第46話 初詣はダンジョンへ。賽銭箱はミミックです。
【場所:ダンジョン・マート 特設エリア「ベアトリス大明神」】
【日時:元旦 午前9時】
パンパン!(柏手を打つ音)
「……今年も、カモ(お客様)がたくさん来ますように」
私は、紅白の巫女装束(ただしスリット深めの改造品)に身を包み、深々と頭を下げた。
目の前にあるのは、昨夜、スケさんたちに徹夜で作らせた「ベアトリス大明神」の社だ。
御神体は、私の「黄金の像(等身大チョコ)」。
『……ねえベアトリス。これ、バチが当たらない?』
「何を言っているの、ダンくん。私はこのダンジョンの『オーナー』よ? 神様みたいなものでしょう?」
私は、賽銭箱(見た目は木箱だが、中身は「収納魔法陣」直結)を撫でた。
初詣。
それは、人々が無防備に財布の紐を緩める、一年で最も素晴らしいイベントだ。
原価ゼロの「祈り」を高値で売る。これぞ究極の錬金術である。
「さあ、開門ですわ! スケさん、レオニダス、お客様を誘導なさい!」
「らっしゃっせぇぇぇぇッ!! 開運マッスルゥゥゥ!!」
入り口で怒号が響いた。
勇者レオニダスだ。
彼は、白いふんどし一丁に法被という、極寒の中で見ているだけで風邪を引きそうな姿で、客引き(誘導)をしていた。
「押すなよゴブリン! 列を乱すなオーク! 並んでいる間も『空気椅子』で太腿を鍛えるんだ!」
「ひぃぃッ! 正月からキツいゴブゥ!」
……まあ、警備としては優秀ね。
客層は、近隣の村人、冒険者、そして魔物たち。
普段は殺し合う彼らも、今日だけは「家内安全」や「商売繁盛」を願って大人しく並んでいる。
「ふむ……。ここが噂の『新興宗教』の拠点か」
列の先頭に、黒い着物を着流した魔王ヴァネスと、ちゃんちゃんこを着たゼノン爺さんが現れた。
「あら、明けましておめでとうございます、ヴァネス様」
「うむ。……ベアトリス、その格好……似合っておるではないか(悔しいが)」
ヴァネスは、私の巫女姿を見て少し顔を赤らめた。
「それで? ここに賽銭を投げれば、願いが叶うというのか?」
「ええ、もちろんですわ。……ただし、金額(信仰心)次第ですけれど」
チャリン♪
ヴァネスは、金貨を一枚、賽銭箱に投げ入れた。
「余の願いは一つ。……『身長が伸びますように』!」
切実だ。
魔王の威厳に関わる願いだ。
「……ふふっ。では、こちらの『おみくじ』をどうぞ」
私は、木製の筒を差し出した。
ガラガラ……ポンッ。
ヴァネスが引いた棒には、『99番』と書かれていた。
「99番か。……縁起が良さそうじゃな」
「では、こちらの棚から99番の紙をお取りください」
ヴァネスが紙を開く。
そこには、達筆な文字(スケさんの筆)でこう書かれていた。
【 大 凶 】
運勢:最悪。寝ている間に角が折れるでしょう。身長は縮みます。
ラッキーアイテム:ベアトリス特製『開運・牛乳ポーション(金貨50枚)』
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁッ!?」
ヴァネスが絶叫した。
「『大凶』!? しかも身長が縮むじゃと!? 呪いか! これは呪いなのか!?」
「あらあら、お気の毒に……。これでは今年一年、魔王軍は全滅、ヴァネス様は一生子供体型ですわね……」
「嫌じゃぁぁぁ! 取り消せ! 今すぐこの未来を書き換えろぉぉぉ!」
魔王が半泣きで私に縋り付く。
チョロい。あまりにもチョロすぎる。
「……仕方ありませんわね。では、こちらの『厄除け破魔矢(オリハルコン製)』をご購入ください。今なら特別価格、金貨100枚です」
「買う! 全部買う! 身長が縮むのだけは嫌なんじゃぁぁ!」
チャリーン!
魔王の財布から、大量の金貨が吸い上げられた。
「次は俺だ! 俺の運勢を占ってくれ!」
休憩に入ったレオニダスが、鼻息荒く筒を振った。
ポンッ。出たのは『29(ニク)番』。
「おっ! 語呂がいいぞ! これは期待できる!」
彼が開いた紙には――
【 筋 吉 】(きん-きち)
運勢:プロテインの粉を床にぶち撒けるでしょう。
願望:ベンチプレスのバーが錆びる。
ラッキーアイテム:ベアトリス特製『ダンベル守り(鉛の塊)』
「ぬあぁぁぁぁッ!! プロテインを!? 床に!? ……そんな、この世の終わりだ!」
レオニダスが頭を抱えて蹲った。
彼にとって、プロテインの喪失は死に等しい。
「……神よ(オーナーよ)。どうすれば救われるのだ?」
「簡単ですわ。……賽銭箱に、貴方の全財産(今日のバイト代)を入れなさい。そうすれば、筋肉の神は微笑むでしょう」
「……分かった! 捧げよう、俺の血と汗の結晶を!」
チャリーン!
勇者のバイト代が、即座に回収された。
【甘酒コーナー:老人の知恵】
「……カッカッカ。若いのぅ」
騒ぐ二人を尻目に、ゼノン爺さんは無料配布の「甘酒(マンドラゴラ発酵エキス入り)」を啜っていた。
「……ん? なんだ爺さん、引かないのか?」
「フォッフォッフォ。ワシはもう、運になど頼らんよ。……それに」
ゼノン爺さんは、賽銭箱の裏側をコンコンと杖で叩いた。
すると、箱の中から「……イテッ」という小さな声が聞こえた。
「……中に入ってる『あやつ(ダンくん)』に、直接頼んだほうが早かろうて」
「……ッ!?」
ギクリ。
バレている。
「……ま、ワシの口を塞ぎたければ……この甘酒、もう一杯もらおうか」
「……どうぞ。おかわり自由ですわ(チッ)」
やはり、年の功。
元魔王だけあって、詐欺の手口には敏感だ。
夕方。
参拝客が帰り、賽銭箱は金貨で溢れかえっていた。
「大勝利……。これが『宗教ビジネス』の旨味……!」
私が売上の計算に陶酔していると、
ズズズズズ……ッ!!
地下から、強烈な地響きが伝わってきた。
「……きゃっ!? 地震?」
『違うよベアトリス! 大家さん(グラン)だ!』
ドォォォォン!!
社の地面を突き破り、グランの巨大な頭が出現した。
「……おい、人間」
「ひぃッ!? ……あ、あらグラン。明けましておめでとうございます」
「……うるさい。……上で散々騒ぎおって……。ボクの安眠を妨害した『場所代(ショバ代)』……分かってるよねぇ?」
グランが、賽銭箱をジロリと睨んだ。
その目には、「独り占めは許さんぞ」という絶対強者の意志が宿っている。
「……」
「……」
私は、震える手で賽銭箱を持ち上げ、グランの前に差し出した。
「……お、お年玉ですわ。どうぞ……」
「うむ。よろしい」
ガブッ!!
グランは賽銭箱ごと金貨を丸呑みし(箱は吐き出した)、満足げに地下へ戻っていった。
「…………私の……売上が……」
【結果】
売上:金貨1000枚
経費:社の建設費、巫女服代、仕入れ代
場所代:金貨1000枚(全没収)
利益:プライスレス(疲労のみ)
「……来年は、ドラゴンの口に結界を張りますわ」
私は、空っぽになった賽銭箱を抱え、新年の空に誓ったのだった。
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