第70話 GW特別企画「地底アイドル」デビュー。センターは筋肉ダルマ(女装)です。
【場所:ダンジョン・シティ 中央広場特設ステージ】
【日時:5月上旬 ゴールデンウィーク初日】
「……オーナー。本当にやるんですか?」
田中さんが、頭を抱えて舞台袖で震えていた。
広場には、何千人もの冒険者や観光客が詰めかけている。彼らの手には「サイリウム(発光キノコ)」が握られ、熱気は最高潮だ。
「当たり前ですわ。今の時代、必要なのは『推し』……つまり、貢ぎたくなる対象ですのよ」
私は、プロデューサー巻き(カーディガンを肩にかける)をして、インカムで指示を飛ばした。
「リリィ、物販の準備は?」
「完璧よぉ〜! 『握手券付き毒消し草』と『推しの汗(聖水扱い)』、飛ぶように売れてるわ!」
妹のリリィが、札束の入った麻袋を担いでウインクする。
準備は万端だ。
「さあ、田中さん。紹介なさい。我がダンジョンが誇る、奇跡のアイドルユニット……その名も『マッスル・エンジェルズ(MA)』の登場です!」
『Ladies and Gentlemen!! ダンジョンが生んだ最終兵器、今ここに降臨ッス!!』
司会のスケさんが絶叫し、スモーク(毒霧ではない)が焚かれた。
ドォォォォォォン!!
爆音と共に、三つの影がステージにせり上がってきた。
No.1:氷の塩対応「ピノ」
フリフリの衣装を着せられているが、表情は「無」だ。
マイクの代わりに、なぜか「生肉(骨付き)」を持っている。
「……帰りたい。……でも、報酬の高級焼肉のために歌う」
No.2:爆裂の狂気「クルミ」
彼女の衣装は、電飾でピカピカ光っていた(自作)。
スカートの中からは、大量のフラスコと導火線が見え隠れしている。
「キヒヒッ! 私の歌声で、みんなの鼓膜を実験(破壊)しちゃうぞ☆」
そして――。
センター:筋肉の妖精「レオ・ちゃん(レオニダス)」
「「「グオオオオオオオッ!!」」」
観客席から悲鳴と歓声が混ざったような轟音が上がった。
そこにいたのは、ピンク色のドレスを身にまとったレオニダスだった。
しかし、サイズが合っていない。
背中のファスナーは弾け飛び、上腕二頭筋がパフスリーブを引き裂いている。
極太の太ももには、網タイツ(金網製)が食い込んでいた。
「みんなぁ〜! 元気ぃ〜!? 私の筋肉を受け止めてぇぇぇッ!!」
ドスッ!
彼がウインク(顔面筋肉の収縮)をすると、最前列の客が数名、物理的な圧力で卒倒した。
「……オーナー。これは『アイドル』ではなく『暴力』では?」
「何を言いますの。ほら、客席を見てご覧なさい」
曲が始まった。
タイトルは『恋のベンチプレス 〜君を押し潰したい〜』。
ズンッ! ズンッ! ズンッ!
重低音が響く中、レオニダスが歌い出す。
「♪ 君のハートにダンベル・フライ!」
「(合いの手:ドスコイ! ドスコイ!)」
「♪ 逃がさないわよプロテイン!」
「(合いの手:一気飲み! 一気飲み!)」
レオニダスは歌いながら、ステージ上の鉄柱(セットの一部)を引き抜き、バトンのように振り回した。
「受け取って! 私の愛(質量)をォォォ!」
ブンッ!!
鉄柱が客席スレスレを通過する。
「うわぁぁぁ! 殺されるぅぅぅ!」
「でも……なんか興奮してきたッ!」
恐怖と興奮。
極限状態に置かれた観客たちの脳内で、アドレナリンが過剰分泌され始めた。
そこに、ピノとクルミが追い討ちをかける。
「……ん。これでも食らえ」
ピノが、客席に向かって*「激辛骨付き肉」を乱れ打ちした。
「あちちっ! でも美味い!」
「ファンサービス(餌付け)だぁ!」
「フィナーレいくよー! 特効(爆破)スイッチ・オォォォン!」
クルミがボタンを押した。
チュドォォォォォン!!
ステージ背後で、本物のナパーム弾が爆発した。
熱波が客席を襲う。
しかし、レオニダスはその炎を背に、完璧な「サイドチェスト」のポーズを決めた。
「燃え上がれ! 筋肉のようにィィィ!!」
ライブが終わる頃には、広場は異様な一体感に包まれていた。
最初はドン引きしていた冒険者たちが、今や涙を流してサイリウム(キノコ)を振っている。
「レオちゃァァァん! 抱いてくれェェェ!(物理的に)」
「俺、明日から筋トレするよ! あのドレスが似合う男になるために!」
「ピノ様ァァ! もう一度肉を投げつけてェェ!」
もはや地獄絵図。
しかし、その顔は皆、晴れやかだった。
「……なんということでしょう」
田中さんが呆然と呟く。
「彼らはアイドルの『可愛さ』ではなく、その『生存能力の高さ』に魅了されたようです」
「ええ。ダンジョンのアイドルとは、即ち『強さの象徴』。彼らにとって、あの筋肉こそが希望なのですわ」
私は、電卓を叩きながら頷いた。
リリィからの報告によれば、物販の『レオニダス抱き枕(中身は砂袋で重さ50kg)』が完売したらしい。
アンコールの声が鳴り止まない。
ステージに戻ってきたレオニダス(化粧が汗で落ちて、ただの髭面になっている)がマイクを握った。
「みんな! ありがとう! 最後に、ファンのみんなと一つになりたい!」
彼は、ステージから客席へダイブした。
「いくぞ! 『マッスル・ボディ・サーフィン』ッ!」
ズドォォン!!
数トンの体重が客席に落下する。
本来なら圧死事故だが、鍛え上げられた冒険者たちは、全員で協力してその巨体を支えた。
「支えろ! 俺たちの神輿だ!」
「重い! でも……尊い!」
レオニダスは、男たちの腕の上を転がりながら、満面の笑みで投げキッスを送った。
「……うん。見なかったことにしましょう」
私はそっと目を逸らし、本日の収益だけを考えることにした。
こうして、GWの「地底アイドル」イベントは、伝説(と大量の筋肉痛患者)を残して大成功を収めたのだった。
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