第80話 新入生は全員「チート持ち」。学級崩壊どころか「世界観」が崩壊します。
【場所:私立ダンジョン学園 体育館(入学式会場)】
【日時:4月上旬 桜の舞う朝】
「……田中さん。今年の新入生名簿、バグっていましてよ?」
私は、壇上の来賓席でリストを二度見した。
名前の横に書かれた「特記事項」が、あまりにも香ばしい。
・ヤマダ(元・社畜):スキル【全知全能】
・カトウ(元・高校生):スキル【即死魔法・極】
・サトウ(元・ニート):スキル【ハーレム構築EX】
「いえ、バグではありません。……最近、異世界からの『迷い人』が急増しておりまして。彼らは全員、前世の記憶と規格外の能力を持っているそうです」
田中さんが、胃薬を飲みながら震えている。
体育館を見渡すと、新入生たちは整列もせず、各々が勝手にポーズをとったり、虚空に向かって「ステータス・オープン」と呟いたりしている。
「フッ……。ここが新しいステージか。俺の『無双』が始まるな」
「やれやれ。また俺、何かやっちゃいました?」
痛い。
視界に入るだけで痛々しいオーラが充満している。
「……頭が痛いですわ。全員、自分が世界の中心だと思っている顔ですわ」
私はマイクのスイッチを入れた。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとう。理事長のベアトリスです。まずは入学金(金貨100枚)を……」
ザワッ……!
私の言葉を遮り、最前列の少年(髪が七色に光っている)が立ち上がった。
「金? くだらないな。俺はこの世界の『救世主』になる男だぞ? 金なんて、そこの石ころを錬金術でダイヤモンドに変えれば……」
パチン!
彼が指を鳴らすと、体育館の床が黄金に変わった。
「すげぇぇ! 無限錬金術だ!」
「俺もやる! 『創造魔法』!」
別の生徒が、虚空から伝説の聖剣を取り出す。
さらに別の生徒は、「重力操作」で椅子を浮かせ始めた。
「……」
入学式開始5分で、体育館は「チート能力の見本市」と化した。
【衝突:主人公(笑)vs 現実(運営)】
「おいおい、理事長さんよぉ。俺たちを縛れると思ってるのか?」
七色髪の少年が、宙に浮きながら私を見下ろした。
「俺の戦闘力は53万だ。この学園のルールなんて通用しない。……今日からここを、俺の『帝国』にする」
「「「そうだそうだ! 俺TUEEEさせろ!」」」
新入生たちが一斉に蜂起した。
彼らは強すぎる。通常の教師なら、指先一つで消し飛ぶだろう。
しかし――。
「……はぁ。これだから『ゆとり転生者』は困りますの」
私はため息をつき、扇子を閉じた。
彼らは知らないのだ。
この学園には、チートごときでは揺るがない「絶対強者」たちがいることを。
「先生方。……『教育指導』の時間ですわ」
【迎撃:理不尽には理不尽を】
ドゴォォォォン!!
体育館の壁が吹き飛び、土煙の中から一人の男が現れた。
「……帝国だと? 笑わせるな」
赤パン一丁のレオニダスだ。
彼の背後には、不機嫌そうな魔王ヴァネスと、怪しい薬液を持ったクルミが控えている。
「あ? なんだその筋肉ダルマは。俺の『絶対防御結界』の前には……」
七色髪の少年がバリアを展開する。
核爆発すら防ぐ最強の盾だ。
「防御? 関係ない」
レオニダスは、歩みを止めなかった。
そのままバリアの前に立ち、デコピンの要領で指を弾いた。
「『マッスル・デコピン(物理貫通・概念破壊)』」
パァァァァン!!
ガラスが割れるような音と共に、絶対防御結界が粉砕された。
「な、なんだとォ!? 俺のスキルが無効化された!?」
「スキル? 魔法? 甘えるな! 筋肉の前では、設定など紙切れ同然だ!」
レオニダスが少年の顔面を鷲掴みにし、床に叩きつけた。
ズドォォォン!!
「次! そこの『即死魔法』使い!」
「ひぃっ!? 『デス・スペル』! 死ね!」
「効かん! 俺の細胞は毎日死んで、超回復で蘇っている! 『メタボリック・イミュニティ(代謝免疫)』だ!」
魔法が筋肉の表面で弾かれる。
常識が通じないのは、転生者ではなく、この脳筋教師の方だった。
【制圧:魔王の格】
「さて、次は余の番か」
魔王ヴァネスが、優雅に鎌を振り上げた。
彼女の目には、数千年の時を生きた本物の「支配者」の威圧感が宿っている。
「『ハーレム構築』だと? ……ふん。女を侍らせる前に、己の弱さを呪うがいい」
「うわぁぁ! 魅了スキルが効かない!?」
ザシュッ!!
鎌が一閃。
ハーレム志望の少年の服だけが切り裂かれ、パンツ一丁になる。
「余の前で『最強』を名乗るなら、まずは星の一つでも砕いてみせろ。……できないなら、そこの雑巾がけから始めよ」
圧倒的な「格」の違い。
ただ強大な力を与えられただけの少年たちと、修羅場を潜り抜けてきた本物の怪物たちとの差だ。
【実験:新たな素材】
そして、逃げ惑う生徒たちの背後に、クルミが忍び寄る。
「へぇ……。『無限魔力』かぁ……。永久機関として使えるね」
「や、やめろ! 近づくな!」
「『鑑定スキル』? 私の研究データ、全部解析できるかな? 脳が焼き切れるかもよ?」
クルミが謎のガス(自白剤入り)を噴射する。
「君たちの異世界の知識……全部吐いてもらうよ? 科学の発展のためにね!」
「「「ギャアアアア! この学校、魔境だァァァ!」」」
【結末:そして社畜へ】
数時間後。
体育館には、正座させられた元・主人公たちの姿があった。
彼らの顔からは「俺TUEEE」の覇気は消え、代わりに「社会の厳しさ」を知った従順な目が残っている。
「……反省しまして?」
私は、彼らが錬金術で作った黄金の山(没収済み)に座り、見下ろした。
「は、はい……。調子に乗ってすみませんでした……」
「よろしい。ですが、破壊した体育館の修理費と、精神的苦痛への慰謝料。……合計、金貨1億枚になります」
「そ、そんな!? 払えません!」
「払えません? ……あら。貴方たちには素晴らしい『チート能力』があるではありませんか」
私は契約書(労働契約書)の束を差し出した。
「無限に魔力が出るなら『発電所』で。怪力自慢は『土木工事』で。……死なない体なら『実験体』として。
卒業まで、たっぷりと働いて返していただきますわよ?」
「「「NOォォォォォ!!」」」
こうして、異世界転生者たちは、そのチート能力を「学園のインフラ維持」と「金策」のためにフル活用されることとなった。
主人公補正も、このダンジョン・シティの資本主義(と暴力)の前では無力なのだ。
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