第4話 ある日の森の中
夕暮れの森は、美しい。
だが、その美しさは優しさとは限らない。
沈みかけた陽が木々の隙間から差し込み、地面に長い影を落とす。
空気は冷え始め、昼のざわめきは静寂へと変わりつつあった。
夜行性の魔物が、目を覚ます時間。
アリアはゆっくりと森へ踏み込む。
「……入口付近だけ。深追いはしない」
自分に言い聞かせる。
薬草は、森の奥ではなく比較的入口近くに群生している。
だが、時間が遅い。それだけで危険度は跳ね上がる。
足音を殺し、呼吸を整え、周囲を観察する。
鳥の羽ばたき。
木の軋み。
風の流れ。
異常はない。
やがて、目的の場所へ辿り着いた。
赤みを帯びた葉と、青白い小花。
「はぁ~よかった。なんとか薬草を見つけられた」
安堵が胸に広がる。
籠に丁寧に摘み取り、包み布で保護する。
そのとき。
――ガサリ。
近くの草木が揺れた。
「なっなに!?」
空気が凍る。
心臓が跳ね、指先が冷える。
アリアは素早く銃を抜き、構えた。
草陰から姿を現したのは――
白い毛並みの小型魔物。
【レッサー・ラビット】。
丸い耳。小さな牙。
弱い。村の子どもでも捕まえられる程度の存在。
「なんだぁ~もうびっくりした……」
思わず息が抜ける。
銃を下ろそうとした、その瞬間。
血が飛んだ。
レッサー・ラビットの体が、真横に弾き飛ばされる。
悲鳴を上げる暇もなく、肉が引き裂かれた。
「きゃあっ!!」
草陰から現れたのは、漆黒の毛を持つ狼型の魔物。
【シャドウ・ウルフ】。
低い姿勢。鋭い牙。
目は獲物を逃さない捕食者のそれ。
アリアは再び銃を構える。
「一体だけならなんとかなる。訓練通りやれば大丈夫」
鼓動が早い。
だが、視界は澄んでいる。
そのとき――
背後から気配。
振り向く。
さらに二体のシャドウ・ウルフ。
「……そんな、こんなの無理だよ」
一瞬、絶望が胸を覆う。
だが、すぐに首を振る。
「いや、逃げなきゃ」
撃つ。
最初の一発は足元へ。
土が跳ね、ウルフが一瞬たじろぐ。
その隙に森の中へ駆け出す。
枝が頬を掠める。
足場は悪い。
だが、追撃は速い。
振り向きざま、跳弾を計算する。
近くの木へ弾を撃ち込む。
銃弾が幹で弾き返され、角度を変え――
後方の一体の喉を貫いた。
倒れる。
「よし! まず一体」
止まらない。走りながら装填。
二体目は正面から迫る。
狙いを定める。
息を止める。
引き金。
銃声。
脳天を撃ち抜かれ、地面へ崩れる。
「ふぅ……残り一体」
息が荒い。
肩が上下する。
周囲を見渡す。
――いない。
「どこ? どこからくるの?」
次の瞬間。
上。
枝がしなる音。
シャドウ・ウルフが真上から襲いかかる。
反応が遅れた。
肩を引っかかれ、血が滲む。
「っ……!」
歯を食いしばる。
牙が迫る。
だが、アリアはもう片方の手に握っていた銃を押し込んだ。
開けた口の中へ。
発砲。
内部から炸裂する。
魔物は力を失い、地面へ崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……やったぁ……助かった」
膝が崩れる。
その場に座り込む。
肩の傷に手を当て、静かに詠唱する。
淡い光が傷口を包む。
時間が巻き戻るように、裂けた皮膚が閉じていく。
「……さて、町に帰らなきゃ」
立ち上がろうとした、そのとき。
重い足音。
地面が揺れる。
草陰が、ゆっくりと割れた。
現れたのは、巨大な熊型魔物。
【ダイア・ベア】。
圧倒的な体躯。
筋肉の塊。
その一撃で人は潰れる。
アリアの体が、動かない。
腰が抜ける。
銃を構えることすらできない。
「あ……あ……」
息が震える。
「来ないで……来ないで!!」
叫びは、虚しく森に吸い込まれる。
ダイア・ベアは止まらない。
巨大な前足を振り上げ――
次の瞬間。
音もなく。
首が落ちた。
重い胴体が遅れて崩れ、地面が震える。
アリアは涙を流しながら、呆然と呟く。
「え?」
森の影から、ひとりの男が現れた。
ゆっくりと歩み寄る。
「お前はいつも泣いてるな」
懐かしい声。
十年の時間を越えて。
アリアとディーンの再会だった。
さぁ皆さん申仁ですあっという間の第4話です。と言っても11話まではすべて同じ日に投稿予約しているのでこの文も全て同じ日に書いてるんですよね(笑)このころまで読まれてるかな?とずっと不安に思ってます。どうか色んな人に読まれていますように。次回は5月31日投稿です




