第67話 進路相談は「人材斡旋」の場。夢より「初任給」と「福利厚生」です。
【場所:私立ダンジョン学園 理事長室】
【日時:2月下旬 進路面談期間】
「……頭が痛いですわ」
私は、高級な頭痛薬(エリクサー配合)を水で流し込みながら、目の前に積まれた書類の山を睨みつけた。
『進路希望調査票』。
生徒たちが卒業後の夢を書き記した紙束だ。
「田中教頭。……読み上げてくださる?」
「はい。……まず、3年A組、オークのボブ君」
田中さんが、無表情で紙を読み上げる。
『 希 望 : プ ロ の 筋 肉 ( マッスル ・ プ ロ ) 』
「……職業ですらないですわ」
「備考欄には『レオニダス先生のような、輝く汗の伝道師になりたい』とあります」
「却下です。次」
『 希 望 : 魔 界 の 覇 者 ( キング ・ オ ブ ・ ダークネス ) 』
(ゴブリンの生徒)
「……反逆罪で処刑されますわよ。次」
『 希 望 : 冒 険 者 ギ ル ド の 乗っ取り 』
(人間の生徒・元いじめられっ子)
「……具体的すぎて怖いですわ。動機が『復讐』になってますもの」
私は扇子で机を叩いた。
どいつもこいつも、夢見がちな「力こそパワー」の信者になってしまっている。
これでは、我がダンジョン学園の就職率(実績)に関わる!
「全員、呼び出しなさい。私が直々に『現実』を教えて差し上げますわ」
【面談1:脳筋オークの場合】
コンコン(ドアをノックする音……ではなく、ドアごと破壊して入ってくる音)。
「失礼するッス! オークのボブ、入室するッス!」
現れたのは、制服がはち切れんばかりの筋肉ダルマだ。
文化祭でロミオを演じた彼である。
「お座りなさい。……さて、貴方の夢は『プロの筋肉』でしたわね?」
「イエス! 筋肉で世界を笑顔にしたいッス!」
「結構。では質問ですが、筋肉で『家賃』は払えますの?」
「……えっ?」
ボブが固まった。
「筋肉で『食費』は? 『税金』は? 『老後の貯蓄』は?」
「そ、それは……ポージングで稼げば……」
「甘い! 世の中、そんな需要はありませんわ!」
私は、一枚の求人票を突きつけた。
「貴方にふさわしい職場を用意しました。『ダンジョン建設部・資材運搬課』です」
「……運搬?」
「ええ。毎日、数百キロの石材を運ぶ仕事よ。給料は歩合制。さらに……『プロテイン飲み放題』の福利厚生付きですわ」
ガタッ!!
ボブが椅子から立ち上がった。
「プ、プロテイン飲み放題……!? マジっすか!?」
「ええ。最高級のピノ印です。……どうします? 夢を追って野垂れ死ぬか、ここで堅実に筋肉を育てるか」
「やりますッス! 一生ついていくッス、理事長ォォォ!!」
【採用(確保):1名】
【面談2:爆裂魔法少女の場合】
次に入ってきたのは、眼鏡をかけた魔女族の少女だ。
おどおどしているが、その手には危険な杖が握られている。
「……あの、私、世界一の爆発アーティストになりたくて……」
「なりなさい。ただし、王都でやれば即・指名手配ですわ」
私は冷たく言い放ち、次の求人票を出した。
「貴女にはこれ。『ダンジョン第4階層・トラップ開発部』」
「……トラップ?」
「ええ。侵入者を吹き飛ばす『地雷魔法』の設置係よ。思う存分、爆発させなさい。合法的にね」
「合法……爆破……!?」
少女の眼鏡が怪しく光った。
「やります……! 私の芸術で、冒険者を空の彼方に飛ばしてみせます……!」
「採用。契約書にサインなさい(ハンコ代わりの血判で)」
【採用(確保):2名】
順調に生徒たちを「自社の安い労働力」として囲い込んでいると――。
ドガァァァン!!
壁を突き破って、レオニダスが乱入してきた。
「待てェェェ! 理事長! 貴様、生徒たちの夢を摘む気かァァァ!」
彼は涙ながらに訴えた。
「ボブの広背筋は、運搬のためにあるんじゃない! 世界に羽ばたく翼なんだ!」
「うるさいですわね! 翼じゃなくて筋肉ですわ!」
「卒業とはゴールではない! 終わりのない荒野(無職)への旅立ちだ! 行け若者よ! 荒野へ!」
レオニダスが生徒たちを扇動しようとする。
まずい。生徒たちの目が「やっぱ冒険かな……」と揺らぎ始めている。
「……仕方ありませんわね」
私は、最後の切り札を使った。
インターホンを押す。
「……どうぞ、お入りください」
ドアが静かに開き、漆黒のドレスを纏った魔王ヴァネスが入ってきた。
背後には、黒服の側近たち(魔族)。
「……邪魔するぞ。ここが優秀な『新兵』の育成所と聞いてな」
「魔王様!?」
「ひぃぃっ! 本物だ!」
生徒たちが恐れおののく。
ヴァネスは、レオニダスを一瞥し、鼻で笑った。
「……ふん。相変わらず暑苦しい男よ。……おい、そこのオーク」
「は、はいッス!」
「良い面構えじゃ。我が魔王軍の『重装歩兵団』に入らぬか? 初任給は金貨10枚。ボーナス年2回。週休二日制(戦況による)じゃ」
ザワァ……!
教室内がどよめいた。
ホワイトだ。魔王軍なのに、そこらのブラックギルドより遥かにホワイトだ!
「さらに、そこの魔法使い。我が軍の『宮廷魔導師団』に空きがある。福利厚生で『魔界温泉旅行』付きじゃ」
「お、温泉……!」
生徒たちの心が、一瞬で「夢」から「安定」へと傾いた。
レオニダスが叫ぶ。
「だまされるな! 金で筋肉は買えない!」
「黙れ筋肉ダルマ。……金があれば、最高級のジムとサプリが買えるぞ」
「ぐぬぬっ……!(正論)」
結局。
クラスの半数は、私のダンジョンに就職。
残り半数は、魔王軍への入隊が決まった。
「……ふふふ。毎度ありですわ、ヴァネス様」
「うむ。良い買い物をした。これだけの即戦力、育てる手間が省けたわ」
私は、魔王軍から受け取った「紹介手数料(一人当たり金貨50枚)」の袋を重そうに持ち上げた。
人材派遣業。
これぞ、学校経営の隠された旨味だ。
「……オーナー。教育者としての良心はないんですか?」
「ありますわよ? 彼らに『路頭に迷わない未来』を与えましたもの」
窓の外では、内定をもらった生徒たちが、レオニダスを胴上げしていた。
「先生! ありがとう! 俺、初任給で親孝行するよ!」
「バカヤロウ! 金より筋肉だと言っただろ! ……うぅ、立派になりやがって(号泣)」
……まあ、結果オーライだ。
こうして、私の手元には莫大な紹介料と、安くて優秀な新入社員たちが残った。
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