第73話 怪談ナイトで「幽霊ストライキ」。死んでも労働からは逃げられません。
【場所:ダンジョン第9階層 「嘆きの地下墓地」】
【日時:8月上旬 お盆休み直前】
「……暑いですわ。溶けますわ」
私は、氷魔法で冷やした高級タオルを首に巻きながら、地下への階段を降りていた。
地上の気温は40度超え。
しかし、ここ第9階層は、年中ひんやりとした冷気(死臭含む)に包まれている。
「ここを『お化け屋敷』として開放するアイデア、天才的ですわね。冷房費ゼロ、キャスト(幽霊)の人件費もゼロ」
「……オーナー。倫理観もゼロですよ」
田中さんが、塩(お清め用)を握りしめて震えている。
今日は、一般客向けのイベント『リアル・ホラーナイト 〜本物の霊障、あります〜』の初日だ。
「キャアアアアア!」
「で、出たァァァ! 足がないぃぃ!」
通路の奥から、客たちの悲鳴が心地よく響いてくる。
入場料は金貨1枚。飛ぶように売れている。
私は、満足げに祭壇に座り、売上を集計し始めた。
「……ん? なんだか静かになりまして?」
突然、客の悲鳴が止んだ。
代わりに、「シュプレヒコール」のような声が聞こえてくる。
『 反 対 ! 反 対 ! 無 賃 労 働 ハ ン タ ー イ ! 』
『 我 々 に も 供 物 ( キ ュ ウ リ ョ ウ ) ヲ ヨ コ セ ! 』
「……は?」
通路の先に現れたのは、白い三角頭巾をつけた幽霊、落ち武者、首なし騎士たちの集団だった。
彼らはプラカード(卒塔婆)を掲げ、道を封鎖していた。
「……何事ですの?」
「オーナー! ストライキです! 幽霊たちが業務(脅かし)をボイコットしています!」
幽霊の代表者(透けてるおじさん)が、私の前にスーッと浮いてきた。
『……経営者よ。我々は怒っている』
「あら、死んでいるのに?」
『うまいこと言ったつもりか! ……我々の要求を聞け!』
代表者が要求書(血文字)を突きつけた。
1. 高級線香(白檀の香り)の支給
2. 墓石のグレードアップ(御影石希望)
3. 週休二日の導入(お盆は特別休暇)
4. 浄化(昇天)の権利保証
『これらが受け入れられるまで、我々は「ポルターガイスト活動」を停止し、逆に「癒しの光」を放つぞ!』
「なっ……! お化け屋敷で癒やされてどうしますの!」
脅しだ。
ホラーイベントで「癒し」を提供されたら、詐欺で訴えられる。
「……生意気な霊共ですわね。死んだらタダ働き、それが世の常ですわよ」
「オーナー、それは現代社会でもアウトです」
田中さんがツッコミを入れるが、私は引かない。
ここで要求を呑めば、他の階層のモンスターたち(特にゴブリン組合)も調子に乗る。
「……交渉決裂ですわ。田中さん、あれを呼びなさい」
「えっ、まさか……」
「除霊(物理)の時間です」
数分後。
冷え切った地下墓地に、灼熱の太陽が降り立った。
「うおおおおおッ! 暑い! 暑すぎるぞこの階層はァァァ!」
赤パン一丁のレオニダスである。
彼の筋肉からは、目に見えるほどの湯気が立ち上っていた。
体温は常時40度以上。歩く暖房器具だ。
『ひぃっ!? な、なんだこの熱気は!?』
『ま、眩しい! 筋肉が光って……!』
幽霊たちが、レオニダスの放つ「生命力(陽のエネルギー)」に当てられ、ジリジリと後退する。
「貴様らか! 労働を拒否する軟弱な魂は!」
「レオニダス先生! 彼らを『教育』して差し上げて!」
私は扇子で口元を隠し、命令を下した。
「了解だ! 死んでいるからと甘えるな! 魂がある限り、筋肉は鍛えられる!」
レオニダスは、幽霊の代表者の肩(透けてるけど)をガシッと掴もうとした。
「まずは基本のスクワットだ! 足がない奴は、魂で屈伸しろ!」
『む、無理だ……我々は実体が……』
「甘えんなァァァ! 『メンタル・スクワット』!! 心で汗をかけェェェ!」
カッッッ!!!!
レオニダスの大喝と共に、猛烈な熱波が墓地を吹き抜けた。
『あ、あつい……! 魂が燃えるようだ……!』
『なんだこの高揚感は……! 辛気臭い未練が、汗と一緒に蒸発していく……!』
レオニダスの熱血指導を受けた幽霊たちが、次々と黄金色に輝き始めた。
浄化ではない。
あまりの熱さに、現世に留まるのが嫌になったのだ。
『もういい……! 涼しいあの世へ行くんだ……!』
『ありがとう筋肉……! さらば現世……!』
キラキラキラキラ……
幽霊たちが、次々と笑顔で空へ昇っていく。
感動的な成仏シーンだ。お化け屋敷としては最悪だけど。
「ああっ! 待ちなさい! まだ契約期間(永遠)が残ってますわよ!」
「素晴らしい……! 彼らもまた、筋肉の理を悟って旅立ったか!」
レオニダスは涙を流して敬礼している。
地下墓地は、すっかり「もぬけの殻」になってしまった。
「……どうしますのこれ」
客たちは、「怖くなかったけど、なんか元気が出た」「肩こりが治った」と言って帰っていった。
幽霊がいなくなった第9階層は、レオニダスの残留熱気により、なぜか「マイナスイオンあふれるパワースポット」に変貌していた。
「……仕方ありませんわ」
私は看板を書き換えた。
『 納 涼 ・ お 化 け 屋 敷 』
↓
『 激 熱 ・ 岩 盤 浴 ( ホットヨガ ) 〜 霊 的 な デ ト ッ ク ス 〜 』
「田中さん。これからは『健康ランド』として売り出しますわよ」
「……転んでもタダでは起きませんね、あなた」
こうして、幽霊たちのストライキは「全員成仏」という形で幕を閉じ、私のダンジョンには新たな収益源が加わったのだった。
暑い夏は、まだまだ続く。
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