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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第64話 祝・開校! 体育の授業は「死のスクワット」から始まります。

 【場所:ダンジョン・シティ 第5区画「私立ダンジョン学園(新築)」】

 【日時:1月中旬 入学式】

「……いいですか、皆様。この学園のモットーは『品格』と『知性』、そして『稼ぐ力』ですわ」

 新築の講堂で、私は理事長として演台に立っていた。

 目の前には、真新しい制服(防刃素材入り)に身を包んだ新入生たち。

 人間の子供、ゴブリンの子供、リザードマンの幼体……多種多様な生徒たちが、キラキラした(一部は殺気立った)目で私を見ている。

「読み書き計算、そしてダンジョン経営学。しっかり学んで、立派な社会人(社畜)になりなさい」

 パチパチパチ……。

 まばらな拍手の中、私は満足げに壇上を降りた。

「ふぅ。これで街の民度も上がりますわね、田中教頭」

「……だといいんですが。あの『体育教師』がいる限り、偏差値より戦闘力が上がりそうですよ」

 田中さんが、校庭の方を指差して溜息をついた。

 そこからは、早くも爆音と怒号が聞こえてきていた。


 ガラガラガッシャーン!!

 教室の壁を突き破って、ジャージ姿(上半身裸)のレオニダスが入ってきた。

 彼は教卓に仁王立ちすると、手にした出席簿(鉄板入り)を叩きつけた。

「注目ゥゥゥ! 俺が体育担当、レオニダスだ!」

 生徒たちがビクッと震える。

 レオニダスは、黒板にチョーク……ではなく、素手で拳の跡を刻み込みながら叫んだ。

「貴様らが学ぶべきことは一つ! 『筋肉マッスル』だ!」

 彼は教科書を手に取ると、

 ビリィッ!!

 一瞬で引き裂いた。

「紙切れなど不要! 重さを感じない物は、この世に存在しないも同然だ!」

「ひぃぃっ! 教科書が!」

 人間の子供が泣き出すが、レオニダスは止まらない。

「総員、校庭へ出ろ! これより『準備運動ウォーミングアップ』を開始する!」


 生徒たちが校庭に出ると、そこは変わり果てた姿になっていた。

 ブランコも滑り台もない。

 あるのは――。

 ・トゲ付きの鉄球が振り子運動する平均台

 ・底なし沼(スライム入り)の砂場

 ・高さ50メートルの断崖絶壁(元・ジャングルジム)

「……先生、これ、死ぬんじゃ?」

「甘えるな! 死ぬ気でやれば死なん!」

 レオニダスはホイッスルを吹いた。

「まずは基礎体力作りだ! スクワット一万回! 遅れた奴には、特別メニュー『ダンくんとの相撲』を追加する!」

 『えっ? 俺? また?』

 校庭の隅で用務員をやらされていたダンくん(ゴーレム)が困惑する。

「始めェェェッ!」

「「「イ、イエッサー!!」」」

 地獄の授業が始まった。

 人間の子供は足が震え、ゴブリンの子供は泡を吹き、リザードマンの子供だけが「尻尾が鍛えられる!」と喜んでいる。

「声が小さい! 大殿筋に語りかけろ! 『もっといける』と!」

「い、いけるぅぅぅ!」

「もっと腰を落とせ! 地球のコアを感じるまで!」

「コアあぁぁぁ!」

 もはや宗教だ。

 しかし、レオニダスのカリスマ性と、脱落したら「ダンくんと相撲」という恐怖が、生徒たちを突き動かしていた。

 

 昼休み。

 疲労困憊の生徒たちが食堂に辿り着くと、そこには給食係のピノが待っていた。

「……今日のメニュー」

 ピノが無表情でトレーに置いたのは、

 ・鶏ササミのボイル(味付けなし)

 ・ブロッコリーの山盛り

 ・特製プロテインシェイク(毒紫色)

 以上だ。

「……白米は? パンは?」

「……炭水化物は敵(とレオニダスが言ってた)。……食べないと、午後も持たない」

 生徒たちは泣きながらササミをかじり、謎の色のシェイクを飲み干した。

 すると――。

 ボォォォォン!!

 生徒たちの体から湯気が上がった。

「カッ!? なんだこれ、力が……湧いてくる!?」

「疲れが吹っ飛んだぞ! むしろ暴れたい気分だ!」

 ピノの特製シェイクには、マンドラゴラと興奮剤(合法)がたっぷり配合されていたのだ。

 

 夕方。

 私が理事長室で紅茶を飲んでいると、下校のチャイムが鳴った。

「……あら。初日にしては静かでしたわね。脱落者はいまして?」

「いえ、それが……全員生還したようです」

 田中さんが窓の外を見て、絶句した。

 私もつられて外を見る。

「…………は?」

 校門から出てきたのは、朝とは別人のような集団だった。

 制服の袖がパツパツに張り裂け、首が太くなり、全員が肩で風を切って歩いている。

 あのか弱かった人間の少年も、今や「世紀末の覇者」のような面構えだ。

「……先生、さようならッス! 明日も筋肉、いじめ抜くッス!」

「おう! 家に帰るまでが筋トレだ! 匍匐前進ほふくぜんしんで帰れ!」

「「「オォォォォォッ!!」」」

 生徒たちは、ズリズリと地面を這いながら、猛スピードで帰宅していった。

「……田中さん。私、戦士の育成所を作った覚えはありませんのよ?」

「……諦めましょう、オーナー。この街で生き残るには、あれくらいの生命力が必要なんです」

 こうして、私立ダンジョン学園は、開校初日にして「最も危険な特殊部隊養成所」としての悪名を轟かせることになった。

 私の求めていた「品格」は、筋肉の鎧の下に埋葬されたのだ。

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