第54話 GW(ゴールデンウィーク)は、元上司と部下の代理戦争ショー。
【場所:ダンジョン・マート 特設野外ステージ(ダンジョン入口前)】
【日時:5月上旬 GW初日】
「……なぜだ。なぜ、私がこんな格好を……」
ステージの袖で、ガルドス(元騎士団長)が震えていた。
彼が着ているのは、ボロボロの布を継ぎ接ぎした怪人の着ぐるみ。胸には大きく『借金大魔王』と書かれている。
「文句を言うんじゃありませんわ、新入り。それが貴方の役です」
私は台本(裏紙)で彼のアタマを叩いた。
「今日の主役は子供たち。そして、その親の財布です。……貴方は正義のヒーローに倒され、子供たちに『借金は怖い』という教育的トラウマを植え付ける。素晴らしい社会貢献ですわよ?」
「……くっ……! 騎士の誇りが……!」
そこへ、全身を真紅のタイツで包み、マントを羽織った男が現れた。
レオニダスだ。胸には『筋肉』の文字。
「ガハハハ! 団長、似合ってるぞ! 俺は『マッスル・レッド』! 今日こそ貴様を完膚なきまでに叩きのめしてやるからな!」
「……レオニダス。貴様、台本無視して本気で殴る気だろう?」
「当たり前だ! 過去のパワハラの恨み、筋肉で返済してやる!」
一触即発の二人。
その横で、舞台装置係のダンくんが、枝に吊るした「太陽の書き割り」を揺らしながら呟いた。
『……ねえベアトリス。これ、放送事故にならない? ガチの殺し合いの空気なんだけど』
「大丈夫ですわ。田中さんに『回復ポーション入りのスモーク』を焚かせますから。多少の流血は演出で誤魔化します」
「とぅぁぁぁぁっ!!」
レオニダスが高い跳躍(無駄に滞空時間が長い)からステージに降り立った。
「待たせたな、良い子のみんな! 俺は『マッスル・レッド』! 今日もプロテインを飲んで正義を執行するぞ!」
わぁぁぁぁぁ!!
客席の子供たちが歓声を上げる。最前列では魔王ヴァネスが「やっちまえー!」と焼きそばを食べながら叫んでいる。
「……出やがったな、正義の味方め」
ドロロロ……という効果音(スケさんが骨を鳴らす音)と共に、ガルドスが登場した。
「俺様は『借金大魔王』だ! ……この世のすべての金を利息で巻き上げてやる!」
「許さんぞ借金魔王! 俺の筋肉が唸る!」
ここまでは台本通りだ。
次の展開は、『魔王がパンチ一発で吹っ飛ぶ』はずだが――。
ブォンッ!!
レオニダスの剛腕フックが、ガルドスの顔面を襲う。
しかし、ガルドスは元騎士団長。反射的に体が動いた。
シュッ!(回避)
「……あ」
「……お?」
会場が静まり返る。
レオニダスがピキリと眉をひそめた。
「……団長ォ。避けるなよ。台本では『グワーッ!』って言って飛ぶところだろ?」
「……ふん。つい体がな。……それに、貴様のパンチは大振りすぎる。現役時代から進歩していないな」
「……あァ? 言ったな? 筋肉への冒涜だぞ?」
ゴゴゴゴゴ……!
二人の間から、演出ではない本物の殺気が立ち昇る。
「行くぞオラァァァ!!」
「来い、脳筋野郎!!」
ドガァッ!! バキィッ!!
ステージ上で、クロスカウンターが炸裂した。
着ぐるみが裂け、ステージの床板が砕け散る。
「すげぇ! 迫力満点だ!」
「最近のヒーローショーはCGを使ってるのか!?」
観客は大盛りあがりだ。
しかし、舞台裏は大パニックだった。
『ちょ、ちょっとベアトリス! ステージ壊れる! 俺の足元までヒビが入ってるよ!』
「田中さん! 火薬(魔法)です! 爆発で目くらましを!」
「了解です! 特製『花火ボール』投下!」
ドカァァァン!! チュドォォォン!!
田中さんが投げ込んだ爆発魔法が炸裂し、ステージは紅蓮の炎に包まれた。
その炎の中で、殴り合う二人の男。
「オラオラオラァ! その騎士剣(レンタル品)を捨てろ!」
「貴様こそプロテインを吐き出せ!」
ガルドスの剣技と、レオニダスの筋肉格闘術が拮抗している。
ガルドスも腐っても元団長。借金生活のハングリー精神で強くなっている!
「ええい、埒が明きませんわね」
私はマイクを握りしめ、アドリブで叫んだ。
「ああっ! ピンチよマッスル・レッド! みんな、彼に力を貸してあげて!」
その声に、子供たちが反応した。
そして、最前列の魔王ヴァネスも反応した。
「がんばれー! レッドー! ……ええい、じれったいのじゃ! わらわが力を貸してやる!」
ヴァネスが、持っていた「激辛焼きそば」の容器を放り投げ、両手を掲げた。
「極大消滅魔法・ヘル・フレア(応援)!!」
ズドォォォォォン!!!
黒い太陽のような火球が、ステージ上の二人を直撃した。
煙が晴れた後。
そこには、半壊したステージと、アフロヘアーのように焦げたレオニダスとガルドスが倒れていた。
そして、巻き込まれたダンくんも、全身が炭になって立ち尽くしていた。
『……俺、関係ないよね? ただの背景だったよね?』
「……勝者! マッスル・レッドォォォ!!」
私が強引に宣言すると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「すっげー! 最後の大爆発、どうやったんだ!?」
「特撮を超えてるぜ!」
子供たちは大満足。
親たちは感動して財布の紐を緩め、田中さんが用意した「マッスル饅頭」と「借金魔王クッキー」が飛ぶように売れていく。
「……ぐふっ。……勝負は……引き分けか……」
「……へへっ。……やるじゃねえか、団長……」
瓦礫の中で、ボロボロの二人が拳を合わせる。
なんだかんだで、雨降って地固まる(物理的に地面はえぐれたが)、といったところか。
イベント終了後。
私は、夕焼けに染まるダンジョンの入り口に立っていた。
目の前には、イベントの熱狂冷めやらぬまま帰路につく数千人の客たち。
「……狭いですわね」
『え?』
炭になった体を再生させながら、ダンくんが聞き返す。
「このダンジョンだけでは、もうキャパシティが足りませんわ。……それに、ガルドスのような『訳あり失業者』は、王都にまだまだ溢れているはず」
私は扇子を開き、荒野の彼方を指差した。
「ダンくん。拡張工事の次は……『都市開発』ですわよ」
『えぇ……? 規模がデカすぎない?』
「ダンジョンの周囲に、街を作るのです。従業員の社宅、アウトレットモール、カジノ、そして貴方の根っこを張り巡らせた『世界樹タワー』……!」
私の商魂が、新たな金脈を嗅ぎつけていた。
ダンジョン・マートから、「ダンジョン・シティ」へ。
私の搾取は、国一つを飲み込む勢いで加速しようとしていた。
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