第45話 除夜の鐘は、煩悩(筋肉)を叩き割る音。
【場所:ダンジョン・マート 屋上特設ステージ】
【日時:大晦日 午後11時】
「……寒い。寒すぎるのじゃ、ベアトリス。なぜ余がこんな吹きさらしの屋上にいなければならぬのじゃ」
魔王ヴァネスが、モコモコの毛皮に包まれながら不機嫌そうに鼻をすすった。
隣では、ゼノン爺さんが「年越し蕎麦(かき揚げマシマシ)」をズズズと啜り、勇者レオニダスが上半身裸で「除夜のスクワット108回」を完遂しようと汗を流している。
「あら、ヴァネス様。今日は『除夜の鐘』という、魂のデトックスイベントですのよ」
私は、厚手のドレスに身を包み、優雅に温かいココアを飲んだ。
「この鐘を108回鳴らすことで、一年の邪念を払い、清らかな心で新年を迎えるのですわ。……もちろん、参加費(浄化料)は別途いただきますけれど」
屋上の中央には、私が特注した巨大な「ミスリル合金製の鐘」が吊るされていた。
しかし、問題が一つあった。
『ねえベアトリス。……肝心の「鐘を突く棒」が届いてないよ? 配送業者のオーガが、雪道で転んで折っちゃったって』
通信機が非情な報告を告げる。
この寒空の下、鐘を突く手段がない。
「……あら。困りましたわね」
私が扇子をパチンと閉じると、周囲の「不運な精鋭たち」に視線を向けた。
「……何か、硬くて、丈夫で、108回の衝撃に耐えられる『代用品』はありませんかしら?」
その場に、嫌な緊張感が走った。
「ひっ!? な、何を見てるんスかオーナー! 自分、スカスカの骨ッスよ! ミスリルにぶつかったら、粉末出汁になっちゃうッス!」
必死に頭を抱えるスケさん。却下だ。彼はカルシウム不足だ。
「……ほう。オーナー。……つまり、俺の肉体を『撞木』にしろと?」
レオニダスが、キラーンと碧眼を輝かせた。
「いいだろう! 108回の衝突! それは即ち、108回の超回復! 元旦には俺の頭蓋骨はダイヤモンドをも凌駕する硬度になっているはずだぁぁぁッ!!」
「……却下ですわ。血生臭い新年なんて御免です」
「余を見るな! 余はパフェを食べるのに忙しいのじゃ!」
ヴァネスは背中を向けた。
「……仕方ありませんわね。グラン、起きてくださる?」
私が屋上の床をコンコンと叩くと、ダンジョン全体がズズズ……と震動した。
屋上の縁から、巨大な銀色の頭がヌッと現れる。
「……ふわぁ。……ボクを、こんな寒い夜に起こすなんて、いい度胸だねぇ……」
「グラン。貴方の尻尾を少しだけお借りしたいのですわ。……お礼に、特大の『年越しステーキ(牛5頭分)』を差し上げますから」
「……交渉成立だ。ボクの尻尾は、世界で一番硬いからね」
グランが巨体を翻し、太く逞しい尻尾を鐘の前にセットした。
準備は整った。
「さあ、ヴァネス様。一発目は貴女にお願いしますわ」
「ふん、見ておれ! 余の怒り(ポテチの品切れへの恨み)を込めて……! グラン、やるぞ!」
ヴァネスが魔法の手綱でグランの尻尾を操作し、鐘に向けて一気に叩きつけた。
ゴォォォォォォォォォン……ッ!!!!
重厚な、空気を震わせる音が響き渡る。
その音波は、魔界の果てまで届かんばかりの威力。
「おおお……。なんだか、心が洗われるようですわ……(売上のこと以外)」
続いて、ゼノン爺さん。
「……ワシの、隠居後の寂しさを……食らえぃ!」
ゴンッ!!
「……腰に響くわい……」
そして、勇者レオニダス。
「次は俺だ! 除夜のサイド・チェストォォォ!!」
彼はグランの尻尾を抱え込み、自身の筋力で鐘に激突させた。
ドゴォォォォォン!!!
「……あ、鐘にヒビが……」
鐘の音は続き、いよいよ最後、108回目。
時刻は深夜0時ちょうど。
「最後は、全員でいきましょうか」
私、ヴァネス、レオニダス、ゼノン、そしてスケさんが、グランの尻尾に手を添えた。
(※メランは音波で消滅しかけていたので避難)
「「「「「せーのっ!!」」」」」
ドカァァァァァァァァァァァン!!!!!!
鐘が粉々に砕け散った。
と同時に、夜空に色とりどりの魔法花火が打ち上がる。
「「「「「明けましておめでとうございます!!」」」」」
金色の粉(ミスリルの破片)が雪のように舞い散る中、私たちは新年の挨拶を交わした。
「ふふ。今年も、しっかり搾り取らせていただきますわよ、お客様」
私は、砕け散ったミスリルの破片(時価・数百万ゴールド)を、こっそり袋に回収しながら微笑んだ。
「さあ! 元旦早々、『初売り・福袋セール』の開始ですわ! 勇者様、魔王様、財布の準備はよろしいかしら!?」
「「……この女、正月くらい休めよ!!」」
勇者と魔王の声が重なったが、彼女の手元にはすでに、特製の「福袋(中身は在庫の毒野菜)」が用意されていた。
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