第42話 勇者突撃。魔王との決戦は「会員ランク」の格付けチェック
【場所:ダンジョン・マート エントランス】
【状況:勇者レオニダス、涙の突入】
「おのれ魔王軍! よくも我が聖域を!!」
ドォォォォン!!
ダンジョンの入り口にある「魔王軍提携記念・ドクロの旗」を見た勇者レオニダスは、愛剣(バーベル代わりのグレートソード)を引き抜き、猛然と突撃した。
「待っていろベアトリス! 今すぐ助けてやるぞ! ……筋肉(俺)が来たからにはもう大丈夫だ!」
彼は、受付で「いらっしゃいませー」と挨拶するスケさんを華麗なサイドステップでかわし、魔力の中心であるVIPルームへと走った。
彼の脳内では、魔王に捕らわれ、鎖に繋がれたベアトリスが「助けてレオニダス様!」と泣いている映像(妄想)が再生されている。
「うおおおおッ! 大胸筋が怒りで震えているぞぉぉぉ!」
バァァァァン!!
レオニダスは、VIPルームの扉を蹴破った。
「覚悟しろ魔王ヴァネス! その薄汚い手を……離せ……?」
しかし。
そこで彼が見た光景は、予想とは少し(かなり)違っていた。
【VIPルーム:優雅なティータイム】
「……あ、レオニダス様。こんにちは」
「……ん? なんじゃ、暑苦しいのが来たのう」
部屋の中央では、私と魔王ヴァネスが、高級なテーブルを囲んで「限定・マンドラゴラパフェ」をつついていた。
鎖もなければ、悲鳴もない。
あるのは、甘いスイーツの香りと、穏やかな談笑だけだ。
「……え? ……ベアトリス? 無事……なのか?」
レオニダスが、剣をだらりと下げた。
「ええ。見ての通り、ヴァネス様と『新商品(プロテイン入りクッキー)』の試食会をしていましたの」
「……試食会? 監禁ではなく?」
「違いますわ。先日、魔王軍と『業務提携(スポンサー契約)』を結びましたので」
私が説明すると、レオニダスの顔色がサァーッと青ざめた。
そして、プルプルと震え始めた。
「……て、提携だと……? 宿敵である魔王と……?」
「ええ。おかげで魔界のレア素材が手に入りますし、経営も安泰ですわ」
私が微笑むと、レオニダスはその場に膝をついた。
「嘘だ……! 俺は信じんぞ! 魔王軍の旗が立っているということは、ここはもう……敵の陣地じゃないか!」
「アウェイではありません。ここは『中立地帯』です」
すると、パフェの上のサクランボを食べていたヴァネスが、ニヤリと笑った。
「くくく……。哀れな勇者よ。状況が飲み込めておらぬようじゃな」
ヴァネスは、懐から一枚のカードを取り出した。
それは、漆黒に輝く金属製のカード。
「見よ! これがベアトリスから授かった『ブラック・ダイヤモンド・オーナーズカード』じゃ!」
「ブ、ブラック……!?」
レオニダスが目を見開いた。
彼がおずおずと懐から取り出したのは、金色に輝くカード。
「お、俺のは……『ゴールド・マッスル・会員証』……」
「ふん。ゴールドか。……古いな。余のブラックカードは、ゴールドの3倍のポイント還元率と、優先予約権、さらに『隠し湯』への貸切パスが付いておるのじゃ!」
ガァァァァン!!
レオニダスの頭上に雷が落ちた。
正義か悪か、ではない。
「会員ランクの差」。
それが、資本主義ダンジョンにおける絶対的な序列なのだ。
「そ、そんな……! 俺は! 誰よりもこのジムに通い! 誰よりもプロテインを買ったはずだ! なのに、なぜポッと出の魔王がブラックなんだァァァ!」
レオニダスが血涙を流して叫んだ。
「簡単ですわ、レオニダス様」
私は扇子で口元を隠し、冷徹な事実を告げた。
「ヴァネス様は、国家予算(魔王軍の軍事費)で『法人契約』を結ばれました。……個人の勇者様とは、桁が違いますの」
「……認めん」
ゆらり、とレオニダスが立ち上がった。
その瞳に、不屈の闘志(と書いて物欲と読む)が宿る。
「金か……。金が全てなのか……! ならば見せてやる! 勇者の、いや、一人のトレーニーとしての意地を!」
彼は、腰の革袋(全財産)をテーブルに叩きつけた。
「ベアトリス! 俺のランクを上げろ! 魔王より上に! そのためには何を買えばいい!?」
「ほう? 余に喧嘩を売るとはいい度胸じゃ」
ヴァネスも立ち上がり、パフェのスプーンを投げ捨てた。
「面白い。受けて立とう。……余の財力(税金)と、貴様の財力(報酬)。どちらがこの店にとって『上客』か、勝負じゃ!」
ゴングが鳴った。
「では……本日入荷したばかりの『天界産・天使の羽衣プロテイン(飲むと浮く)』。限定1個、オークション形式でまいりますわ!」
「金貨100枚!」とレオニダス。
「150枚!」とヴァネス。
「ぬぐぐ……! 200枚!」
「甘いのじゃ! 300枚と、余の城にある『骨董品』をつける!」
「骨董品だと!? ……くそっ、なら俺は……『王様から貰った記念メダル』をつける!」
ヒートアップする二人。
その横で、番台の休憩中だったゼノン爺さんが、お茶を啜りながら呆れていた。
「……やれやれ。魔王も勇者も、平和なもんじゃのう」
「そうですわね。……あ、ゼノン様。煽るのやめていただけます? レオニダス様が泣きそうですわ」
1時間後。
勝負はついた。
勝者、魔王ヴァネス。
彼女は『天使の羽衣プロテイン』と『ブラックカード』の地位を守り抜いた。
しかし、その代償として魔王城の宝物庫はスッカラカンになった。
「……ふっ。勝った……。これで……ダンジョンの支配者は……余じゃ……(ゼェゼェ)」
一方、敗者のレオニダスは、真っ白な灰になっていた。
「……負けた……。俺の筋肉は……ブラックには届かなかった……」
「いい勝負でしたわ、レオニダス様」
私は、山積みになった金貨と宝物を回収しながら、灰になった勇者に声をかけた。
「ところで、レオニダス様。……これだけ散財されて、帰りの馬車代は?」
「……ない」
「明日の食事代は?」
「……ない」
「宿代は?」
「……野宿か……」
勇者の目から光が消えた。
魔王に負け、金も失い、ただの無一文のマッチョ。
あまりにも哀れだ。
しかし、私は慈悲深いオーナー。
「……提案がありますわ」
私は、一枚の羊皮紙を差し出した。
「当ダンジョンでは、現在『清掃スタッフ兼・ジムトレーナー』を募集中です。……時給は『カツ丼一杯』。いかがかしら?」
レオニダスが顔を上げた。
「……カツ丼……!」
「ええ。それに、従業員になれば、ジムの器具は使い放題ですわよ?」
「……!!」
勇者の目に、再び炎が灯った。
「やります! やらせてください! 俺の筋肉は、このダンジョンのためにある!」
「採用ですわ」
こうして。
我がダンジョン・マートに、新たな従業員が加わった。
名前:レオニダス(勇者)
役職:清掃員 兼 ジムトレーナー
特技:高速モップ掛け(サイドステップで)、バーベル片付け
「ふははは! 床が輝いているぞ! これもまた修行!」
エントランスで、楽しそうにモップを掛ける勇者の姿。
それを見ながら、魔王ヴァネスが呟いた。
「……あいつ、本当に勇者か? 楽しそうじゃな……」
「いいのです。……これでまた、人件費が浮きましたわ」
魔王をスポンサーに、勇者をバイトに。
ベアトリスのダンジョン経営は、盤石の体制へと突入していくのだった。
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