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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第62話 聖夜の筋肉サンタ。プレゼントは「ダンベル」一択です。

 【場所:ダンジョン・シティ 中央広場(特設ステージ)】

 【日時:12月24日 クリスマスイブ】

 シャンシャンシャン……♪

 街には軽快な鈴の音が響き、巨大なモミの木(ダンくんの枝を剪定したもの)が、発光苔と魔石のイルミネーションで彩られていた。

「……あざといですわね」

 私は、サンタ帽を被らされた妹のリリィが、客引きをしている様子を眺めた。

「さあさあ! 聖夜限定『愛のペアチケット』はいかが〜? 今なら『聖なる泥水ホーリー・マッド』もセットで金貨1枚よぉ〜♡」

「……あいつ、馴染むのが早すぎませんこと?」

「ええ。売上の計算速度、オーナーを超えてますよ」

 隣でトナカイの着ぐるみを着た田中さんが、遠い目で呟いた。

「ところでオーナー。……肝心の『サンタクロース』はまだですか? 子供たちが待ちくたびれてますよ」

 広場には、プレゼントを楽しみに待つ子供たち(人間、亜人、魔物の子供含む)が目を輝かせて座っていた。

「そろそろ来るはずですわ。……正直、不安しかありませんけれど」

 その時。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ……!!

 重低音と共に、地面が揺れた。

「メリー……クリスマッスルゥゥゥ!!」

 現れたのは、ソリを引いたサンタクロース。

 いや、「ソリを引いているサンタ」だった。

 上半身裸。オイルでテカテカに光る筋肉。赤いパンツと帽子だけを身につけたレオニダスが、数トンはある巨大なソリを、ロープ一本で肩に担いで引いている。

 そして、本来引くはずのトナカイ(モンスター)たちが、ソリの上でくつろいでいた。

「逆! 逆ですわ! なんでトナカイが乗ってますの!?」

「ガハハハ! 軟弱な獣に重労働はさせられん! サンタとは、広背筋で夢を運ぶ仕事だァ!」

 レオニダスは、子供たちの前にドスン! とソリを下ろした。

「さあ、良い子にしていた筋肉たちよ! プレゼントの時間だ!」

 

 子供たちがワッと群がった。

「サンタさん! 僕、ゲーム機が欲しい!」

「私は可愛いお洋服!」

「俺、伝説の剣!」

 レオニダスは、慈愛に満ちた(暑苦しい)笑顔で頷いた。

「うむ。わかった。……だが、貴様らの願いは『甘え』だ」

「「「えっ?」」」

 子供たちが凍りつく。

「ゲーム? 服? 剣? ……そんな物は、筋肉の前では無力だ!」

 レオニダスは袋の中に手を突っ込み、鉄塊を取り出した。

「少年よ。ゲームより重いコントローラーを持て。……はい、『5キロ・ダンベル(鉄製)』」

「ずしっ……え? 重い……なにこれ……」

「少女よ。服など筋肉という最高のドレスの前では霞む。……はい、『プロテイン(ストロベリー味・3キロ袋)』」

「……粉?」

「そして剣が欲しい少年よ。剣を振るうには、まず己が凶器にならねばならん。……はい、『ベンチプレス台(組立て式)』」

「……これ、家具?」

 広場が静まり返った。

 期待に胸を膨らませていた子供たちの目が、次第に潤み始める。

「う……うわぁぁぁん! 違う! これじゃないぃぃ!」

「お人形がいいぃぃ! 粉なんか飲みたくないぃぃ!」

 阿鼻叫喚。

 クリスマスの広場が、地獄絵図と化した。

「待ちなさいレオニダス! 子供たちが泣いてますわよ!」

「ふっ。今は泣くがいい。だが十年後、彼らは己の上腕二頭筋を見て、俺に感謝することになるッ!」

「十年も待てませんわ! 今すぐ営業妨害で訴えますわよ!」

 しかし。

 ここで予想外の事態が起きた。

 子供の後ろに控えていた親たち――その多くは、屈強な冒険者や魔物たちだ。

「お、おい見ろ! あのダンベル……重心バランスが完璧だ! 最高級のドワーフ製だぞ!」

「マジか! あのプロテインも、ピノ印の『マンドラゴラ配合・超回復パウダー』じゃないか! 市場価格なら金貨5枚はするぞ!」

 親たちが色めき立った。

 ダンジョン・シティの客層は、基本的に「武闘派」が多い。

 彼らにとって、レオニダスのプレゼントは、おもちゃよりも遥かに価値のある「実用品」だったのだ。

「坊主! 泣いてないで感謝しろ! これで父ちゃんと一緒にトレーニングできるぞ!」

「あなた! 良かったわねぇ! これで来年の魔王軍選抜試験に受かるわよ!」

 親たちの熱気に押され、泣いていた子供たちも「え? これ凄いの?」と涙を止める。

「……うん。わかった。僕、頑張って持ち上げるよ……ふんぬッ!」

「……私、粉飲む。強くなる……」

 子供たちが、ダンベルを必死に持ち上げ、プロテインを水で溶き始めた。

 広場全体から、「イチ! ニ! サン! ダーッ!」という掛け声が響き渡る。

「……なんなんですの、この宗教じみた光景は」

 私は呆然と立ち尽くした。

 イルミネーションの下、家族全員でスクワットをする集団。

 これが、聖夜?

「……あら、いいじゃない」

 リリィが、電卓を叩きながらニヤリと笑った。

「『ダンベルとプロテインのセット』、売店で飛ぶように売れ始めましたわ。お兄様レオニダスのサクラ効果、抜群ね」

「……計算高い妹ですわね」

 

 宴もたけなわ。

 最後は、恒例のクリスマスツリー点灯式だ。

点灯スイッチ・オンは、この俺がやる!」

 レオニダスが、ツリーの頂上に登った。

「見よ! 俺の筋肉の輝きを! 『マッスル・フラッシュ(聖なるポーズ)』ッ!!」

 カッ!!!!

 彼がポーズをとった瞬間、全身に塗られたオイルが照明を反射し、さらに魔力を帯びて、目もくらむような閃光を放った。

「ま、眩しいッ!!」

「目が! 目がぁぁぁ!」

 あまりの輝きに、本物のイルミネーションが霞んで見える。

 しかし、その光は暖かく、雪空を黄金色に染め上げた。

『うわぁ……綺麗だねベアトリス。暑苦しいけど』

「……ええ。悔しいけれど、幻想的ですわね(物理的に)」

 私は、ダンくんの幹に寄りかかり、その光景を眺めた。

 

 騒がしくて、乱暴で、商魂たくましい。

 けれど、誰もが笑顔(と筋肉痛)に包まれた、ダンジョン・シティのクリスマス。

 

「……メリークリスマス、ダンくん。来年はもう少し、静かな夜がいいですわ」

『無理だと思うよ。だって、次は「正月」が来るからね』

 そう。

 年末年始。

 それは、日本人転生者である田中さんが、一年で最も張り切る「あの行事」が待っているのだ。

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