第75話 秋の味覚は「魔物グルメ」。隠し味は「生徒の血と汗」です。
【場所:私立ダンジョン学園 特設野外キッチン(校庭)】
【日時:10月 学園祭「魔食祭」当日】
「……いい匂いですわね。野性味あふれる、獣の脂の焼ける匂い」
私は、審査員席でナイフとフォークを構え、優雅に微笑んだ。
目の前の校庭では、巨大な中華鍋やドラム缶(鍋代わり)が並び、炎と爆発音が上がっている。
「オーナー。……これ、料理対決ですよね? さっきから悲鳴しか聞こえないんですが」
田中さんが、消毒用アルコールを片手に青ざめている。
「ええ。『ダンジョン料理対決』ですもの。食材が暴れるのは鮮度の証ですわ」
今回のテーマは「究極のメインディッシュ」。
審査員は、私と、このお二方だ。
審査員1:魔王ヴァネス
「……腹が減った。不味いものを出したクラスは、全員消し炭にしてやるから覚悟しろ」
(相変わらず沸点が低い)
審査員2:美食龍グルマン
「グオォォォ……(我、空腹。人間でもいいから食わせろ)」
(全長20メートルの赤竜。よだれが滝のように流れている)
「さあ、調理開始ですわ!」
まず動いたのは、クルミ率いる魔法特化の生徒たちだ。
彼らの食材は、檻の中で暴れ回る「バジリスク(猛毒の大トカゲ)」。
「みんな! 火力調整は任せたよ! 私は下処理をする!」
「了解! 『ファイア・ボール(強火)』!!」
ドォォォォォン!!
いきなり直火焼きだ。バジリスクが絶叫する。
「毒袋の摘出は外科手術と同じだよ! ……メス!」
クルミが魔法の刃で、暴れるトカゲを空中で解体していく。
血飛沫が舞うが、魔法のバリアで防ぐ。清潔(?)だ。
「仕上げはこれ! 秘伝のスパイス、『マンドラゴラの粉末(絶叫風味)』を投入!」
ギャアアアアア!!
鍋から、この世のものとは思えない叫び声が上がった。
料理が悲鳴を上げている。
「完成! 『バジリスクの地獄釜茹で 〜魂の叫びを添えて〜』!!」
対するは、レオニダス率いる脳筋クラスだ。
彼らの食材は、なんと「ミノタウロス(牛頭の巨人)」一頭買い。
しかも、まだ生きていて、鎖を引きちぎろうとしている。
「先生! 包丁が通りません! 肉が硬すぎます!」
「馬鹿者ォォ! 硬いなら、柔らかくなるまで叩けばいい!」
レオニダスが、上半身裸になって叫んだ。
「全員、構えろ! 調理の時間だ!」
「「「イエッサー!!」」」
オークのボブたちが、一斉にミノタウロスを取り囲んだ。
「肉の繊維を断ち切れ! 『百烈肉叩き(サウザンド・テンダライザー)』ッ!!」
ドカバキグシャァァァッ!!
無数の拳が、生きた食材に叩き込まれる。
ミノタウロスが白目を剥く。
これは虐待ではない。下拵えだ。
「よし、肉が餅のように柔らかくなったぞ! そのまま焚き火に放り込め!」
「味付けはどうしますか!?」
「男は黙って塩! そして……『プロテイン(バニラ味)』をまぶせェェ!」
豪快に粉が舞う。
完成したのは、巨大な肉塊だった。
「「「お召し上がりください!!」」」
審査員席に、二つの「料理」が運ばれた。
片や、紫色に発光し、微かに悲鳴を上げているシチュー。
片や、岩のように巨大で、プロテインの甘い香りがするステーキ。
「……では、いただきます(勇気を出して)」
まずは魔法科のシチュー。
魔王ヴァネスがスプーンを口に運ぶ。
「……ん? ……ほう」
ヴァネスの目がカッ! と見開かれた。
「口の中で……食材が暴れ回る! マンドラゴラの呪いが、舌の上でパチパチと弾けるようだ! ……悪くない。刺激的だ」
「グオォッ!(美味! ピリピリして美味!)」
ドラゴンも皿ごとバリバリ食べた。
高評価だ。
続いて、体育科のステーキ。
私がナイフを入れると、肉汁が噴水のように飛び出した。
「……モグモグ。……あら?」
意外と……イケる。
物理的に叩き潰された肉の繊維は、驚くほど柔らかく、口の中で解ける。
塩味とバニラ味のハーモニーが、疲れた脳に直撃する。甘じょっぱい暴力的な味だ。
「うまいぞ! まるで筋肉を食べているようだ!」
「グオォォォォ!!(肉ゥゥゥ!!)」
ドラゴンが興奮して、炎を吐き出した。
その炎が、余っていた食材(生きたキラープラント)に引火する。
チュドォォォォン!!
「ギャアアア! 食材が逃げ出したぞォ!」
ドラゴンの炎で檻が壊れ、調理前の予備食材(クラーケン、ヘルハウンド等)が校庭に解き放たれた。
グルメフェスは一瞬で「パニック映画」と化した。
「逃げるな! それは俺たちの『おかわり』だ!」
「捕まえろ! 刺身にしてやる!」
しかし、生徒たちは怯まない。
包丁とフライパンを武器に持ち替え、食材に躍りかかる。
「そこのクラーケン! 踊り食いにしてやるわ!」
「ヘルハウンド! ちょうどいい火力だ、自分を焼け!」
……逞しい。
私は、その地獄絵図を眺めながら、ナプキンで口を拭った。
「勝負ありですわね。……優勝は」
結局、優勝は「引き分け」。
両クラスの料理は、完食された(ドラゴンと魔王によって)。
「……ふう。食った食った。余は満足じゃ」
ヴァネスが膨れたお腹をさする。
「来年も呼べよ。手土産に『伝説の巨獣ベヒモス』を持ってきてやる」
私は、ボロボロになった校庭を見渡しながら、電卓を弾いた。
修理費は嵩むが、今回のレシピは使える。
「田中さん。明日のカフェテリアの新メニューが決まりましたわ」
「……嫌な予感がします」
翌日。
学食には『バジリスクの激辛叫喚シチュー』と『ミノタウロスの筋肉増強ステーキ(プロテインソース添え)』が並び、命知らずの冒険者たちに行列を作らせたのだった。
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