Dは緑、Cは黄色、Bは青、Aは赤、Sは紫」
「光が強いほど高ランクです」
「分かりました!」
アリアが手を置く。
水晶が輝く。
黄色。
かなり強い光。
「これは……」
フレイが呟く。
「限りなくBに近いCですね」
「やったー!」
アリアが笑う。
「結構強いですよね?」
「ええ。とても優秀です」
テスタが微笑む。
「じゃ、次はディーンだね!」
「お!よーし」
ディーンが手を置く。
全員が見守る。
しかし――
何も起きない。
沈黙。
「……とりあえずEランクにしておきますね」
「マジか……」
珍しく落ち込むディーン。
「大丈夫。ディーンが強いの私知ってるから」
アリアが慰める。
「ではギルドカードは作っておきます。明後日の朝にお越しください」
二人が去る。
部屋に静寂。
「テスタ……アンタあれどう思う?」
フレイが聞く。
テスタはため息をついた。
「……あり得ません」
「どんな人間にも魔力は存在します」
「赤子にすらあります」
「それなのに……あの方は反応しなかった」
一瞬、迷う。
「もしや人間では――」
「落ち着きな」
フレイが笑う。
「しかしとんでもない男だね……ディーン・アース」
天井を見上げる。
「アース……?」
脳裏に一人の男が浮かぶ。
だがすぐに首を振った。
「……まさかね」
その瞬間。
パキッ。
水晶にヒビが入る。
「水晶にヒビ!?」
テスタが驚く。
フレイは大声で笑った。
「あーはっはっは!」
「どこまでアタシを楽しませてくれるんだろうね…ディーン・アース。」
嵐は、静かに動き始めていた。
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申仁です。文字数とか見て思ったんですが第一話より約2倍になってるんですよね~ひゃー恐ろしい
そして出てきました。私のお気に入り【フレイ・ヴァーミリオン】ああいうキャラ大好きなんです。そんな彼女ともども作品をよろしくお願いいたします。次回は6月28日投稿です




