第66話 修学旅行はエルフの森へ。挨拶代わりの「タックル」が飛んできます。
【場所:未開の大森林「ユグドラシル」 入り口】
【日時:4月中旬 修学旅行初日】
ズシン……ズシン……。
巨大な多脚戦車(ドワーフ製スクールバス)が、鬱蒼とした森の前で停止した。
「……到着しましたわ」
「空気がうまいッス! フィトンチッドが肺に染みるッス!」
引率のスケさんが深呼吸をする(肺はない)。
バスから降り立った生徒たちは、目を輝かせていた。
彼らの筋肉は、長旅の座りっぱなしで「うずうず」しているのだ。
「ここがピノ先生の故郷ですか……。静かで、綺麗な森ですね」
「……ん。我が故郷」
ピノが、久しぶりの里帰りに少し表情を緩めた。
しかし、彼女は付け加えた。
「……ただし、気を抜くと死ぬ。……挨拶が来る」
ガササササッ!!
樹上から無数の影が飛び降りてきた。
「侵入者あり! 排除せよォォォ!」
「ヒャッハー! 新鮮なタンパク質だァァァ!」
現れたのは、長い耳と整った顔立ちを持つ、美しきエルフたち。
だが、その首から下は――丸太のような筋肉で覆われていた。
彼らは弓矢など持っていない。手に持っているのは「丸太」や「岩」だ。
「……は?」
私が絶句している間に、エルフの一人が先頭の生徒に飛びかかった。
「歓迎の抱擁を受けてみよ!」
「ぬんッ! 甘い!」
ドガァァァッ!!
オークの生徒が、エルフのタックルを胸板で受け止めた。
衝撃波で周囲の落ち葉が舞い上がる。
「……ほう。良い大胸筋だ。合格だ、よそ者」
「貴様こそ。広背筋のキレ、悪くないぞ」
エルフとオークが、ガシッと熱い握手を交わした。
「……野蛮ですわ。私の知っている『森の賢人』のイメージと違いますのよ」
「オーナー、諦めましょう。ピノさんの実家ですよ? 普通なわけがありません」
田中さん(カメラ係)が、諦めの境地でシャッターを切った。
私たちは、エルフの族長(ピノの祖父)に案内され、集落へと向かった。
族長は、白く長い髭を蓄えているが、上半身は富士山を逆さにしたように隆起している。
「よく来たな、孫よ。そして、ひ弱な人間どもよ」
「お爺様。……この人たちはひ弱じゃない。……特にあの赤いの」
ピノがレオニダスを指差す。
レオニダスは、森の光景に涙を流して感動していた。
「素晴らしい……! なんという環境だ!」
森の木々には、天然のツタが垂れ下がり(登り綱)、枝には巨大な木の実(ダンベル代わり)がぶら下がっている。
川の流れは急流すぎて、逆らって泳ぐだけで最強の有酸素運動になる。
「ここは森ではない……『天然のジム』だ!」
「その通りじゃ、赤い男よ。我らエルフは、自然(筋肉)と対話することで、長寿を保っておる」
族長がポージングを決めた。
「さあ、若人たちよ! この森で生き延びてみせよ! 今夜の宿は、あの『世界樹の頂上(高さ1000m)』じゃ!」
「登った者だけが、夕食(プロテイン入りジビエ鍋)にありつけるぞ!」
「「「ウオオオオオオッ!!」」」
生徒たちの目が血走った。修学旅行という名のサバイバル合宿の始まりだ。
午後。
森の広場で、エルフ対ダンジョン学園の交流戦が行われることになった。
種目は「鬼ごっこ」。
「ルールは簡単じゃ。我らエルフの精鋭『森の疾風隊』から、30分間逃げ切れれば勝ちじゃ」
「逃げる? 笑わせるな!」
レオニダスが吠える。
「迎え撃て生徒たちよ! 攻撃は最大の防御なり!」
パァァァン!!(開始の合図)
シュババババッ!!
エルフたちが、残像を残して消えた。速い。
しかし、生徒たちも負けていない。
「そこだッ!」
「見切ったッス!」
ドゴッ! バキッ!
木々の間を飛び交いながら、空中での肉弾戦が始まった。
もはや「鬼ごっこ」ではない。「空中格闘戦」だ。
「……ねえ、田中さん。あれ、楽しそうですの?」
「……ええ、まあ。彼らにとっては」
私は、安全地帯(族長の家)でお茶を啜りながら、遠くで木がへし折れる音を聞いていた。
その時。
一人のエルフが、背後から私の生徒(人間の少女)を襲った。
「もらったァ! 捕獲!」
「キャッ……なんて言わないもん!」
少女は、背後の気配を察知し、振り返りざまに「裏拳」を叩き込んだ。
ズドォォン!!
エルフが幹にめり込む。
「……やるな、お嬢ちゃん。……俺の負けだ」
「ふふん! レオニダス先生の『背中で敵を見る』授業のおかげよ!」
生徒たちは、エルフの身体能力に、ダンジョンで鍛えた「野生の勘」で対抗していた。
激闘の末、生徒たちは全員、世界樹の頂上へ到達した。
夜空には満天の星。
そして、キャンプファイヤーを囲んで、エルフと生徒たちの宴が始まった。
「いいパンチだったぞ、人間!」
「そっちこそ! あの蹴り、効いたぜ!」
昼間殴り合った者同士、肩を組んでプロテイン(杯)を交わしている。
青春だ。暑苦しいけれど。
「……ピノ。貴女、良い職場を見つけたわね」
族長が、孫娘の頭をポンポンと叩いた(破壊音)。
「……ん。悪くない。……変な人ばかりだけど」
「そうか。……なら、これを持って行け」
族長は、巨大な袋を私に差し出した。
「これは?」
「森の特産品じゃ。『エルフの秘薬(飲むだけで筋肉が増強される樹液)』と、『世界樹の枝(オリハルコン並みに硬い)』じゃ」
「……!」
私の商売人センサー(電卓)が反応した。
これ、王都で売れば莫大な利益になるのでは?
「ありがとうございますわ族長! この恩は、売上で……じゃなくて、生徒たちの成長で返しますわ!」
「うむ。また来るがよい。次は『丸太投げ大会』で勝負じゃ」
翌日。
帰りのバスの中は、死体のように眠る生徒たちで埋め尽くされていた。
「……全員、完全燃焼しましたね」
「ええ。心地よい筋肉痛でしょうね」
私は、窓の外へ遠ざかるエルフの森を見つめた。
手には、族長から貰った大量の「商品サンプル」。
「今回の旅行、経費(バス代)を差し引いても黒字ですわ」
「……オーナー。思い出まで換金しないでくださいよ」
こうして、修学旅行は終了した。
生徒たちは、エルフの森で「野生の強さ」を学び、さらに一皮むけた戦士へと進化したのだった。
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