第77話 新春・巨大双六大会。サイコロの出目は「天国」か「地獄(強制労働)」か。
【場所:ダンジョン・シティ全域(スタート地点:中央広場)】
【日時:1月1日 元旦 早朝】
「……皆様、明けましておめでとうございます。本年も我がダンジョンに『お布施(課金)』をよろしくお願いいたします」
私は、艶やかな振袖(防刃繊維製)を纏い、巨大な櫓の上から挨拶した。
眼下には、数千人の参加者たちが詰めかけている。
「オーナー。……これ、本当にやるんですか? 『人間双六』なんて……」
田中さんが、袴姿で青ざめている。
無理もない。街の通りには、魔法で投影された「マス目」がびっしりと敷き詰められ、その一つ一つに恐ろしい効果が書かれているのだから。
「ええ。参加費は一人・金貨10枚。優勝賞品は『ダンジョン永代パスポート(家賃免除)』ですもの。みんな必死ですわ」
私は扇子を開き、高らかに宣言した。
「それでは、第一回『新春・地獄のデス・マーチ双六』……スタートですわ!!」
ドォォォォォン!!(祝砲という名の爆破)
スタート地点には、岩石を削り出して作った「巨大サイコロ(重さ2トン)」が置かれていた。
これを振る(投げる)だけでも重労働だ。
「一番手は俺だァァァ! 今年こそ借金をチャラにするッス!」
オークのボブが、鼻息荒くサイコロを持ち上げた。
ブンッ! と豪快に投げ飛ばす。
ゴロン、ゴロン……ズシン!
出目は『1』。
「よし! 最初の一歩だ!」
ボブが意気揚々と最初のマスに進む。
そこにはこう書かれていた。
『 凶 : お 年 玉 を 差 し 出 す ( 所 持 金 半 額 没 収 ) 』
「……え?」
シュバッ!
マス目が光り、ボブの財布から金貨が消滅し、私の懐(の口座)に転送された。
「ギャアアアア! 俺の全財産がァァァ!」
「あら、景気がいいですわね。次の方、どうぞ?」
「どけ! 俺のターンだ!」
次にサイコロを掴んだのは、レオニダスだ。
彼はサイコロを見つめ、筋肉に語りかけた。
「おい、上腕二頭筋よ。……『6』を出したいか?」
「(筋肉の収縮音:ビクン! ビクン!)」
「そうか、わかった!」
ドゴォォォォン!!
彼がサイコロを放り投げた瞬間、衝撃波で周囲の空気が揺れた。
サイコロは空高く舞い上がり――着地と同時に粉砕された。
しかし、破片が奇跡的に組み合わさり、『6』の形になった。
「見たか! これが『筋肉操作』だ!」
「……イカサマですわね。まあいいでしょう」
レオニダスが進んだ6マス目。
そこは真っ赤なドクロマークのマスだった。
『 大 凶 : 猛 獣 と の 遭 遇 ( ベ ヒ モ ス と デ ス マ ッ チ ) 』
「……素晴らしい!」
レオニダスは満面の笑みを浮かべた。
「元旦からトレーニングができるとは! ついてるぞ!」
グオォォォォォ!!
召喚された巨大な野獣に対し、彼は赤フン一丁で飛び込んでいった。
もはや双六ではない。ただの闘技場だ。
ゲームが進むにつれ、街は阿鼻叫喚に包まれた。
クルミのターン:
「サイコロなんて確率論だよ。……爆破すれば、全ての面が出る!」
チュドォォン!
サイコロが爆発四散。
判定不能のため『 振 り 出 し に 戻 る ( 強 制 送 還 ) 』。
魔王ヴァネスのターン:
「余に命令するとは生意気なマスだ。『一回休み』だと? ……消えろ」
ズバッ!
彼女は鎌でマス目そのものを切り裂き、物理的に「無かったこと」にした。
「よし、次は『進む』だな」
一般参加者(冒険者たち):
『強制労働エリア(地下鉱山)へご招待』
『装備品が全て「わかめ」に変わる呪い』
『ポーションが醤油になる』
街のあちこちで、悲鳴と絶望の叫びがこだまする。
私の手元の端末には、罰金や免罪符の購入通知がひっきりなしに届いていた。
「……ふふふ。笑いが止まりませんわ」
「オーナー、顔が悪魔より怖いです」
夕暮れ時。
ボロボロになりながらも、ゴール目前までたどり着いた猛者たちがいた。
先頭は、ベヒモスを素手で絞め殺したレオニダスと、ルールを無視して直進してきたヴァネスだ。
「あと1マス……! これで家賃がタダになる!」
「余の城を建て直す資金にするぞ!」
ゴールのマスには、『 上 が り ( 栄 光 の 脱 出 ) 』と書かれている。
しかし、その手前に最後の難関があった。
『 最 後 の 審 判 : オ ー ナ ー と の 「 ジ ャ ン ケ ン 」 に 勝 つ 』
「……は?」
二人が立ち止まる。
櫓の上から、私が優雅に飛び降りた。
「お疲れ様でした。さあ、最後の勝負ですわ」
「……貴様、まさかイカサマを?」
「まさか。正々堂々、一発勝負ですわよ」
私はニッコリと笑い、右手を掲げた。
「じゃーん、けーん……」
(私の心の声:二人の筋肉の動き、魔力の流れ……全て見えますわ。貴方たちが何を出すかなど、帳簿を見るより簡単!)
「……ぽんッ!」
レオニダス:グー(力いっぱい握りしめた拳)
ヴァネス:チョキ(鋭利な爪)
私:パー(金貨を掴む形)
「……あ」
「……負けた」
私のパーが、二人の希望を包み込んだ。
そして、ゴールの看板がクルリと回転し、裏の文字が現れる。
『 祝 ! 勝 者 は 「 新 年 会 の 幹 事 ( 自 腹 ) 」 決 定 ! 』
「「「ふざけるなァァァァッ!!」」」
絶叫が響き渡る中、私は集まった参加費の山に腰掛けた。
「さあ、幹事さん。今夜は朝まで宴会ですわよ? もちろん、費用は貴方たち持ちで」
「……覚えていろ、ベアトリス! 来年こそは!」
「くっ……! プロテイン代……!」
こうして、ダンジョン・シティの元旦は、敗者たちの奢りによる盛大な宴会で幕を閉じた。
皆が酔い潰れ、笑い合う中、私だけは酔わずに計算を続ける。
今年も、きっと良い(稼げる)年になるだろう。
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