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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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85/88

第85話 夏の臨海学校。遠泳コースの障害物は「巨大クラーケン(高級食材)」ですわ。

 【場所:魔界近海・プライベートビーチ(学園所有)】

 【日時:7月下旬 臨海学校・初日】

「……最高のロケーションですわね。潮の香りが、まるで金貨の匂いのようですの」

 私は、冷えたトロピカルジュースを片手に、豪華なパラソルの下で優雅に微笑んだ。

 目の前には、コバルトブルーの海と白い砂浜が広がっている。

 そして波打ち際には、お揃いのスクール水着(防刃・耐魔法仕様)を着せられ、なぜかもりや水中銃を持たされた生徒たちが整列していた。

「オーナー。……これ、本当に『遠泳』の授業なんですか? どう見ても『決死隊の出撃前』なんですが」

 田中さんが、麦わら帽子を押さえながら胃薬を飲んでいる。

「ええ、伝統的な遠泳ですわよ。沖合に見えるあの赤いブイまで泳いで、戻ってくるだけ。……ただ、少しばかり『障害物』がいるだけですわ」

 私が指差した沖合の海面が、不自然に黒く濁り、ブクブクと巨大な泡を立てていた。


「よく聞けェェェッ!! 男も女も関係ない! 海は命の洗濯場であり、弱肉強食の闘技場だ!」

 真っ赤な競泳水着ブーメランパンツを穿いたレオニダスが、メガホン片手に吠えた。

 彼の筋肉は、サンオイルと汗でギラギラと反射し、もはや凶器の輝きを放っている。

「今年の遠泳の合格条件はただ一つ! 『生きて砂浜に生還すること』! そしてボーナス条件は『今日の夕食メインディッシュを狩ってくること』だ!」

「「「イエッサー!!」」」

 パァァァン!!

 スタートの号砲ロケットランチャーが鳴り響く。

 生徒たちが一斉に海へ飛び込んだ。

 しかし、彼らが50メートルほど泳いだその時――。

 ザバァァァァァァッ!!

 海面が爆発し、巨大な触手が何十本も天に向かって突き出された。

 体長30メートルを超える深海の悪魔、「巨大クラーケン(ダイオウイカの亜種)」の出現である。

「出たな、海の主! 目標確認!」

「陣形を組め! 魔法科は後方から支援! 体育科は銛で目を狙え!」

 生徒たちはパニックになるどころか、完璧なフォーメーションを組み始めた。

 彼らにとって、これは恐怖ではない。「夕食シーフードの確保」である。

 『 ギ ュ ル ル ル ル ゥ ゥ ッ !! 』

 クラーケンが怒り狂い、丸太のような触手を生徒たちに叩きつける。

「危ないッ! 触手のなぎ払いが来るぞ!」

「甘ァァァいッ!!」

 バゴォォォォン!!

 海面を割って飛び出したレオニダスが、空中で触手を受け止めた。

 彼は高速のバタフライでクラーケンに肉薄していたのだ。

「見よ! この見事な吸盤! そして弾力! まさに高タンパク・低脂質の極み! イカは筋肉の最高のベストフレンドだァァ!」

「先生、解説はいいから早く倒して!」

 レオニダスは触手を脇に抱え込むと、海上でまさかの「ジャイアントスイング」を始めた。

 遠心力でクラーケンの巨体が海面から引きずり出される。

「今だよ! 魔法科、一斉掃射!」

 浮輪に乗ったクルミが、防水仕様の魔導ロケットランチャーを構えた。

「『対潜爆雷デプス・チャージ・ウォーターボム』!!」

 チュドォォォォン!!

 水中爆発の衝撃波がクラーケンを直撃し、巨大なイカが白目を剥いて海上に浮かび上がった。

「……ふん。手ぬるいな」

 砂浜のビーチチェアで寝そべっていた魔王ヴァネスが、サングラスを外して立ち上がった。

 彼女は黒いビキニ姿のまま、海に向けて手をかざす。

「余は刺身より、ボイルした方が好みだ。……『焦熱地獄インフェルノ・海面沸騰』」

 ボコボコボコォォォッ!!

 ヴァネスの魔法により、クラーケンの周囲の海水が一瞬にして熱湯へと変化した。

 

 『 ギャピィィィィィッ!? 』

 クラーケンの体色が、生々しい黒色から、食欲をそそる見事な「桜色」へと変わっていく。

 文字通りの「巨大イカの釜茹で」の完成である。

「……お見事ですわ。最高の茹で加減ですの」

 私は双眼鏡を覗きながら、拍手を送った。

 夕方。

 砂浜には、茹で上がったクラーケンの巨体が引き上げられ、キャンプファイヤーのように囲まれていた。

「やったぜ! 今夜はイカ焼き食べ放題だ!」

「レオニダス先生が、触手を輪切りにしてくれてるぞ!」

 生徒たちは疲労困憊ながらも、手に入れた「巨大イカリング」や「特大イカ焼き」に舌鼓を打っている。

 高タンパクの海鮮は、彼らの筋肉と魔力を瞬時に回復させていた。

「オーナー、大漁でしたね。生徒たちも満足そうです」

 田中さんが、ホッと胸を撫で下ろしている。

「ええ。ですが、私たちの本番はこれからですわよ」

 私は、学園の所有する「海の家」のシャッターを開け放った。

 そこには、余った大量のクラーケンの肉と、大量の小麦粉、そして屋台の設備が用意されている。

「さあ、田中さん! この極上クラーケンの肉を使って、明日から一般客向けに『魔界特製・ジャンボたこ焼き(イカだけど)』を販売しますわよ! 1パック・銀貨5枚! ぼろ儲けの夏祭りの始まりですわ!」

「……結局、最後はビジネスなんですね」

 こうして、生徒たちの血と汗の結晶イカは、私の海の家の看板メニューとなり、この夏の最高利益を叩き出すことになったのである。

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