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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第87話 学園上場! 武力(チート)ではなく「経済(M&A)」で世界を裏から支配しますわ。

 【場所:世界魔界株式市場(旧・ダンジョン学園講堂)】

 【日時:新年度 大安吉日】

「……皆様、本日は歴史的な日ですわ。世界中の投資家カモたちが、私たちの足元にひれ伏す第一歩ですの」

 私は、純白のドレス(最高級の魔導防刃繊維)に身を包み、講堂の壇上に立っていた。

 背後には、巨大な電光掲示板。そこには「株式会社ダンジョン・ホールディングス(旧・私立ダンジョン学園)」の文字と、右肩上がりに急上昇する株価のチャートが輝いている。

「オーナー……いえ、社長。ついに、本当に『上場』してしまったんですね。魔界の金融庁から何度も警告が来ていましたが……」

 田中さん(新CFO:最高財務責任者)が、分厚いコンプライアンスの書類を抱えて胃薬を噛み砕いている。

「警告? ああ、あの監査官たちなら、自社株のストックオプションを握らせたら喜んで帰りましたわ。……さあ、いよいよ『卒業式(入社式)』の始まりですわよ」

 私は黄金の木槌を振り上げ、市場の開始を告げるベルを高らかに鳴らした。

 カーーーン!!

 講堂に整列しているのは、かつての生徒たちだ。

 しかし、彼らの目はもはや「カモ」のそれではない。幾多のデスゲーム、バイオハザード、巨大海鮮との死闘を生き抜いた、獰猛な「企業戦士サバイバー」の顔つきである。

 彼らの手には、卒業証書の代わりに「辞令」と「アタッシュケース」が握られていた。

「よく聞け、新入社員どもォォ!!」

 壇上に飛び乗ったのは、スーツを無理やり筋肉で弾け飛ばしたレオニダス(海外事業本部長)だ。

「今日から貴様らは、世界中の未開拓ダンジョンへ赴き、現地のモンスターを『物理的』に説得(制圧)し、我が社のフランチャイズ・ジムを建設するのだ! 目標は全人類のマッスル化! 筋肉は最大の資本アセットだァァ!」

「「「イエッサー!! マッスル・コミットメント!!」」」

 社員たち(旧・体育科)が、雄叫びを上げて書類に判を押す。

「ふふっ。私の研究室(R&D部門)も負けないよ。あの『洗脳カビ』や『寄生スライム』を特許出願して、世界中の医療と美容業界を独占するからね。……逆らう国には、胞子を撒くだけだし」

 クルミ(最高技術責任者)が、怪しく光る試験管を揺らしながら黒い笑みを浮かべた。

「……余の出番だな」

 魔王ヴァネス(M&A特命担当役員)が、大鎌の代わりに「買収提案書」を持って進み出る。

 

「武力で国を滅ぼすなど三流のやること。余は、敵対する王国の国債を買い占め、インフラを掌握し、合法的に王を玉座から引きずり下ろしてやる。……フハハ! 経済による侵略、なんと優雅なことか!」

 かつての魔王は、資本主義という最強の魔術に完全に魅了されていた。

 その時。

 講堂の天井が轟音と共に吹き飛び、巨大な漆黒のドラゴンに乗った「真・魔王軍」の軍勢が空を覆い尽くした。

『愚かな人間どもよ! 貴様らの腐った経済ごっこもここまでだ! 我ら真・魔王軍が、すべてを灰燼に帰してくれよう!』

 世界を滅ぼす圧倒的な武力。

 通常であれば、勇者が立ち上がる場面だ。しかし――。

「……田中さん。アレ、手はず通りに進んでいますこと?」

「ええ、社長。昨晩の時点で完了しております」

 私は扇子を口元に当て、空に浮かぶ真・魔王を見上げてニッコリと笑った。

「ようこそ、新入社員の皆様!」

『……は? 何を狂ったか、人間!』

「狂っているのは貴方たちの財務状況ですわ。真・魔王軍の皆様。貴方たちの魔王城の土地権利書、および武器の調達ルート、そして兵士の給与振込口座。……すべて、我がダンジョン・ホールディングスが過半数の株式(権利)を取得済みですわ」

『な、なんだと!?』

 私が指を鳴らすと、空中のドラゴンたちが突如としてピタリと動きを止めた。彼らの首輪には、我が社のロゴマークが光っている。

「ドラゴンへの餌代(リース料)も我が社が肩代わりしていますの。つまり、今日から貴方たちは『ダンジョンHD・防衛事業部』の所属。……今すぐその槍を下ろして、タイムカードを切りなさい!」

『ば、馬鹿な! 我が軍の誇りが……金で買われたというのかァァァッ!!』

 真・魔王の悲痛な叫びが響き渡る。

 しかし、彼の部下たちは早々に武器を捨て、「福利厚生はありますか?」「週休二日制ですか?」と田中さんに群がり始めていた。

 こうして、世界最大の脅威は、一滴の血も流すことなく「完全子会社化」されたのである。

 

 数ヶ月後。

 世界地図は、国境ではなく「ダンジョン・ホールディングス」の支店ネットワークによって塗り替えられていた。

 勇者は魔王を倒すのではなく、当社の「優良な営業マン」として派遣され。

 魔王は世界を滅ぼすのではなく、当社の「取締役」として株主総会で頭を下げている。

「……完璧ですわ」

 私は、最上階の社長室(かつての理事長室)から、黄金に輝く街の夜景を見下ろした。

 後ろでは、田中さんが相変わらず山積みの書類(世界中から集まる利益の報告書)と格闘している。

「社長。……ついに、世界を征服しましたね」

「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。私はただ、世界中のお客様に『適切なサービス(試練)』を提供し、ほんの少しの『対価(暴利)』を頂いているだけですわ」

 私は手元のワイングラス(最高級の回復ポーション入り)を掲げた。

「さあ、明日は天界(神々の領域)の不動産を買収する計画のプレゼンですわよ! 休んでいる暇はありませんわ!」

 ダンジョンから始まった優雅な生活(小さなぼろ儲け)の物語は、こうして世界経済を飲み込む巨大な帝国へと成長を遂げた。

 武力も魔法も、最後は「金(資本)」の前にひれ伏す。

 彼女の飽くなき欲望が尽きない限り、この狂おしくも美しい資本主義のデス・マーチは、永遠に終わらないのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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