第81話 春の健康診断。「胃カメラ」の代わりに「スライム」を飲みます。
【場所:私立ダンジョン学園 保健室(兼・解剖実験室)】
【日時:4月下旬 ゴールデンウィーク直前】
「……さあ、口を開けてください。飲み込むだけですわよ」
「うぐっ……! むぐぐ……!」
保健室のベッドで、一人の男子生徒が悶絶している。
彼が飲み込んでいるのは、内視鏡チューブではない。
コップ一杯の、青く発光する「医療用スライム(ミント味)」だ。
「オエッ……! 喉が……ヌルヌルして……!」
「我慢なさい。そのスライムは、胃の中の残留物を『掃除(消化)』しながら、内壁の映像を私の水晶玉に転送してくれますの」
私は、モニター代わりの水晶玉を覗き込んだ。
コスト削減のため、高価な医療機器は全て廃止。代わりに、クルミが品種改良した「寄生型スライム」を採用したのだ。
「オーナー。……これ、医療行為じゃなくて『拷問』ですよ」
田中さんが、カルテを書きながらドン引きしている。
「何を言いますの。検査費用は金貨1枚。激安ですわよ? ……おや?」
水晶玉の映像が乱れた。
生徒の胃の中で、スライムが何か「異物」に接触し、激しく震えている。
「……クルミ、解析を」
「了解! 『魔眼・レントゲン(透視)』!!」
白衣を着たクルミが、生徒の腹部に手をかざした。
紫色の魔力が照射され、生徒の肉体が透けて見える。
「……あー、これは酷いね。胃壁の裏に隠れてる」
「な、何がですか!? 胃潰瘍ですか!?」
「ううん。『ダンジョン回虫』だね」
【診断結果:寄生虫】
クルミが指差した先。
透視された腹部の中で、黒い蛇のような生物がとぐろを巻いていた。
「ヒィィィッ!? む、虫ぃぃ!?」
「ダンジョンの水を煮沸せずに飲んだでしょ? こいつ、宿主の魔力を吸って成長するんだよ。……もう成体(レベル30)になりかけてるね」
その時。
正体がバレたと悟ったのか、寄生虫が暴れ出した。
ボコォォォォッ!!
生徒の腹が、エイリアン映画のように内側から突き上げられる。
「ギャアアアア! 痛い! 出る! 何か出るゥゥ!」
「大変! 開腹手術の準備を!」
【手術:摘出という名の戦闘】
「どけぇぇぇ! 俺が執刀(攻撃)する!!」
カーテンを開け放ち、飛び込んできたのはレオニダスだ。
彼は手術着(上半身裸にエプロンだけ)を身に着け、ゴム手袋をバチンと鳴らした。
「せ、先生!? 麻酔は!?」
「必要ない! 痛みは生きている証拠だ!」
「無茶苦茶だァァァ!」
シュパァァァン!!
突然、生徒の口から黒い影が飛び出した。
寄生虫だ。全長2メートル。鋭い牙を持つ凶悪なワームが、空中で鎌首をもたげる。
『 シャァァァァッ!!(宿主を変える気だ!) 』
「出たな、病原菌め! 俺の生徒の身体を巣にするとはいい度胸だ!」
レオニダスが構える。
手にはメスではなく、「メリケンサック(ミスリル製)」が装着されている。
「『免疫活性拳』!!」
ドゴォォォォン!!
レオニダスの右ストレートが、空中のワームに炸裂した。
『 ギ ャ ァ ッ !? 』
ワームが壁に叩きつけられ、保健室の棚が粉砕される。
「逃がすか! 第二波(白血球)攻撃だ!」
レオニダスは、ひるんだワームの尻尾を掴むと、ブンブンと振り回し始めた。
これは手術室の光景ではない。プロレス会場だ。
「とどめだ! 『健康第一・パイルドライバー』!!」
ズドォォォォォン!!
脳天から床に突き刺さり、ワームはピクリとも動かなくなった。
テッテレー♪(手術成功のファンファーレ)
【術後:請求書は高くつく】
「……はぁ、はぁ。……スッキリしたか、少年?」
レオニダスが、汗を拭いながらサムズアップした。
ベッドの上の生徒は、恐怖と衝撃で白目を剥いているが、確かに腹の異物は消え去っていた。
「……素晴らしい手際ですわ」
私は、破壊された保健室の備品と、倒されたワーム(レア素材)を見比べ、電卓を叩いた。
「手術費、入院費、および『特殊駆除手当』……締めて金貨50枚になります」
「えっ!? た、高い……!」
「命が助かったのですから安いですわよ? それに、このワームの干物は漢方薬として高く売れますから、下取りして差し上げます」
【連鎖:パンデミック】
その時、廊下から次々と悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁぁ! 俺の腹からもなんか出たァァ!」
「私の背中に変なキノコが生えてきたぁ!」
「先生! 足が触手になっちゃった!」
どうやら、ダンジョン学園の生徒たちの体は、想像以上に「汚染」されていたらしい。
スライム検査によって刺激された寄生虫たちが、一斉に活性化してしまったのだ。
「……これは、忙しくなりそうですわね」
「オーナー! 保健室がパンクします! 闘技場を開放してください!」
私は、マイクを握りしめた。
『緊急連絡。全校生徒へ告ぐ。これより健康診断を中止し、『校内・寄生虫撲滅キャンペーン』を開始します。自分の体の魔物は自分で倒すこと。倒せない場合は、レオニダス先生の『物理手術(有料)』を受けてください』
【結末:健康な肉体】
夕方。
学園には、自分の体内から出た魔物を倒し、レベルアップした生徒たちの姿があった。
ボロボロだが、その顔色は以前より良い。
「毒出し」は完了したのだ。
「やっぱり、健康が一番ですわね」
「……オーナー。来年は普通の人間ドックにしましょう。命がいくつあっても足りません」
こうして、血と汗にまみれた健康診断は幕を閉じ、生徒たちは強靭な肉体(と空っぽの財布)を手に入れて、ゴールデンウィークへと突入していくのだった。
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