第72話 魔王の婚活は「バトルロイヤル」。愛の告白は「全力魔法」で返されます。
【場所:ダンジョン・シティ 中央闘技場(特設ウェディング会場)】
【日時:6月上旬 大安吉日】
「……皆様、本日はお日柄もよく、絶好の『死合い』日和ですわね」
私は、純白のドレス(防弾仕様)に身を包み、マイクを握りしめていた。
目の前に広がるのは、いつもの闘技場ではない。
バージンロード(有刺鉄線付き)が敷かれ、観客席には「寿」の垂れ幕が揺れている。
「田中さん。参加者の集まり具合は?」
「はい。……命知らずの独身男性が、人間・魔物合わせて500名。……あと、遺書も500通集まりました」
田中さんが、青ざめた顔で書類をチェックする。
今回のイベントは、魔王ヴァネスの気まぐれから始まった。
『余もそろそろ、隣に立つ者が欲しくてな。……最強の遺伝子を持つ夫を募集する』
かくして開催されたのが、この「第一回・魔王杯争奪 婚活デスマッチ」である。
参加費は金貨10枚。優勝者は魔王の夫(玉の輿)になれるが、敗者は病院送りだ。
「さあ、主役の登場です! 我らがダンジョンの『絶対支配者(花嫁)』、ヴァネス様のご入場ですわ!」
ゴゴゴゴゴゴ……!!
地響きと共に、メインゲートが開いた。
「「「魔王様ーッ!! 結婚してくれーッ!!(命乞い含む)」」」
現れたのは、漆黒のウェディングドレスを纏ったヴァネスだ。
ただし、レースの代わりに鎖が巻かれ、手にはブーケではなく「巨大な鎌(飾り付き)」が握られている。
「……ふん。集まったな、有象無象どもよ」
ヴァネスは、真っ赤なルージュを引いた唇で不敵に笑った。
「ルールは単純だ。余の『愛の鞭(攻撃)』に耐え、このバージンロードを完走した者を、夫候補として認めてやろう」
「えっ? 耐えるだけ?」
「簡単じゃん!」
参加者たちがざわつく。
しかし、私は知っている。彼女にとっての「愛」とは、すなわち「破壊」であることを。
「では、第一ラウンド! 『愛の選別』!!」
ドォォォォォォン!!
開始の合図と同時に、ヴァネスが指を鳴らした。
会場全体が極大の炎に包まれる。
「ギャアアアアア! 熱い! 愛が重すぎるぅぅ!」
「焦げる! タキシードが燃えるぅ!」
一瞬で、参加者の8割が炭(黒焦げ)になって脱落した。
「……あらら。お掃除(蘇生)が大変ですわ」
私は電卓を叩きながら、脱落者たちの治療費を計算に入れた。
炎の嵐を生き延びた猛者たちが、ヴァネスに挑む。
ここからは「個別面談(一対一の殴り合い)」だ。
エントリーNo.1:キザな勇者
「美しい……! 僕の剣技で、君のハートを射止めてみせる!」
「……口が軽い男は嫌いだ」
バシュッ!
ヴァネスの裏拳一発で、勇者は星になった。
「次」
エントリーNo.2:巨体のサイクロプス
「オデ、チカラ、ジマン! コドモ、ツヨイ!」
「……知性が足りん。教育ママになるのは御免だ」
ズドン!
踵落としでサイクロプスが地面に埋まる。
「次」
次々と撃沈していく求婚者たち。
ヴァネスは溜息をついた。
「……嘆かわしい。余の隣に立てる男は、この世におらぬのか?」
「……おや? あそこに、一人残っていますわよ」
私が指差した先。
黒焦げの地面に、仁王立ちしている男がいた。
上半身裸に蝶ネクタイだけをつけた、レオニダスである。
「……ほう。貴様か、赤いの」
「フンッ! 筋肉は炎ごときでは燃え尽きん!」
レオニダスは、焦げた肌から湯気を出しながらポージングした。
彼が参加した理由は「優勝賞品:プロテイン一年分」を狙ってのことだ(結婚のことはよく分かっていない)。
「いいだろう。貴様なら、余の『全力の愛』を受け止められるかもしれん」
「来い! 俺の大胸筋は、あらゆる衝撃を吸収する!」
ヴァネスが鎌を振り上げ、魔力を込める。
レオニダスがマッスル・ガードの体勢をとる。
「『暗黒愛・斬』!!」
「『大胸筋バリアァァァ!!』」
ガギィィィィィン!!
金属音が響き、衝撃波で私のドレスがめくれ上がった。
「……!」
砂煙が晴れると、レオニダスは無傷で立っていた。
いや、胸に一本の赤い傷(キスマークのような切り傷)がついている。
「……やるな。俺の筋肉に傷をつけるとは」
「……ふっ。貴様もな。余の一撃を受け止めて立っているとは」
二人の間に、奇妙な空気が流れた。
殺意でもなく、敵意でもなく……それは、戦士同士の「共鳴」。
「……気に入ったぞ、レオニダス。貴様を余の夫にしてやろう」
会場がどよめいた。
ついにカップル成立か!?
しかし――。
「……断る」
「……なに?」
レオニダスは、キリッとした顔で言った。
「俺の恋人は『筋肉』だ。結婚などしたら、ジムに通う時間が減ってしまう!」
「……は?」
「それに、お前の攻撃は『雑』だ! 力任せすぎる! もっと体幹を使え!」
まさかのダメ出し。
ヴァネスの顔が真っ赤になった。羞恥と激怒で。
「……き、貴様ァァァ! 魔王の求婚を、筋トレの邪魔だと言ったかァァァ!」
「事実だ! 筋肉への愛に勝るものなし!」
結局。
激怒したヴァネスによる「追撃の超魔法」が放たれ、レオニダスは空の彼方へ吹き飛ばされた。
キラァーン……(星になる音)
「……まあ、こうなると思いましたわ」
私は、崩壊した会場で紅茶を啜った。
結婚は破談。勝者なし。
しかし、私の手元には「参加費」と「観戦チケット代」、そして「賭けの胴元としての利益」が山のように残った。
「ヴァネス様、元気を出してくださいませ。男なんて星の数ほどいますわ(星になったけど)」
「……ふん。興が冷めた。帰ってヤケ食い(ミミック料理)をする」
ヴァネスは、ボロボロのドレスを引きずりながら去っていった。
その背中は少し寂しげだったが、手にはレオニダスが落としていった「プロテインの試供品」が握られていた。
「……悪くない筋肉だった(ボソッ)」
こうして、ダンジョン・シティのジューンブライドは、ロマンスの欠片もなく、物理的な破壊と莫大な利益を残して終了した。
私の街に「愛」が訪れる日は、まだまだ遠そうだ。
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