第56話 建築ラッシュ! ドワーフの燃料は「ハイボール」です。
【場所:ダンジョン・シティ建設予定地 仮設テント】
【日時:5月下旬 面接2日目】
「……並べ! 押すな! 列を乱す奴は、この『元騎士団長』の剣が火を吹くぞ!」
ガルドスが、枯れた声で叫んでいた。
彼の目の前には、王都や近隣の集落から押し寄せた、多種多様な亜人たちの長蛇の列ができていた。
オークの大工、ゴブリンの穴掘り職人、ハーピーの左官屋……。
私の出した「過去不問・衣食住保証」の求人広告は、どうやら効果てきめんだったらしい。
「ふふふ。労働力が向こうから歩いてきますわ」
私はテントの中で、優雅に扇子を仰いだ。
しかし、問題は「技術力」だ。
ただの力自慢だけでは、私が思い描く「高層ビル」や「ショッピングモール」は作れない。
ドスッ、ドスッ、ドスッ……。
その時、地面を揺らす重厚な足音が響いた。
列を割って現れたのは、背丈は私の腰ほどしかないが、横幅はレオニダス並みにある、筋肉の塊のような集団だった。
豊かな髭を蓄え、背中には巨大なハンマーを背負っている。
「……ドワーフ?」
先頭に立つ、一際立派な白髭の男が、私の前で仁王立ちした。
「おう。ここが『美味い飯と酒が食える』って噂の現場か?」
声がデカい。鼓膜がビリビリする。
「ええ、そうですわ。私はオーナーのベアトリス。……貴方たちは?」
「俺は『鉄鎚のガンテツ』。こいつらは俺の一族(若い衆)だ」
ガンテツと名乗ったドワーフの棟梁は、鼻を鳴らして周囲を見渡した。
「……ふん。整地だけは一丁前だが、図面がなってねぇな。こんな軟弱な設計じゃ、ドラゴンがくしゃみしただけで倒壊するぞ」
彼が手に取ったのは、田中さんが苦労して書いた設計図だ。それを鼻紙のようにクシャッと握りつぶした。
「なっ!? 俺の徹夜の結晶が!」
「黙りなさい田中さん。……ほう、ではガンテツ様なら、もっと良いものが作れると?」
私は挑発的に微笑んだ。
ドワーフはプライドが高い。技術を貶されるとムキになるはずだ。
「当たり前だ! 俺達にかかれば、1000年風雪に耐える『要塞都市』なんざ、昼飯前よ!」
「素晴らしい! では即採用ですわ。報酬は金貨で……」
「断る」
ガンテツは即答した。
「金なんぞ、掘れば幾らでも出てくる。俺達が欲しいのは……『魂を震わせる至高の酒』だ!」
ドワーフたちが一斉に「酒! 酒! 酒!」とハンマーで地面を叩く。
暑苦しい。
「酒ならありますわよ? 王都の高級ワインに、エルフの秘蔵酒……」
「あんな水みたいなもん飲めるか! もっとこう、ガツンと来て、スカッとするやつだ!」
注文が多い。
しかし、彼らの技術は惜しい。
私はチラリと、後ろに控える田中さんを見た。
「……田中さん。心当たりは?」
「……ありますよ。ちょうど先日、ダンくんの機能拡張で『炭酸水製造サーバー』を導入したばかりですし」
田中さんがニヤリと笑った。
現代の酒飲みたちのソウルドリンク。あれを作る時が来たようだ。
「お待たせしました。……特製、『ダンジョン・ハイボール』です」
田中さんが運んできたのは、氷がたっぷり入った巨大なジョッキ。
中には黄金色の液体が満たされ、シュワシュワと涼しげな泡が立ち上っている。
ベースは、ゼノン爺さんが隠し持っていた「魔界産・熟成ウイスキー(アルコール度数60%)」。
それを、ダンくんの冷却機能で作った強炭酸水で割り、仕上げにピノの農園で採れたレモンを絞ったものだ。
「……なんじゃ、このパチパチ言ってる水は」
ガンテツは怪訝そうにジョッキを持ち上げた。
「毒見だ。……ゴクッ」
シュワァァァ……!
ガンテツの目が、カッ!! と見開かれた。
「…………ッ!?」
彼は言葉を失い、二口、三口と煽る。
そして――。
「プハァァァァァァァッ!!!」
ドガァァァン!!
感動のあまり、ガンテツが足を踏み鳴らし、地面が陥没した。
「なんだこれはァァァ! 口の中で小人が暴れ回っているようだ! 強烈な酒の味がするのに、喉越しは湧き水のように爽やか! いくらでも飲めるぞ!!」
「兄貴! 俺達にも飲ませてください!」
若い衆も回し飲みをする。
「うめぇ!」「キレてる!」「シュワシュワ最高!」と阿鼻叫喚の騒ぎだ。
「気に入っていただけて何よりですわ。……これ、仕事の後の『一杯』として、毎日提供しますけれど?」
私が悪魔の囁きをすると、ガンテツは私の手(扇子)をガシッと握りしめた。
「契約成立だ! おい野郎ども! 働くぞ! あのシュワシュワのために、死ぬ気でハンマーを振るえェェェ!!」
「「「オォォォォォォォッ!!!」」」
ドワーフたちが、バーサーカーのような目つきで工事現場へなだれ込んでいった。
そこからは早かった。
いや、早すぎた。
カンカンカンカンッ!!
ドワーフたちのハンマー捌きは、目にも止まらぬ速さだった。
彼らは魔法のように石材を切り出し、鉄骨を組み上げていく。
「資材が足りねぇ! おいデカブツ! 鉄骨持ってこい!」
『へいへい……。人使い荒いなぁ……』
ダンくん(重機モード)が、数トンある鉄骨を軽々と運ぶと、ドワーフたちが群がって一瞬でリベット打ちを行う。
「セメントだ! タナクリートを流し込め!」
「はいっ! 混ぜてます!」
レオニダスがマッハで撹拌したコンクリートを、グラン(ドラゴン)が空からブレスで急速乾燥させる。
「おい、そこの騎士! 水平器持ってこい! 1ミリのズレも許さんぞ!」
「は、はいっ! 今すぐ!」
現場は戦場だった。
しかし、その連携は見事という他ない。
みるみるうちに、更地に巨大な建造物の骨組みが出来上がっていく。
「……すごいですわ。これなら、予定より早く街が完成しそうです」
私はテントからその様子を眺め、ほくそ笑んだ。
酒代(炭酸水とレモン代)だけで、これだけの労働力を確保できるとは。コスパ最高だ。
数日後。
ついに、ダンジョン・シティの第一号棟、「商業エリア・メインビル」が完成した。
「……できたぞ。俺達の最高傑作だ」
ガンテツが、煤だらけの顔で誇らしげに胸を張った。
私は期待を込めて、幕を下ろした。
「さあ、お披露目ですわ!」
バサァッ!!
現れたのは――。
「…………」
そこには、巨大な「ビール樽」の形をしたビルが建っていた。
窓はジョッキの形。入り口は樽の栓。
そして、壁面にはドワーフ語で『酒は命の水』とデカデカと彫り込まれている。
「……ガンテツ様?」
「どうだ! 頑丈さと機能美、そして『酒への愛』を表現したデザインだ! 耐震性は抜群だぞ!」
ダサい。
圧倒的にダサい。
私が求めていたのは、王都の貴族も通いたくなるような「エレガントでモダンなビル」であって、巨大な居酒屋ではない。
「……作り直しです」
「な、なんだとォ!?」
「デザインセンスが致命的ですわ! クルミさん、設計図を引き直して! 構造計算はそのままで、外装だけ『お洒落』に変えさせなさい!」
「えぇ〜……。でも、この曲線美、悪くないと思うけど……」
「黙りなさい! 貴女の美的センスも大概ですわよ!」
結局、外装工事のやり直しでさらに数日かかったものの、なんとか街の基礎は完成した。
ハイボールの力で建てられた街、「ダンジョン・シティ」。
その街開きの日が、刻一刻と近づいていた。
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