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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第53話 面接に来たのは、私を追放した元騎士団長でした。

 【場所:ダンジョン・マート 商談ルーム(兼・面接会場)】

 【日時:4月中旬】

「……人手が足りませんわ」

 私は、積み上がった売上伝票(と請求書)の山を前に嘆息した。

 お花見イベントの大成功により、ダンジョンの知名度は爆上がり。連日、王都から客が押し寄せ、スタッフは疲弊しきっている。

「田中さんは調理につきっきり、スケさんはレジ打ちで指がすり減り、レオニダスは筋肉痛オーバーワーク。……新しい奴隷、もとい『正社員』が必要ですわ」

『ベアトリス、言い直せてないよ』

 隣で茶を淹れてくれるダンくん(3m木製ゴーレム)がツッコむ。彼の巨体は威圧感があるため、今日は私の背後に控えてもらい、「無言の圧力」担当になってもらっている。

「オーナー。ちょうど一名、面接希望者が来ていますよ」

 田中さんが、一枚の履歴書(羊皮紙)を持ってきた。

「どれどれ……。職歴:王立騎士団・団長。……特技:剣術、指揮、冤罪の捏造(※私の書き込み)。……ふむ」

 私はニヤリと口角を上げた。

 この名前、忘れるはずがない。

 かつて王宮の舞踏会で、私を指差し「貴様のような悪女は追放だ!」と叫んだ男。

「……通しなさい。たっぷりと『圧迫面接』をして差し上げますわ」

 

 ガチャリ。

 扉が開き、一人の男が入ってきた。

 かつては白銀の鎧を纏っていたその体には、薄汚れた革鎧と、疲れ切った顔が張り付いている。

「……失礼する。面接に来た、ガルドスだ」

 元騎士団長、ガルドス。

 彼は、深々と帽子を目深に被っていたため、まだ私が誰だか気づいていないようだ。

「……志望動機は?」

「……王都の騎士団が、リストラ(解体)されたからだ」

 ガルドスは、悔しそうに唇を噛んだ。

「王都は今、不景気だ。……なんでも、とあるダンジョンが『食料とポーション』の流通を独占したせいで、王家の財政が破綻したらしい。騎士団への給料も払えなくなり……私は路頭に迷った」

 まあ、それやったの私ですけど。

「……で、プライドを捨てて、敵であるはずのダンジョンに職を求めてきた、と?」

「……背に腹は代えられん。家族もいる。……どんな汚れ仕事でもするつもりだ」

 殊勝な心がけだ。

 私は、手に持っていた扇子をパチリと閉じた。

「そうですか。……では、顔を上げなさい、ガルドス」

 男がゆっくりと顔を上げる。

 そして、玉座(社長椅子)に座る私と、その背後に立つ3メートルの巨木ダンくんを見て――凍りついた。

「……な、……ベ、ベアトリス……嬢……!?」

 彼の顔から血の気が引いていく。

「お久しぶりですわね、団長様。……いえ、今は『無職様』でしたっけ?」

「ば、馬鹿な!? 貴様、死んだはずでは……! いや、ここが貴様のダンジョンなのか!?」

 ガルドスが腰の剣に手を伸ばそうとする。

 その瞬間。

 ドォォォン!!

 背後のダンくん(3m)が、一歩前に踏み出した。

 床が揺れる。天井の照明が明滅する。

 ダンくんの顔(スマホ画面)には、『怒』のマークが赤く表示されていた。

『……おい。ベアトリスに剣を向ける気か? ……ミンチにするぞ』

「ヒィッ!? ゴ、ゴーレム!? しかも世界樹の!?」

 ガルドスは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。

「落ち着きなさい。面接中ですわよ」

 私は優雅に微笑んだ。

「貴方の剣の腕は評価しています。……そこで、実技試験を行いますわ。入ってきなさい」

 私が指を鳴らすと、奥の扉から、ムキムキの男が現れた。

「おう、団長! 久しぶりだな! 元気してたか!」

「レ、レオニダス!? 勇者レオニダスじゃないか! なぜここに!?」

 かつて王国の英雄だった男が、今は「ダンジョン マート」と書かれたエプロンを着て、デッキブラシを持っている。

「借金返済だ! ここはいいぞ、プロテインが飲み放題だ!」

「……勇者が落ちぶれたものだ……」

「何を言う! 俺の筋肉は現役時代よりキレてるぞ! ……さあ団長、俺と勝負だ!」

 レオニダスがデッキブラシを構えた。

 ガルドスもまた、騎士の誇りをかけて剣を抜く。

「……腐っても元団長。掃除用具ごときに負けはせん!」

 「採用試験、スタート!」

 ガルドスが鋭い突きを繰り出す。

 しかし――。

 バシュッ!

 レオニダスは、筋肉の鎧(大胸筋)で剣を受け止めた。

「なっ!?」

「甘いな団長! ダンジョンの清掃業務は、ドラゴン(大家)の鱗を磨くほどの重労働! 俺の筋肉は、すでにオリハルコンを超えている!」

 「マッスル・モップ・クラッシュ!!」

 ドガァァァン!!

 デッキブラシの一撃が、ガルドスの剣を弾き飛ばし、彼を壁にめり込ませた。

 

「……ぐ、ぐふっ……」

 壁からずり落ちたガルドスは、白目を剥いていた。

 私は彼を見下ろし、履歴書に『採用』のハンコを押した。

「合格ですわ」

「……は……?」

「その打たれ強さ。そして元騎士団長というネームバリュー。……使い道はあります」

 私は、用意していた新しい制服(という名の着ぐるみ)を投げ渡した。

「明日から貴方の役職は『駐車場の誘導員 兼 サンドバッグ』です」

「サ、サンドバッグ……!?」

「ええ。ストレスの溜まった冒険者向けに、『元騎士団長を1分間殴り放題』というサービスを始めますの。……給料は『乾パン』と『水』ですわよ?」

 因果応報。

 かつて彼が私に与えた絶望を、今度は彼が味わう番だ。

「そ、そんな……私は誇り高き騎士……」

「嫌なら帰ってもよろしくてよ? ……王都にはもう、貴方の居場所なんてありませんでしょうけれど」

 ガルドスは震えた。

 そして、ゆっくりと地面に額を擦り付けた。

「……よろ……しく……お願い……します……」

 屈辱の土下座。

 こうして、かつての宿敵が、我がダンジョンの「最下層スタッフ」として加わることになった。

 

 翌日。

 駐車場の隅で、カエルの着ぐるみを着せられたガルドスが、うなだれていた。

「……オーライ、オーライッス! 新入り、声が小さいッスよ!」

 先輩であるスケさん(骨)が、ここぞとばかりに先輩風を吹かせている。

「いいッスか? ここではオーナーが絶対ッス! 肋骨の一本や二本、粉になる覚悟で働くッス!」

「……はい、スケルトン先輩……」

 元騎士団長が、スケルトンに敬語を使っている。

 その光景をモニターで眺めながら、私はダンくんの腕の中で高笑いした。

「おーっほっほっほ! 最高の眺めですわ! さあ、死ぬまで働いていただきましょう!」

『……ベアトリス、本当に性格悪いよね(褒め言葉)』

 ダンジョン・マートの従業員名簿に、また一人、訳ありの社畜が刻まれたのだった。

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