第69話 上空からの不法投棄。ここはゴミ捨て場ではありません。
【場所:ダンジョン・シティ 中央広場】
【日時:4月上旬 花見シーズン】
「……いい天気ですわね」
私は、テラス席で春の陽気を浴びながら、優雅に紅茶を飲んでいた。
平和だ。あの筋肉まみれの卒業式が嘘のようだ。
新入社員(元・生徒)たちも、現場で元気に働いている(扱き使われている)ことだろう。
「オーナー。売上も好調ですよ。特に『春のパン祭り(ミミック食)』が……」
田中さんが報告書を読み上げようとした、その時。
ズドォォォォォン!!
私の目の前のテーブルに、巨大な物体が落下してきた。
紅茶のカップが宙を舞い、粉砕される。
「……ッ!?」
「な、なんだ!?」
砂煙が晴れると、そこに突き刺さっていたのは――「全身鎧の騎士の残骸」だった。
しかも、まだ微妙に動いている。
「……カ……タ……(痛い……)」
「……田中さん。これは?」
「えーと……空から降ってきましたね」
見上げると、太陽が隠されていた。
雲を突き抜けて、巨大な「浮遊島(某伝説の島的な岩塊)」が、我が街の真上に停泊していたのだ。
ヒュルルルル……ガシャン! バキッ!
さらに、空から次々と「ゴミ」が降ってくる。
折れた剣、使い古したポーションの瓶、そして――。
『ギャアァァァ!(落ちるぅ!)』
生きたゴブリンまでもが、悲鳴を上げながら落下してきた。
「キャアアア! 汚い!」
「空から魔物が降ってきたぞ! 逃げろぉ!」
せっかくの客たちが、悲鳴を上げて逃げ惑う。
私の優雅なティータイムと、書き入れ時の商売が、台無しだ。
「……あいつら。私の領空で、何をしてくれやがりますの?」
私は、割れたティーカップの破片を握り潰した(粉々に)。
私は即座に、街に設置された『緊急用拡声魔導器(超大音量スピーカー)』を起動した。
「あー、あー。テステス。……おい、そこの空中に浮いてる岩塊! 聞こえてますの!?」
私の怒号が空に響き渡る。
すると、浮遊島から、キラキラとした光と共に、優雅な声が返ってきた。
『……おやおや。地上の「這いつくばる者」たちが、何か騒いでいるね』
空中にホログラム映像が投影された。
映し出されたのは、背中に純白の翼を生やし、白いローブを纏った美青年。
いけ好かない笑顔を浮かべている。
『僕は天空ダンジョン「セレスティア」の支配者、ゼフィルス。……君たち、僕たちの「聖なる廃棄物」を受け取れて光栄だと思わないのかい?』
「……は?」
『地上の民よ。君たちは、我々が排出した「恵み(ゴミ)」を再利用して生きるのがお似合いだよ。……ああ、汚らわしい。地上には降りたくないな』
カチッ。
私の脳内で、何かのスイッチが切り替わった音がした。
選民思想。上から目線。そして何より――。
「……私の街を『ゴミ処理場』扱いしましたわね?」
「オーナー、落ち着いて。顔が魔王より怖いです」
「田中さん。……『対空迎撃(クレーマー対応)』の準備をなさい」
数分後。
街の広場には、私の命令で「投擲部隊」が集結していた。
中心にいるのは、もちろんレオニダスだ。
「許せぬ……! 筋肉を鍛える神聖な大地を、ゴミで汚すとは!」
「レオニダス。あの浮遊島まで届きますか?」
「高度3000メートルか……。普通の槍では届かん。空気抵抗が邪魔をする」
「では、何を投げますの?」
レオニダスは、ニヤリと笑い、背後を指差した。
「こいつだ」
そこには、ロープでぐるぐる巻きにされた「オークのボブ(新入社員)」がいた。
「えっ? 俺ッスか!? 先生、俺ッスか!?」
「安心しろボブ! お前の筋肉密度なら、空気の壁を突き破れる! お前が『弾丸』になるのだ!」
「いやぁぁぁ! 労働災害だぁぁぁ!」
さらに、魔王ヴァネスも協力を申し出ていた。
「ククク……。空飛ぶ城とは生意気な。余の爆裂魔法で撃ち落としてやる」
「いえ、撃ち落としたら街が潰れますわ。……あくまで『苦情(物理)』を届けるだけにして」
『装填完了!』
広場に設置された、ダンくんの木材で作った巨大なカタパルト(投石機)。
そのバスケットに、ボブ(と数名のゴブリン特攻隊)が乗せられた。
「いくぞ! 地上の底力を思い知らせてやれ!」
レオニダスが、カタパルトのロープを筋肉全開で引き絞る。
ギリギリギリ……と、極太の木材が悲鳴を上げる。
「ターゲット、空中のいけ好かない優男! ……発射ァァァッ!」
バシュゥゥゥゥン!!
轟音と共に、ボブたちが空へ向かって射出された。
その速度は音速を超え、衝撃波が広場のガラスを割る。
「うおおおおおッ! 給料分は働くッスぅぅぅ!!」
ボブの叫び声が、ドップラー効果で遠ざかっていく。
一方、上空の「セレスティア」。
支配者ゼフィルスは、優雅にワインを飲んでいた。
「ふふふ。地上の虫けらが。……ん? 何か飛んでくるような……」
彼が下を見ると、猛スピードで迫る「緑色の肉塊」があった。
「え? ……ミサイル? いや、オーク!?」
「お邪魔しまァァァすッ!!」
ズドォォォォォン!!
ボブ(人間魚雷)が、セレスティアのクリスタルガラスの床を突き破り、ゼフィルスの目の前に着弾した。
粉塵が舞う中、ムクリと起き上がるボブ。
「……はぁ、はぁ。……到着したッス」
「な、ななな、なんだ君たちは! 野蛮な!」
「うるせぇ! 下からの届け物だ!」
ボブの後ろから、ゴブリンたちがわらわらと現れ、持参した「地上のゴミ(生ゴミとヘドロ)」をばら撒き始めた。
「これがお前らの落とし物だ! 返してやるよ!」
「やめろ! 僕の神聖な宮殿が! 臭い! 臭いぃぃ!」
さらに地上から、レオニダスによる「第二射」「第三射」が次々と放たれた。
今度は「巨大な鎖」だ。
ガシャーン! ガシャーン!
鉄の鎖が浮遊島に突き刺さり、ガッチリと固定される。
「よし! 捕まえたわ!」
私は地上で号令を出した。
「総員、引っ張りなさい! あの島を地上まで引きずり下ろすのです!」
「「「オオオオオオオッ!!」」」
街中の冒険者、魔物、そしてダンくん(巨大樹)が、鎖を引っ張る。
綱引き大会の始まりだ。
「嘘だろ!? 高度維持装置が……出力全開! ……だめだ、引っ張られるぅぅ!」
ゼフィルスの悲鳴と共に、浮遊島がズズズ……と降下を始める。
筋肉と物理法則の前には、魔法の浮力など無力だった。
数十分後。
浮遊ダンジョン「セレスティア」は、我が街の隣の空き地(元・湿地帯)に、強制着陸(墜落)させられた。
「……ひっ、ひぃ……。もうしません……許してください……」
瓦礫の中で、ゼフィルスが土下座していた。
美しい翼はボロボロで、ローブは泥まみれだ。
「わかればよろしい。……さて」
私は電卓を叩いた。
「着陸料、慰謝料、そして清掃費……しめて金貨1億枚になりますけど、払えます?」
「い、1億!? そんな金ないよ!」
「あら、そうですか。……では」
私はニッコリと微笑み、契約書を差し出した。
「今日から貴方のダンジョンは、我が社の『別館』として吸収合併します。……貴方は『管理人』として働きなさい」
「そ、そんなぁ……!」
こうして、春の騒動は幕を閉じた。
我がダンジョン・シティに、新たに「天空エリア(地上にあるけど)」が加わり、さらに規模が拡大したのだった。
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