第6話 花の町アントス
夜が明ける。
森の縁から差し込む朝日が、淡い金色で町を照らす。
まだ人影はまばらだが、パン屋の煙突からはすでに煙が上がっていた。
その光の中へ、二人の影が歩み出る。
アリアとディーン。
森を抜けた瞬間、アリアの視界にひとりの男性の姿が映った。
教会の外套を羽織り、町の入口に立つ男。
神父だった。
「神父様!」
アリアは走り出した。
迷いなく、その胸へ飛び込む。
「あぁアリア!! 心配しましたよ」
神父は彼女を抱きしめる。
声が震えている。
「あぁよかった……本当に……」
泣きそうな顔だった。
「すみません……森で魔物に襲われて、それで遅くなってしまいました……でも! 薬草はちゃんと取って来ました」
籠を見せる。
神父は安堵の息を吐く。
「それはよかったです……怪我はありませんか?」
「……怪我はしましたが、回復魔法で治しました」
その一言に、神父の表情が曇る。
「……アリア。薬草が手に入っても、あなたが死んでは意味がないのですよ」
アリアは俯いた。
「ごめんなさい」
ほんの小さな声。
けれどすぐに、ぱっと顔を上げる。
「……そうだ! 神父様、紹介します!」
ディーンの手を引く。
「彼はディーン。彼のおかげで私は森を生きて出ることができました」
神父はすぐにディーンの前へ進み、両手でその手を握る。
「本当にありがとうございます……」
「あ、どうも。ディーン・アースだ。よろしく」
気さくな挨拶。
神父は一瞬、目を細めた。
「ディーン・アース? ……アース、はて? どこかで聞いたことがあるような……」
だが思い出せない。
その空気を、アリアが断ち切る。
「神父様! ディーンは旅の途中なんですけど、しばらく教会に泊めていただけませんか?」
「もちろん。アリアの命の恩人です。好きなだけ泊まってください」
ディーンが少し目を丸くする。
「いいのか?」
その瞬間。
アリアが、少し頬を染めながら言った。
「私も……もっとディーンと一緒にいたいから、泊まってくれたら嬉しいな」
神父、固まる。
「……そういうことか」
俯き、何かを悟ったように呟く。
「神父様?」
次の瞬間。
「アリアはまだ嫁には出しません!!」
町に、神父の叫び声が木霊した。
---
翌朝。
教会の一室。
「おはようディーン。昨日はよく寝れた?」
アリアはいつもの調子で明るい。
「あぁ、俺はどこでも熟睡できるからな~。なんだったら木の上でも寝れる」
少しドヤ顔。
「何それww」
笑い声が弾む。
「そういえば今日はどうする?」
ディーンは少し考える。
「……そうだな。町を歩き回りながら強いヤツの情報でも集めるかな」
すかさず。
「だったら私が案内するよ!!」
前のめり。
「お、おう……よろしく頼むわ」
「うん! まかせて」
ディーンに見えないように、小さくガッツポーズ。
---
アントスの町は、花が多い。
家々の窓辺、教会の庭、広場の周囲。
色とりどりの花が咲き、風に揺れる。
だから人々はこの町を「花の町」と呼ぶ。
「あらアリアちゃん!!」
パン屋のおばちゃんが声を上げる。
「その人は彼氏!? いいわね~」
「ち、ちがいます!!」
否定する間もなく、大量のパンを抱えさせられる。
「ほら持って行きなさい!」
「でも――」
「いいからいいから!!」
最後は、
「お幸せに!!」
で押し切られた。
八百屋でも。
「アリアちゃん! いい男捕まえたわね!」
肉屋でも。
「若いっていいねぇ!」
気づけば、荷物は山盛り。
「……町案内どころじゃなくなっちゃった」
アリアが苦笑する。
食堂へ入る。
「アリアちゃんにはいつも世話になってるからね~。タダで全部調理してあげるよ」
店主が快活に言う。
やがて、テーブルは料理で埋め尽くされた。
「ごめんね、こんなにたくさんもらっちゃって……」
アリアは申し訳なさそう。
ディーンは肉を飲み込み、一言。
「……愛されてるんだな」
アリアは少し照れる。
「うん。私もみんなが大好きなんだ」
少しの沈黙。
「次はどこに行くんだ?」
「う~ん……次はギルドがいいかな。ギルドならディーンの言う強い人に会えるかもしれないし」
「……別に人間じゃなくてもいいんだけどな」
「え?」
「いや、何でもない。そのギルドって所に行こうぜ!」
決定。
だがその前に。
アリアは恐る恐る、目の前の料理を見る。
「……ねぇディーン……この料理ほんとに全部食べるの?」
目の前には、二十~三十人前はあろう量。
ディーンは当然のように答える。
「当たり前だろ? 腹が減ってちゃなんとやらだ!」
そして、再び豪快に食べ始める。
花の町アントス。
再会は、まだ始まったばかりだった。
---
申仁です。ここまでくるとそろそろ誤字脱字とか文章おかしくねとか言われてそうで不安であります
ですので、もし読んでくださっているのなら暖かい言葉をよろしくお願いします次回は6月14日投稿です




