第20話 束の間の……
鍛冶師へ新しい剣の製作を依頼したディーンたちは、その日のうちに宿へ向かっていた。
シュミートの中央区画。
鍛冶屋や工房が並ぶ通りから少し離れた場所に、その宿は建っていた。
「うわぁ……すごい宿だね~」
アリアが、建物を見上げながら感嘆の声を漏らす。
これまでアリアが見てきた宿といえば、木造の小さな建物がほとんどだった。雨風をしのげて、寝台と食事があれば十分。旅人が泊まる場所とは、本来そういうものだと思っていた。
だが、目の前の宿はまるで違った。
外壁は厚みのある石造り。
入口の扉は木ではなく、装飾の施された鉄製だ。重厚な見た目に反して開閉は驚くほど軽く、蝶番から軋む音一つしない。
中へ足を踏み入れれば、床には柔らかな絨毯が敷かれていた。
天井には、シャンデリアを思わせる照明用の魔道具。壁には小さな彫刻や金属装飾が並び、受付台すら一つの工芸品のように磨き上げられている。
宿というより、高級な迎賓館かホテルと呼んだ方が近い。
「確かにな。宿ってのはもっと簡素なもんだと思ってたんだがな」
ディーンも珍しく素直に驚いていた。
受付に立っていたドワーフの女性が、にこやかに微笑む。
「ここは職人の町ですので、宿屋を建てる際にも一流の技術が使われております」
「なるほどな……職人の性ってやつか」
ガルムが納得したように頷く。
「左様でございます」
受付の女性は誇らしげに答えた。
「建物、家具、照明、鍵、調理器具に至るまで、ほとんどが町の職人たちの手によるものです」
「宿一つにそこまでやるのかよ」
ディーンは感心半分、呆れ半分で辺りを見回した。
「職人ってのは、手を抜く方が難しい生き物なのかもな」
「それでは、何泊なさいますか?」
受付の女性が尋ねる。
「一週間でお願いします!」
アリアが元気よく答えた。
「畏まりました。そうなりますと、お一人様銀貨四枚です」
「結構するな……」
ディーンが眉を寄せる。
宿の質を考えれば不当な金額ではない。だが三人分となれば、それなりの出費になる。
少し考えた後、ディーンが受付へ身を乗り出した。
「なぁ。男二人は一部屋でいいから、少し値段をまけてくれないか?」
「そうですね……」
受付の女性は帳簿を確認する。
「では、お二人で銀貨四枚でいかがでしょうか?」
「よし、それで頼むわ」
「畏まりました」
話がまとまったところで、アリアが控えめに手を上げた。
「……ねぇ、ディーン。私も一緒の部屋でいいよ?」
「ダメだ」
ディーンは即答した。
「え?」
「野宿の時や、金がない時とかはしょうがないけどな。なるべく部屋は分けよう」
少しだけ言葉を選んでから続ける。
「女の子なんだから」
アリアは目を瞬かせた。
「ディーン……」
頬がわずかに緩む。
「うん。そうだね」
素っ気ない言い方だった。
だが、きちんと自分を女性として気遣ってくれている。
そのことが、アリアには少し嬉しかった。
銀貨を支払い終えると、受付の女性が二つの鍵を差し出した。
「それでは、こちらがお部屋の鍵です」
「おう。ありがとな」
三人は鍵を受け取り、階段を上った。
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ひとまず、ディーンとガルムの部屋に三人で集まることになった。
室内も外観に負けず、しっかりと作り込まれていた。
二人が横になっても余裕のある寝台。
頑丈な机と椅子。
衣服や荷物を入れる棚。
水を張った洗面用の容器には、温度を保つための小さな魔道具まで付いている。
ディーンは椅子へ腰掛け、背もたれに体重を預けた。
「それで、これから一週間どうする?」
アリアが尋ねる。
「そうだな……」
ディーンは少し考え、ガルムを見る。
「ガルム。俺と鍛錬しないか?」
「俺とか?」
「あぁ」
ディーンは頷く。
「俺は今まで、親父と爺さんとしかまともに鍛錬したことがないからな。まだ、他の人間との戦いに慣れてないんだ」
「……なるほど」
ガルムは腕を組む。
「それで俺を相手に、外の人間との戦い方へ慣れようというわけか」
「そういうこと」
「……いいぞ」
ガルムは短く答える。
「俺も体がなまったら困るしな」
「決まりだな」
ディーンは楽しそうに笑った。
「じゃあ俺たちはそんな感じだ。アリアはどうする?」
「え、えっと……」
アリアは少しだけもじもじしながら答える。
「二人のお手伝いと、それから……さっきここに来る途中の武器屋さんに、銃があるのが見えたから、そこに行ってみたいなって」
ディーンはその様子を見て、少しだけ口元を緩めた。
「じゃあ、一緒に行くか?」
「え!?」
アリアの顔が明るくなる。
「本当に? 行く行く!」
「じゃあ、そんな感じで明日から動くか」
ディーンが話をまとめる。
「了解した」
ガルムが短く答える。
「了解です!」
アリアも真似をするように元気よく言った。
こうして三人は、それぞれの部屋へ戻った。
長い旅と戦いの疲れもあり、その夜は全員が早々に眠りへ落ちていった。
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一日目
翌朝。
三人が向かったのは、町の外れにある広い岩場だった。
鍛冶の町だけあって、鍛錬場として整備された場所もある。地面は固く踏み固められ、多少の衝撃では崩れないよう補強されていた。
「位置について~」
アリアが二人の前へ立つ。
手には拳銃。
「よーい……ドン!」
空砲が鳴る。
同時に、ディーンとガルムが走り出した。
最初は同じ位置からの競走だった。
だが、結果はディーンの圧勝。
次はディーンだけ十メートル後方から。
それでも、途中でガルムへ追いついた。
さらに二十メートル。
三十メートル。
差は少しずつ広がっていき、現在。
ディーンは七十メートル後方からの開始だった。
「よーい、ドン!」
空砲。
ガルムが地面を蹴る。
巨体とは思えない速度だった。
一歩ごとの歩幅が広く、踏み込みも強い。地面が低く震えるほどの脚力で、一気に前へ進んでいく。
だが。
後方から迫る足音があった。
「なっ……!」
ガルムが横目で見る。
ディーンだ。
最初は遠くにいたはずの青年が、ぐんぐんと距離を縮めてくる。
そして残り僅かなところで、横を通り過ぎた。
「お先!」
「くっ……!」
二人はそのまま終点まで走り抜けた。
足を止めると、ガルムは膝に手をつき、荒く息を吐いた。
「はぁ……はぁ……何であそこから速度が上がって、俺を抜けるんだ……化け物め」
ディーンも息を切らしていた。
「はぁ……別に、お前が遅いわけじゃねぇよ」
呼吸を整えながら続ける。
「俺はずっと、こういう鍛錬を積んできた。それだけだ」
アリアが二人へ水を差し出す。
「でも、もっと組手とかやると思ってたよ。なんでこんなに走ってるの?」
「ん? あぁ」
ディーンは水を飲み、口元を拭った。
「走るのは基本だからな」
「基本?」
「戦場で生き抜くには、まず走り抜く体力がないと話にならない」
ディーンは立ち上がる。
「敵から逃げる時も、追う時も、仲間を助けに行く時も、結局は足を使う。技がどれだけ強くても、目的の場所まで辿り着けなきゃ意味がないだろ?」
「なるほど……」
「組手はもう少し後だ」
「ふーん……そうなんだ」
アリアは感心したように頷いた。
地味に見える鍛錬。
けれどディーンは、一つ一つに意味を持たせていた。
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二日目
この日は筋力鍛錬だった。
巨大な岩を背中へ乗せた状態での腕立て伏せ。
普通の人間なら、岩を持ち上げることすらできない。
ディーンは両手を地面につき、額に青筋を浮かべながら腕を曲げていた。
「ぐっ……!」
一回。
二回。
三回。
「チクショー……馬鹿力め!」
隣を見る。
ガルムも同じ大きさの岩を背負っている。
だが、両手ではない。
片手。
それどころか、指だけで体を支えていた。
「悪いな。これは得意分野だ」
口調は淡々としている。
しかし、わずかに勝ち誇った顔をしていた。
「その顔……覚えてろよ……!」
「負け惜しみは、鍛錬が終わってから聞こう」
「言いやがったな!」
アリアは横で数を数えながら、苦笑していた。
「二人とも、競うのはいいけど怪我しないでね?」
「大丈夫だ」
「この程度で怪我するかよ」
二人の返事が重なる。
アリアはため息を吐いた。
「そういうところだけ、息ぴったりなんだから……」
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三日目
三日目は、互いの技を磨くための個別鍛錬となった。
二日間の疲労で、二人の体にはほとんど力が残っていない。
その状態で、正しい動きを維持する。
それが目的だった。
岩場の中央。
ディーンは目を閉じ、ただ立っていた。
何もしていない。
剣も振っていない。
拳も構えていない。
ただ、立っている。
それなのに、全身から汗が流れていた。
額から顎へ。
首から胸元へ。
足元には、すでに小さな水溜まりができている。
「ディーン、すごい汗……」
アリアが心配そうに声をかけた。
しばらくして、ディーンはゆっくり目を開ける。
「これは、正しく立つ鍛錬だ」
「立つだけ?」
「あぁ」
ディーンは姿勢を崩さずに答える。
「正しく立てなきゃ、正しく歩けない。正しく歩けなきゃ、正しく攻撃も防御もできない」
呼吸を一つ。
「これが全ての基礎だ。基礎であり、一番大事なものでもある」
「これ、どれくらいやってるの?」
「そうだな……七時間ぐらいか?」
「七時間!?」
アリアの声が裏返る。
「そんなにやってたの?」
「あぁ。それよりガルムは?」
「ガルムさんなら、向こうで大っきな剣振ってたよ。でも、かなりフラフラだったけどね」
アリアは両手で大剣を振る真似をする。
「そうか」
ディーンは、わずかに笑った。
(さすがだな、アイツ。分かってるな)
一方。
少し離れた岩場では、ガルムが二本の大剣を合体させ、巨大な一本の剣として構えていた。
「ふっ……!」
振り下ろす。
だが、体が剣の重さに引かれる。
「くっ……!」
足元が揺れる。
(クソッ。疲れで体が持っていかれる……!)
「ぬあっ!」
気合で姿勢を戻す。
だが、次の一振りも安定しない。
「はぁ……はぁ……体に力が入らねぇ……どうしたら……」
ガルムは息を整えながら考える。
ふと、ディーンの姿が頭に浮かんだ。
「あいつは、小柄で細いのに……何であんな力があるんだ?」
腕力だけなら、自分の方が上だ。
それなのにディーンの打撃は重く、剣撃にも芯がある。
「……そうか」
ガルムは足の置き方を変えた。
「腕だけじゃない。全身の力を使って……もっと体の中心を……」
腰を落とす。
足から生まれた力を腰へ。
腰から肩へ。
肩から腕へ。
再び大剣を振る。
先ほどよりも、わずかに滑らかだった。
「……これか」
ガルムの瞳に、静かな光が宿る。
疲労は敵ではない。
自分の未熟な部分を、容赦なく暴く鏡だった。
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四日目
この日から、素手での組手が始まった。
「行くぞ!」
ガルムの拳が、ディーンの顔面へ迫る。
大きい。
錯覚ではない。
ガルムの拳は、ディーンの頭と同じほどの大きさに見える。
まともに受ければ、頭蓋など簡単に砕けるだろう。
「【家伝体術・流水】」
ディーンは拳へ軽く触れた。
受け止めない。
僅かに軌道を逸らし、その力を利用してガルムの巨体を投げる。
「ぬっ……!」
ガルムの背中が地面へ近づく。
だが、落ちる寸前。
「ふんぬ!!」
巨体を強引に捻り、足から着地した。
「やるな!」
ディーンはすでに追撃へ入っている。
脇腹を狙った蹴り。
ガルムは腕で防ぐ。
衝撃音。
巨体が一歩だけ横へ滑った。
「なかなかやるじゃねぇの」
ディーンが楽しそうに笑う。
「何を言う。まだまだこれからだ!」
ガルムが踏み込んだ。
拳。
肘。
膝。
巨体を活かした猛攻。
だが、ディーンには当たらない。
流される。
躱される。
掴まれる。
やがて。
「はぁ……はぁ……」
ガルムは地面へ仰向けに倒れていた。
「もう一歩も動けん……全然当たらん」
ディーンは、近くで涼しい顔をして立っている。
「武器さえあれば……」
ガルムが悔しそうに呟く。
ディーンは、にやりと笑った。
「……そうだな。武器があれば、もう少しましだったかもな」
「その言い方、腹が立つな」
「なら立ってもう一回やるか?」
「今は無理だ」
即答だった。
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五日目
木剣を使った組手。
疲労はすでに頂点へ達している。
筋肉は重く、関節は軋む。
普段なら簡単にできる動作すら、意識しなければ崩れてしまう。
それでも二人は構えた。
「行くぞ」
「あぁ」
地面を蹴る。
木剣がぶつかり合う。
乾いた音が、岩場に響いた。
速い。
以前戦った時と同じ。
いや、それ以上。
ガルムは驚きながら、ディーンの木剣を受ける。
「これは驚いたな……以前より速い?」
「いや」
ディーンは攻撃を続けながら答える。
「前より無駄がなくなってるんだ」
「無駄?」
「身体は疲れると、体力を温存したがる」
木剣を斜めに振り下ろす。
ガルムが受け流す。
「つまり、前と同じように動くには、動きの無駄を省く必要がある」
「なるほどな!」
ガルムが、流した力を利用して反撃する。
「分かったところで、続けるぞ!!」
「望むところだ!」
ディーンが斬りかかる。
ガルムは受け流し、その力を利用して斬り返す。
ディーンは【家伝体術・木ノ葉】で、力の流れへ体を合わせるように躱した。
そのまま反撃へ移ろうとした瞬間。
ガルムの蹴りが飛んできた。
ディーンは腕で防ぐ。
「随分、足癖が悪くなったじゃねぇか」
「お前が相手では、行儀よくとはいかんだろう」
ガルムが笑う。
「違いねぇ!」
二人は再びぶつかった。
木剣の音は、日が傾くまで途切れなかった。
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六日目
この日は一日、完全な休みとなった。
疲労を回復させるため。
そして、鍛錬で得た感覚を体へ定着させるためである。
朝。
部屋の寝台で横になっていたディーンの耳に、扉を叩く音が届く。
「ディーン! 銃を見に行こう!」
「ん?」
ディーンはゆっくりと起き上がった。
「あぁ……そうだったな。行くか」
(マジか……すっかり忘れてた)
全身が重い。
正直に言えば、一日中寝ていたかった。
(買い物に付き合うって言ったもんな……正直休みたいが、それは言えんな)
ディーンはその思いを、決して口にはしなかった。
身支度を整え、アリアと共に町へ出る。
目当ての武器屋には、さまざまな銃が並んでいた。
長銃。
短銃。
回転式の弾倉を持つもの。
魔力を込めることで弾丸の威力を高めるもの。
アリアは店へ入った瞬間から、瞳を輝かせていた。
「この銃、銃身が短いのに反動が少ないんですね」
「お嬢ちゃん、よく分かるね。内部に衝撃を逃がす機構が入ってるんだ」
「こっちは魔力式ですか?」
「あぁ。弾丸に属性を乗せられる。ただし整備が少し面倒だ」
「へぇ……!」
アリアは店主と熱心に話し込んでいる。
ディーンには、何を話しているのか半分も分からなかった。
銃身。
口径。
反動。
魔力伝導率。
専門用語が次々と飛び交う。
ディーンは少し離れた場所で壁にもたれ、その姿を眺めていた。
(あんなに楽しそうにしやがって……)
自然と、口元が緩む。
(来てよかったな)
アリアがふと振り返る。
「ん? どうしたの、ディーン?」
ディーンの気持ちなど、まるで気づいていない顔だった。
「なんでもねーよ」
ディーンは笑って答える。
アリアもつられるように笑った。
束の間。
本当に僅かな時間。
戦いも、使命も、不穏な影もない。
ただ、少女が好きなものを見て笑い、青年がその笑顔を見守る。
そんな静かな幸せが、ゆっくりと過ぎていった。
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七日目
「ディーン! ガルムさん! さぁ行きましょう!」
朝からアリアは元気だった。
「はいよ」
ディーンは荷物を肩へ担ぐ。
「ガルム、疲れは取れたか?」
「あぁ。昨日一日寝たから完全回復だ」
ガルムは肩を回す。
関節から低い音が鳴った。
「そりゃよかった」
三人は宿を出て、鍛冶屋へ向かった。
一週間。
短いようで長かった。
ディーンとガルムは互いの技を知り、アリアもまた、二人を支えながら町での時間を過ごした。
そして今日。
新しい剣が完成する。
「ごめんくださーい!」
アリアが扉を開ける。
「鍛冶屋のおっさん、入るぞ」
「おう! 小僧、来たか!」
奥から、鍛冶師の声が返ってきた。
なぜか機嫌がいい。
「ディーン。鍛冶師さんにオッサンなんて失礼だよ?」
アリアが小声で注意する。
鍛冶師は豪快に笑った。
「がっはは!! いいさ。ほんとの事だしな!」
「おっさん、やけに機嫌がいいな」
「そりゃあ、最高傑作が出来たからな」
鍛冶師は奥へ引っ込み、細長いものを持って戻ってきた。
「ほれ」
ディーンへ差し出す。
それは剣ではなかった。
細く、僅かに反った鞘。
ディーンが受け取る。
「お前さん、剣よりこっちの方がいいだろうと思ってな」
柄へ手をかけ、ゆっくりと引き抜く。
「……刀か」
現れた刃は、青紫の光を帯びていた。
磨かれた刃の奥で、夜のような色が揺れている。見る角度によって青にも紫にも変わり、どこか妖しい。
妖刀。
そんな言葉が自然に浮かぶ姿だった。
「正真正銘、俺の最高傑作だ!」
鍛冶師は胸を張る。
「材料は、お前さんの折れた剣と【ツェル・レーヴェ】の牙。それから、俺秘蔵の鉱石を少し混ぜてある」
刃を見つめながら続ける。
「名前はそうだな……【瑠璃椿姫】なんてのはどうだ?」
「瑠璃椿姫か……」
ディーンは刀を軽く傾ける。
青紫の刃に、窓から差す光が流れた。
「悪くないな」
にやりと笑う。
「よし! 早速、試し斬りしてみろ!」
鍛冶師は待ちきれない様子で、奥から巻き藁を持ってきた。
「こいつは前回のより頑丈だ。芯材も増やしてある」
巻き藁を立てる。
「まぁ、その刀なら大丈夫だろう」
ディーンは巻き藁の前へ立った。
刀を構える。
そう思われた。
だが。
ディーンは刀を振り上げなかった。
刃を巻き藁へ、軽く当てる。
「おいおい。いくら何でもそれじゃ――」
鍛冶師が言いかけた瞬間。
ディーンは、僅かに腕を引いた。
抵抗がない。
まるで豆腐へ刃を通すように。
いや、水面を指でなぞるように。
月斬の刃が、巻き藁の中へ沈んでいく。
「な!? 何ぃ!!」
鍛冶師が目を見開いた。
巻き藁は音もなく分かれた。
斬ったというより、初めから二つだったものが離れたような切断面。
ディーンは刀を見つめる。
「なんとなくだが、出来るような気がしていたんだ」
刃に自分の顔が映る。
「コイツなら」
ガルムも驚きを隠せなかった。
「ここまで凄いのかよ……」
「やったね! ディーン!」
アリアが自分のことのように喜ぶ。
ディーンは瑠璃椿姫を鞘へ納めた。
「じゃあ、おっさん。コイツ貰っていくぜ」
「おうよ!」
鍛冶師は満足そうに笑う。
「そいつで天下取っちまいな!」
「天下か。面白そうだな」
「ディーン、真に受けないの」
アリアが苦笑する。
三人は鍛冶師へ礼を告げ、店を出た。
新しい刀。
新しい仲間。
町で過ごした穏やかな一週間。
次の旅へ向けて、すべてが順調に進んでいるように思えた。
その時だった。
――ビーッ! ビーッ! ビーッ!
耳をつんざくような音が、町中に響き渡った。
「何だ!?」
ディーンが振り返る。
煙突の上に設置された赤い魔道灯が、一斉に点滅する。
町を行き交っていたドワーフたちの表情が変わった。
店の扉が閉められる。
職人たちは道具を置き、武器を取る。
兵士たちが城壁へ向かって駆け出した。
穏やかだった町の空気が、一瞬で張り詰める。
『緊急警報! 緊急警報!』
硬い声が、町中へ響いた。
『住民は直ちに避難区画へ移動してください! 繰り返します! 住民は直ちに避難区画へ――』
ディーンは断鋼の柄へ手を置く。
ガルムは背負った大剣へ手を伸ばした。
アリアも二丁の銃を抜く。
三人は同時に、城門の方角を見る。
束の間の平穏は、終わりを告げた。
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第20話 了
皆さんこんにちは申仁です。今回は修行をメインで書いてみました。なぜなら私は修行シーンが大好きだからです(笑)では次回お会いしましょう




