第86話 狂気の魔界文化祭。「メイド喫茶」のサキュバスが、客の財布と生気を吸い尽くします。
【場所:私立ダンジョン学園 正門前(文化祭入場ゲート)】
【日時:10月某日 文化祭当日】
「……絶景ですわね。見渡す限りの『カモ』の群れですの」
私は、正門の屋上に設置された特等席から、眼下に広がる長蛇の列を見下ろしていた。
今日は、年に一度の「魔界文化祭」。
近隣の街や他国から、スリルと非日常を求めて数万人の一般客が押し寄せている。
入場料は一人・銀貨10枚。この時点ですでに莫大な利益だ。
「オーナー……。客層が『命知らずの冒険者』か『裏社会の金持ち』ばかりなんですが」
田中さんが、入場ゲートの金属探知機(魔力で発光するアーチ)の警告音が鳴りやまないのを見て震えている。
「当然ですわ。今年の文化祭のテーマは『究極の自己責任』。……さあ、生徒たちの『集金システム(出し物)』を視察に行きますわよ」
私たちはまず、2年A組の出し物である「サキュバス・メイド喫茶」を訪れた。
教室のドアを開けると、甘ったるい香りとピンク色の煙が漂っている。
「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ……♡」
露出度の高いメイド服を着た本物のサキュバス(留学生)や、魅了魔法を極めた女子生徒たちが、客たちにまとわりついていた。
「へへへ……。オムライスに魔法をかけてくれよ……」
「はいっ♡ 『ドレイン・キュンキュン・ラブ注入(生気吸引)』!」
シュガァァァッ!!
メイドが指でハートを描いた瞬間、客の顔色が一気に土気色になり、代わりにメイドの肌がツヤツヤに輝いた。
「ひぃっ!? 客の寿命が縮んでますよ!」
「あら、素晴らしいオプション商法ですわ。生気を吸う代わりに、追加料金の金貨を巻き上げているのね。……客も本望のような顔をしていますし、見事なウィン・ウィンですわ」
私は、財布を空っぽにされて廊下に放り出される客たちを踏み越え、次の教室へ向かった。
次は、1年C組の「ガチ・ホラー・マンション(お化け屋敷)」だ。
入り口には、白衣を着たクルミと、不敵に笑う魔王ヴァネスが立っていた。
「ようこそ、ベアトリス。余が直々に『冥界の扉』を繋いでおいたぞ。本物の悪霊とゾンビが歩き回る、極上のエンターテインメントだ」
「驚かせるだけじゃないよ! 客が恐怖で気絶したら、ドロップしたアイテムや所持金を『回収スライム』が自動で集めるシステムなんだ!」
クルミが誇らしげに胸を張る。
「……なるほど。入場料を取りつつ、中での『落とし物』も回収する。完全なる資源の循環ですわね」
「ギャアアアアア!! 呪われるゥゥゥ!!」
屋敷の中から、冒険者たちの悲鳴と共に、チャリンチャリンと硬貨がスライムに飲み込まれる心地よい音が響いてきた。
校庭に出ると、そこにはひときわ異彩を放つ屋台があった。
「いらっしゃいマッスル!! 究極の『プロテイン・パンケーキ』だァァ!!」
レオニダスが、赤フン一丁で巨大な鉄板の前に立ち、フライ返しを振るっていた。
彼の周りには、筋肉を愛する屈強な男たち(と一部の熱狂的な女子)が群がっている。
「先生! パンケーキに『大胸筋のトッピング』をお願いします!」
「よォォし! 見よ、このパンプアップ!! 『マッスル・ポージング・サイドチェスト』!!」
バキィィィッ!!
レオニダスがポーズを決めた瞬間、筋肉の圧力でパンケーキがプレスされ、見事なシックスパックの焼き目がついた。
「おおおお! ありがてぇ!」(客が金貨を投げ銭する)
「……原価数十円のプロテイン粉末が、筋肉の付加価値で金貨に化けましたわ。あの男、ただの脳筋かと思いきや、優秀なパフォーマーですわね」
夕方。
後夜祭のキャンプファイヤー(オークのボブが火炎魔法で火柱を上げている)を遠目に眺めながら、私は理事長室で売上の集計を行っていた。
「……過去最高益ですわ。去年の3倍は軽く超えていますの」
机の上には、金貨や宝石の山が築かれている。
しかし、私の心には、いつもの高揚感とは少し違う、不思議な感情が芽生えていた。
「オーナー。どうしました? 笑いが止まらないはずなのに、どこか物足りなさそうな顔をして」
田中さんが、お茶を淹れながら不思議そうに首を傾げた。
「……ええ。少し、感慨深くなりましてね」
私は窓の外を見つめた。
そこには、理不尽な環境を生き抜き、たくましく(そして強欲に)育った生徒たちの姿がある。
彼らはもう、ただの「カモ」ではない。
私の教えを完璧に吸収し、自らビジネスを生み出し、ダンジョンという過酷な世界を「利益」に変える術を身につけた「立派な経営者」たちだ。
「田中さん。……この学園という『箱庭』は、もう完成してしまいましたわ」
「え……? それは、どういう……」
「生徒たちは育ち切りました。これ以上、この小さな街のルールだけで彼らを囲うのは、もったいないと思いませんこと?」
私は扇子をパチンと閉じ、立ち上がった。
その目には、学園の枠を超えた、さらに巨大な野望が燃えている。
「次のステップに進む時が来ましたわ。ダンジョン・シティを……いえ、この世界全体の経済を、私が直接支配する時が!」
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