第63話 サバイバル餅つき大会。臼の中身が噛み付いてきます。
【場所:ダンジョン・シティ 中央広場(特設リング)】
【日時:1月1日 元旦】
「……オーナー。日本の正月といえば、これですよ」
田中さんが、ねじり鉢巻きに法被姿で、仁王立ちしていた。
彼の背後には、ドワーフのガンテツたちが削り出した、直径5メートルはあろうかという巨大な「石臼」が鎮座している。
「……餅つき、ですわね? 知識としては知っていますけれど」
「はい。ですが、ただの餅では面白くありません。このダンジョンの住人たち(戦闘狂)を満足させるには、もっと『歯ごたえ』が必要です」
田中さんが合図を送ると、ピノとクルミが、巨大な檻を運んできた。
檻の中には、真っ白で、モチモチとしていて、そして――殺意に満ちた目でこちらを睨む「何か」が入っていた。
「……ピノ様? あれは何ですの?」
「……『モチ・スライム(キング種)』。……物理攻撃無効。打撃を吸収して巨大化する、厄介な魔物……」
「……そんなものを、どうやって食べると?」
「叩いて、叩いて、心を折るのよ。……彼らが『もうモチとして生きるしかない』と諦めるまでね」
クルミが不穏な解説をする。
要するに、調理という名の「公開処刑」だ。
『さあ! 新春恒例・大餅つき大会の開幕ッス!』
行司役のスケさんが軍配を振るった。
檻が開かれ、モチ・スライムが石臼の中にドゥルン! と飛び込む。
「杵担当は、もちろん俺だァァァッ!」
レオニダスが、丸太のような巨大杵を担いでリングインした。
対する「返し手(合いの手)」は――。
「……わらわがやる。面白そうじゃ」
魔王ヴァネスだ。
彼女は袖をまくり、やる気満々だ。
「いくぞ魔王! 手を挟まれるなよ!」
「ふん、余の動体視力を舐めるな! 来い!」
「せいやァァァァッ!!」
ドガァァァァン!!
レオニダスの渾身の一撃が、スライムに叩きつけられた。
普通ならペチャンコだが、相手はモチ・スライム。
ボヨヨンッ!!
衝撃を吸収し、逆に杵を弾き返そうとする。
「ぬんッ! 甘い!」
「そこじゃ! 『魔王返し(ハイ・スピード・ターン)』ッ!」
ヴァネスが、杵が上がった一瞬の隙に手を突っ込み、スライムをひっくり返す。
その手には、高熱の魔力が纏われていた。
ジュッ!!
「ピギャァァァッ!?(熱い!)」
叩かれる衝撃と、焼かれる熱さ。
スライムが悲鳴を上げる。
「オラオラオラァ! 粘り腰が足りんぞ!」
「もっと腰を入れんか勇者! 餅が伸びんぞ!」
ドガッ! ジュッ! ドガッ! ジュッ!
高速の餅つき。
それは調理を超えた、一方的な暴行だった。
しかし、スライムもただでは死なない。
数分後。
度重なる打撃で「コシ」が極限まで高まったスライムは、ついに覚醒した。
『モチィィィィィィッ!!』
スライムが突然膨張し、臼から溢れ出した。
そして、無数の触手を伸ばし、レオニダスとヴァネスに絡みつく!
「なっ!? 粘着力が上がっている!?」
「離せ! ぬるぬるして気持ち悪いのじゃ!」
二人が拘束され、逆に臼の中へ引きずり込まれそうになる。
形勢逆転。
このままでは、勇者と魔王が「具材」になってしまう!
「まずいですわ! 誰か助太刀を!」
『……しょうがないなぁ』
その時。
会場の隅で甘酒を飲んでいた、3メートルの木製ゴーレム(ダンくん)が立ち上がった。
『俺がやるよ。……あいつら、餅のつき方がなってない』
ダンくんは、巨大な木製の拳を天に掲げた。
その腕が、ギギギ……と変形する。
クルミの改造により、彼の腕には「パイルバンカー(杭打ち機)」の機構が組み込まれていたのだ。
『どいてな! 『必殺・鏡餅プレス(100トン)』ッ!!』
ズドォォォォォォォォォン!!!!
ダンくんの拳が、スライムの脳天に垂直落下した。
その威力は、レオニダスの杵の比ではない。
臼が悲鳴を上げ、地面が陥没する。
『モ……チ……(昇天)』
圧倒的な質量の前に、スライムは抵抗を諦めた。
その体は白く輝き、食欲をそそる「極上の餅」へと変化した。
「……完成です」
田中さんが、伸び切った餅をハサミで切り分けた。
つきたての餅は、湯気を立ててプルプルと震えている。
「さあ皆さん! 召し上がれ! ダンジョン特製・お雑煮ですよ!」
会場に、出汁(魔物骨スープ)の良い香りが漂う。
客たちが歓声を上げて餅に群がった。
「うめぇぇぇ! この弾力、半端ねぇぞ!」
「噛んでも噛んでも押し返してくる! 顎が鍛えられる!」
大盛況だ。
しかし、ここで新たな問題が発生した。
「……んぐっ!?」
「……む、むぐ……ッ!?」
餅を食べた客たちが、次々と喉を押さえて苦しみだしたのだ。
モチ・スライムの生命力は凄まじく、飲み込まれた後も食道で「壁張り付き(クライミング)」を行っていたのだ!
「キャアアアア! お客さんが窒息してますわ!」
「の、飲み込めないッス! 喉の奥で暴れてるッス!」
スケさん(食道がないのに)まで苦しんでいる。
これは「食中毒」ならぬ「食中・格闘戦」だ。
「……仕方ありませんわね」
私は、扇子をマイクに持ち替えた。
「皆様! 諦めてはいけません! 胃袋の力を信じるのです! 消化液を出して! 噛み砕いて! それが今年最初の『ダンジョン攻略』ですわ!」
私の応援(煽り)を受け、客たちは必死に餅と戦った。
背中を叩き合い、水を飲み、あるいは魔法で胃の中を燃やし。
数分後。
「……勝った」「……美味かった……」と、満足げ(かつ疲労困憊)な顔で倒れ込む人々が続出した。
夕方。
完売した餅の売上を数えながら、私は一息ついた。
「……死者ゼロ。奇跡ですわね」
「ええ。むしろ『死ぬほど美味い』という評判が広まって、来年の予約が入ってますよ」
田中さんが苦笑する。
ダンジョン・シティの住人は、平和な正月よりも、こうしたスリルを求めているのかもしれない。
「……ふぅ。今年も忙しくなりそうですわね」
私は、夕焼けに染まる巨大な臼(と、その中で力尽きて寝ているダンくん)を見上げ、新たな一年の商売繁盛を確信したのだった。
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