第65話 文化祭の演劇は『ロミオとジュリエット(物理)』。壁は壊すものです。
【場所:私立ダンジョン学園 大講堂】
【日時:3月 文化祭メインステージ】
「……田中教頭。わたくし、嫌な予感しかしませんの」
最前列の来賓席で、私はプログラムを握りしめて震えていた。
演劇部の演目は『ロミオとジュリエット』。
本来なら涙なしでは見られない純愛悲劇のはずだが、パンフレットのキャッチコピーにはこう書かれていた。
『 悲 劇 ? 甘 え る な ! 愛 は 筋 力 で 守り 抜 け ! 』
『 監修・演出:レオニダス 』
「……諦めてください、理事長。生徒たちは、もう『普通の感性』を持っていません」
田中さんが遠い目をした。
ブーッ!!(開演のブザー音)
幕が上がる。
舞台には、ベニヤ板で作られた巨大な「キャピュレット家の屋敷(バルコニー付き)」がセットされていた。
そこへ、主役のロミオが登場する。
「おぉ……ジュリエット! なぜ君はジュリエットなんだァァァ!!」
ドスドスドスッ!
現れたのは、制服の袖を引き裂いたオークの生徒(身長2m超)だった。
彼は胸板を叩きながら咆哮した。
「会いたい! 今すぐ君に会いたいぞオオオ!」
そして、バルコニーの上には、ヒロインのジュリエットが現れる。
ピンク色のドレスを着た、巨大なスライム(不定形)だ。
『プルルル……(ロミオ様……)』
スライムが切なげに触手を伸ばす。
本来なら、ここでロミオが愛を語り、バルコニーを登るシーンだが――。
「……まどろっこしい! 階段など不要ッ!」
オークのロミオが、屋敷の柱を抱えた。
「愛の障害(壁)など……こうしてやるッ! 『デッドリフト・クラッシュ』!!」
バキィッ!! メキメキメキッ!!
ロミオが柱を引き抜くと、バルコニーごと屋敷が崩壊した。
スライムのジュリエットが、瓦礫と共に落下してくる。
「危ない! ……ぬんッ!」
ロミオは落下してきたジュリエット(液体)を、見事な「お姫様抱っこ(バケツでキャッチ)」で受け止めた。
「大丈夫かジュリエット! 怪我はないか!(家は全壊したけど)」
『プルンッ!(素敵!)』
観客席から「おおおッ!」というどよめきが起こる。
不法侵入と器物破損だが、愛の力(物理)が勝った瞬間だ。
舞台は進み、二人の仲が引き裂かれるシーン。
大公(演じるのはリザードマンの生徒)が登場し、ロミオに告げる。
「ロミオよ! 貴様は追放だ! この街から出て行け!」
原作なら、ここでロミオは嘆き悲しみ、街を去る。
しかし、ダンジョン学園のロミオは違った。
「……追放だと? 笑わせるな」
ロミオは、大公の胸ぐら(鱗)を掴み上げた。
「俺の住所はここだ! 住民票もここにある! 文句があるなら力で排除してみろォォォ!」
ドガァァッ!!
ロミオのラリアットが炸裂し、大公が舞台袖まで吹っ飛んだ。
「……解決しましたわ」
「権力への反逆ですね……」
私は頭を抱えた。
脚本が崩壊している。しかし、観客席の親たち(魔物)は「そうだ! 自分の居場所は自分で守れ!」と大興奮だ。
いよいよクライマックス。
仮死状態になる薬を飲んで、死んだふりをする作戦のシーン。
ロレンス神父(演じるのはゴブリン)が、怪しげな瓶を差し出す。
「ジュリエットよ……。これを飲めば、仮死状態になれるケロ」
スライムのジュリエットが、瓶を受け取る。
しかし、そこにロミオが乱入した。
「待てェェェ! その薬はなんだ!」
「こ、これは仮死状態になる薬で……」
「馬鹿野郎! 体調管理を崩すような薬を飲むな!」
パリーン!!
ロミオは瓶を叩き割り、代わりに懐から巨大な袋を取り出した。
「飲むならこれだ! 『超回復プロテイン(バナナ味)』!!」
「……え?」
ロミオは、プロテインの粉末をジュリエット(スライム)の体内に直接練り込んだ。
「混ざれ! 混ざれぇぇぇ! 筋肉の礎となれぇぇぇ!」
ボォォォォォォン!!
プロテインを取り込んだジュリエットが発光した。
そして、不定形だった体がムキムキと隆起し、スライムなのに「シックスパック(腹筋)」が浮かび上がった。
『ムキッ!(復活!)』
「よし! これで無敵だ! 死んだふりなど必要ない! 敵対する両家を、二人で殲滅するぞ!」
『ムキキッ!(了解!)』
「「ウオオオオオオオッ!!」」
マッチョ・オークと、マッチョ・スライム。
最強のカップルが、敵役のモンタギュー家とキャピュレット家(他の生徒たち)になだれ込んだ。
「愛のダブル・ラリアットォォォ!」
「粘液ボディアタックぅぅぅ!」
ドカッ! バキッ! チュドォォン!!
舞台セットが完全に破壊され、敵役たちが空の彼方へキラーンと飛んでいく。
更地になったステージの中央で、二人は熱い抱擁を交わした。
「……俺たちの愛を邪魔する奴は、もういない!」
『プルルンッ!(筋肉万歳!)』
〜 FIN(完) 〜
シーン……。
一瞬の静寂の後。
ワァァァァァァァァァッ!!!!!
割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。
観客たちは総立ちで、涙を流している。
「素晴らしい! これぞ愛だ!」
「悲劇なんてクソ食らえだ! 力こそパワー!」
「ブラボー! マッスル!」
舞台袖から、演出家のレオニダスが出てきて、ドヤ顔でガッツポーズをした。
「見たか理事長! これが俺の教育の成果だ! 悲しみなど、筋肉でねじ伏せればいいのだ!」
私は、拍手をする手を止めて、深いため息をついた。
「……感動しましたわ(棒読み)。……でも、レオニダス先生?」
「なんだ!?」
「舞台の修理費と、大公役の治療費……給料から引いておきますわね?」
「な、なにィィィィッ!?」
こうして、ダンジョン学園の伝説に残る文化祭は、大赤字(修理費)と大感動(筋肉)を残して幕を閉じた。
この日を境に、学園の演劇部は「武闘派集団」として恐れられるようになったという。
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