第83話 真の「黄金週間」。純金スライムの重みで、街が物理的に沈没します。
【場所:ダンジョン・シティ 中央管理室】
【日時:5月上旬 ゴールデンウィーク真っ只中】
「……素晴らしい光景ですわ。モニター越しでも眩しくて目が潰れそうですの」
私は、特注のサングラス(UV&魔力カット仕様)をかけ、巨大モニターを眺めていた。
映し出されているのは、ダンジョン第50階層「奈落の水晶洞」。
普段は薄暗いその階層が、今は黄金の輝きで埋め尽くされている。
「オーナー! 笑い事じゃありません! 第50階層で『ゴールドスライム』が異常繁殖しています!」
田中さんが、血相を変えて飛び込んできた。
ゴールドスライム。1匹倒せば純金1キロ相当のインゴットをドロップする、超希少モンスターだ。それが今、何万匹とひしめき合っている。
「まさに『ゴールデン』ウィークですわね! さあ田中さん、臨時入場ゲートを増設なさい! 入場料は通常の10倍、いや50倍! 捕獲用の『チタン製アミ』も1本・金貨10枚で売り捌きますわよ!」
「もうやってますよ! でも問題はそこじゃないんです!」
田中さんがモニターの「環境データ」を指差した。
「……第50階層の『総重量』が、限界値を突破しようとしています!」
【場所:第50階層】
「ヒャッハー!! 金だ! 金が歩いてるぞォォ!」
「取れ取れェ! これで一生遊んで暮らせる!」
階層内は、一攫千金を夢見る冒険者や、学園の生徒たちで溢れかえっていた。
彼らは目の色を変え、ピカピカ光るスライムに飛びかかっている。
「ふははは! 素晴らしい! この純度なら、最高の『純金製ダンベル』が鋳造できるぞ!」
レオニダスも参戦していた。
彼は両腕にゴールドスライムを何匹も抱え上げ、その重みで大胸筋をピクピクさせている。
「見ろ、この密度! 鉄の2倍以上の比重(19.3)だ! スライム1匹で30キロはある! まさに歩くウエイトトレーニングだァ!」
「先生、筋トレしてないで袋に入れて! 私の研究費が稼げるチャンスなんだから!」
クルミが、魔法の袋に次々とスライムを吸引していく。
誰も彼もが、己の欲望の赴くままに黄金をかき集めていた。
しかし、彼らは忘れていた。
「金は、とてつもなく重い」という物理法則を。
ピキッ……ミシミシィッ……!!
突然、ダンジョン全体を揺るがす不気味な音が鳴り響いた。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「天井からヒビが……!」
中央管理室のモニターに、真っ赤な警告が表示される。
『警告:第50階層の地盤崩落の危険性・99%。街全体への影響・大』
「……あら?」
「だから言ったじゃないですか!!」
田中さんが頭を抱えた。
異常繁殖した何万匹ものゴールドスライムの重量。それに加え、冒険者たちが欲張って一箇所に集めた「純金の山」。
数万トンに及ぶ局所的な負荷に耐えきれず、ダンジョンの階層を支える魔法の地盤が崩壊し始めているのだ。
このまま第50階層が抜ければ、その上の階層もドミノ倒しに崩落し、地上にあるダンジョン・シティそのものが巨大なすり鉢状の穴に飲み込まれてしまう。
「……これは、少しまずいですわね」
「少し!? 街が物理的に沈没しますよ! 早く全員を避難させて、金を捨てさせないと!」
私はマイクのスイッチを入れた。
『全階層の皆様にお知らせします。現在、黄金の重みによりダンジョンが崩落の危機にあります。直ちに採掘を中止し、持っている金を全てその場に捨てて避難してください』
しかし、モニター越しの冒険者たちは――。
「ふざけるな! 俺の金だぞ!」
「捨てるくらいなら一緒に死んでやるゥ!」
誰一人として、重い袋を手放そうとしなかった。欲望は命より重いらしい。
ミバキィィィッ!!
ついに天井の一部が崩れ、巨大な岩盤が落下してきた。
「うわぁぁぁ! 潰される!」
「甘えるなァァァッ!!」
落下する数百トンの岩盤を下から受け止めたのは、レオニダスだった。
「せ、先生!?」
「この程度の重圧……! スクワットのMAX更新にはちょうどいいわァァァ!」
彼の筋肉から蒸気が噴き出し、足元の純金の床がひしゃげる。
アトラスの如く天を支える体育教師。しかし、彼一人では限界がある。
その時、私はとっておきの「救済プラン」を放送した。
『……皆様、命と金、両方惜しいという強欲な貴方たちのために、特別なサービスをご用意しましたわ!』
私は手元のコンソールを操作し、第50階層のあちこちに「緊急転送陣」を出現させた。
『その陣に金を投げ込めば、私の持つ『絶対安全・異次元金庫』に直通で転送されます! もちろん、手数料として【9割】はいただきますが、残りの1割は後日お返ししますわ! 命が惜しければ、今すぐ投げ込みなさい!』
「きゅ、9割!? 悪魔かお前は!」
「だが、このままじゃ潰される! ええい、持ってけドロボー!」
背に腹は代えられない冒険者たちは、泣く泣く純金スライムの詰まった袋を転送陣へ放り投げ始めた。クルミも、泣きながらインベントリの中身をひっくり返している。
シュガァァァン! シュガァァァン!
次々と黄金が私の金庫へ転送され、階層の総重量がみるみるうちに軽くなっていく。
「よし! さらに余が削ってやろう!」
見かねた魔王ヴァネスが、大鎌を振るって残った岩盤とスライムの群れをまとめて消し飛ばした。
これで完全に重量オーバーは解消された。
数時間後。
崩落の危機は去り、第50階層には空っぽの袋を持った冒険者たちと、筋肉痛でプルプル震えるレオニダスだけが残された。
「……私の……私の研究費が……」
クルミが灰白化している。
「皆様、ご協力に感謝しますわ。皆様の命(と私の街)が助かって、本当に良かったですこと」
私は、中央管理室の奥にある「異次元金庫」を開けた。
そこには、床から天井まで届くほどの純金の山が眩く輝いている。
手数料9割。事実上の総取りである。
「田中さん。この金で、街の地盤をミスリル合金で補強しなさい。残りは私の口座へ」
「……オーナー。あなたは本当に、地獄の亡者より恐ろしいです」
田中さんが呆れたようにため息をつく。
しかし、街は守られ、私の資産は増えたのだから、これこそが最高の「ゴールデンウィーク」と言えるだろう。
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