第2話 刻は巡り…
――その後。
ヴォーダンの言葉どおり、レギオンたちは世界から姿を消した。
国は彼らを拒み、世界は彼らを忘れた。
追放という形で、歴史の外へ押し出されたのだ。
彼らがどこへ行ったのか。
何を選び、何を捨て、どう生きたのか。
それを知る者は――地上世界には、誰ひとりとして残っていない。
やがて、時は流れた。
一年が十年になり、
十年が百年になり、
百年が千年になり――
そして、一万年。
世界は変わった。
国は生まれ変わり、言葉は移ろい、かつての戦争の爪痕は伝承の中へと溶けていった。
【ヴォーダン】という名を、誰も口にしない。
【レギオン】という名を、誰も覚えていない。
記録はほとんど失われ、石板は砕け、書物は風化した。
天界と魔界の滅びすら、いまや学者の間で議論される「仮説」に過ぎない。
――ただひとつ。
奇妙な形で残ったものがあった。
童話。
子ども向けに語られる、ひどく単純で、ひどく悲しい物語。
題名は【悲しき英雄】。
そこに名前はない。
語られるのは、魔王と、それを倒した悲しき英雄。
英雄は国を救い、
英雄は感謝されず、
英雄は追放される。
それで終わり。
理由も、続きを匂わせる言葉もない。
英雄が何を思い、何を選んだのかは語られない。
脚色に脚色が重ねられ、
真実は削ぎ落とされ、
物語は「教訓」として丸め込まれた。
それでも――
世界は今日も廻っている。
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ぱち、ぱち、と小さな音。
木造の家の中。
暖炉の前で、ひとりの老人が椅子に腰掛けていた。
膝の上には、古びた一冊の本。
表紙には、かすれた文字でこう書かれている。
――【悲しき英雄】。
老人は、ゆっくりとページを閉じた。
「こうして、悲しき英雄は国から追放されましたとさ」
語り終えた声は穏やかで、どこか眠たげだ。
向かいには、小さな男の子が座っていた。
布の毛布にくるまり、目をきらきらさせている。
「ねぇ、おじいちゃん」
男の子は身を乗り出した。
「続きは? 続きはどうなったの?」
その問いに、老人は少しだけ困ったように笑う。
そして、首を横に振った。
「このお話は、これで終わりなんじゃよ」
ページを指で軽く叩きながら、続ける。
「この先、どうなったかは……誰も知らないんじゃ」
男の子は口を尖らせた。
納得できない、という顔だ。
「えー……なんか可哀そうだよー」
そして、ぽつりと。
「英雄さんには、幸せになってほしいよー」
そのまま、老人に抱きつく。
老人は少し驚いたあと、ゆっくりと孫の背を撫でた。
「そうじゃなぁ……」
視線を、窓の外へ向ける。
夕暮れの空。
赤く染まる雲。
遠くで鳥が鳴いている。
「たしかに、そうじゃの」
老人は、穏やかに笑った。
「……でも、もしかしたら」
その声は、風に溶けるように静かだった。
「どこかで、幸せに暮らしてるかもしれないな」
男の子は何も言わず、ただ抱きついたままだった。
暖炉の火が、ぱちりと鳴る。
――そして。
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場面が、切り替わる。
森の近くを走る街道。
踏み固められた土の上を、風が吹き抜ける。
そこを歩く、ひとりの青年。
旅装を背負い、淡々と歩を進める後ろ姿。
その青年が、ふと足を止めた。
「ん?」
皆さんどうも申仁です。まだまだこちらのサイトに慣れてない新人です(笑)
まだまだ展開が遅いと思いますが申し訳ありません。もう少しで主人公が登場するので今しばらくお待ちください。それでは、次回は5月10日に投稿されます




