第74話 夏休みの自由研究は「魔界の森」で。カブトムシ(戦車級)と格闘です。
【場所:私立ダンジョン学園 校門前】
【日時:8月31日 夏休み最終日 早朝】
「……先生、助けてください。まだ自由研究が終わってないんです」
「僕も……。アサガオの観察日記、初日で枯らしちゃって……」
校門前には、涙目の子供たち(低学年)が数十名、並んでいた。
彼らの手には真っ白な画用紙。絶望の色が濃い。
「あらあら。自業自得ですわね」
私は、日傘を差して冷たく言い放った。
「宿題代行サービス(有料)なら紹介しますけれど? 今なら特別価格で金貨……」
バンッ!!
私の商談を遮るように、巨大なバス(装甲車)が横付けされた。
「嘆くな少年少女たちよ! 宿題が終わっていない!? 最高じゃないか!」
運転席から飛び降りてきたのは、迷彩服に身を包み、顔にペイントを施したレオニダスだ。
背中には、虫取り網――ではなく、「鋼鉄製の捕獲ネット(対ドラゴン用)」を背負っている。
「まだ1日ある! いや、1日あれば『伝説』は作れる!」
「……レオニダス。貴方、彼らをどこへ連れて行く気ですの?」
私が尋ねると、彼は白い歯を見せて笑った。
「男のロマン! 『昆虫採集』だ! 行き先は、魔界の原生林『蟲毒の樹海』だァァァ!」
「「「ひぃぃぃぃっ!?」」」
子供たちが震え上がった。そこは、Sランク冒険者でも「虫除けスプレー(聖水)」なしでは立ち入らない危険地帯だ。
「さあ乗れ! 泣いている暇があったら筋肉を動かせ! 最高の『標本』を作りに行くぞ!」
数時間後。
私たちは、鬱蒼とした紫色の霧が漂う「蟲毒の樹海」に到着した。
空気中に漂うのは、フィトンチッドではなく「猛毒の鱗粉」だ。
「全員、ガスマスクを装着しろ! 吸ったら肺が腐るぞ!」
「……先生、これ『自由研究』ですよね!? 『サバイバル訓練』ですよね!?」
田中さんが叫ぶが、レオニダスは無視して茂みを指差した。
「静かに……。いるぞ。樹液の匂いだ」
ズシン……ズシン……。
巨大な足音が近づいてくる。
虫の足音ではない。重機だ。
「……ギチチチチ……!」
現れたのは、全長5メートルを超える「ギガント・ヘラクレス(魔界カブト)」だった。
その角は黒光りする槍のようで、ボディはミスリル合金並みの硬度を誇る。
「で、デカい! お父さんの車よりデカいよ!」
「素晴らしい……! 見ろ、あの外骨格の輝きを! あれこそが『天然の鎧』だ!」
レオニダスが子供たちの前に立ちはだかった。
「いいか、よく見ろ! 昆虫とは、己の体重の何倍もの重量を持ち上げる『パワーの象徴』だ! 学ぶべきはあの『体幹』だ!」
「学んでる場合ですか! こっちに来ますわよ!」
ブォンッ!!
カブトムシが角を振り上げ、突進してきた。
巨木がなぎ倒される。
「キャアアアア!」
「逃げろォォォ!」
「逃げるな! 立ち向かえ! 自由研究のテーマは『巨大甲虫との肉体の会話による生態調査』だ!」
レオニダスが、子供の一人(オークの少年)の背中を押した。
「行け、ボブJr.! お前のタックルと、奴の角、どっちが硬いか勝負だ!」
「む、無理だよ先生ェェェ!」
しかし、逃げ場はない。
子供たちは覚悟を決めた。
彼らはダンジョン学園の生徒だ。夏休みのラジオ体操(という名の筋トレ)で鍛えられている。
「……やってやる! 俺の夏休みを返せェェェ!」
一人の少年が、カブトムシの足にしがみついた。
「うおおお! 足がいっぱいあってキモいけど……止めたぞ!」
「ナイスだ! みんな、続けェェェ!」
ワァァァァァッ!!
数十人の子供たちが、一斉に巨大カブトに飛び乗った。
それは昆虫採集というより、「『ピクミン』のボス戦」のような光景だった。
「角を押さえろ! 重心を崩せ!」
「羽を開かせないで! 飛ばれたら終わりよ!」
子供たちの連携プレー。
カブトムシが暴れるが、数トンの「児童の重み」に耐えかねて、バランスを崩した。
ズドォォォォン!!
巨大カブトがひっくり返り、ジタバタと足を動かす。
「と、捕ったどォォォォ!!」
「勝った! 俺たち、虫に勝ったぞ!」
子供たちが歓声を上げる。
その顔は、泥と体液まみれだが、達成感に輝いていた。
「……なんて野蛮な光景ですの」
「オーナー。……感動的ですね(白目)」
私は、倒れたカブトムシに「売約済み」の札を貼り付けた。
この甲殻、防具の素材として高く売れそうだ。
その後、子供たちは森の奥へ進み、さらなる獲物を求めた。
「マンモス・クワガタ」
「殺人スズメバチ(ドローンサイズ)」
「ドクロ蝶」
夕方になる頃には、バスの荷台は魔物(虫)の山になっていた。
「先生! 見て! スズメバチの針、引っこ抜いたよ!」
「俺、カマキリの鎌で指を切ったけど、舐めたら治った!」
「このクワガタ、家で飼っていい? 番犬にする!」
子供たちは、完全に「野生」を取り戻していた。
もはや宿題などどうでもいいという顔をしているが、手にはしっかりと「研究成果(切断された触角や羽)」が握られている。
「よくやった! それこそが『生きた学習』だ!」
レオニダスが、夕日に向かってサムズアップした。
9月1日。始業式。
教室の後ろには、異様な「自由研究」が展示されていた。
『 タイトル : 僕 と カ ブ ト ム シ の 決 闘 』
(展示物:へし折られた巨大な角、および戦闘データのレポート)
『 タイトル : 毒 蛾 の 味 に つ い て 』
(展示物:調理された蛾の佃煮。※試食あり)
担任の先生(普通の人間)が、顔面蒼白で震えている。
「……こ、今年の夏休みは、みんな……たくましくなったね……」
私は、校長室でその報告書を読みながら、紅茶を啜った。
「……まあ、期限に間に合ったならよしとしましょう。親御さんからも『子供が虫を怖がらなくなった(むしろ素手で殺そうとする)』と感謝の電話が来ていますし」
「オーナー。……教育委員会から『危険すぎる』と指導が入ってますが」
「聞こえませんわ」
こうして、波乱の夏休みは幕を閉じた。
子供たちは一回り大きく成長し(物理的にも筋肉がついた)、秋の学校生活へと突入していくのだった。
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