第40話 国家権力VSカツ丼。ダンジョン独立国、建国宣言!
【場所:ダンジョン・マート 社長室(旧・ボス部屋)】
【現在DP:測定不能(国家予算レベル)】
その日、私の優雅なティータイムは、一枚の羊皮紙によって破壊された。
「……なんと?」
目の前に立つのは、王国の財務大臣ゲルド。
脂ぎった顔に、意地悪そうな丸眼鏡をかけた、いかにも「ザ・役人」といった風貌の男だ。
「ですから、本日より貴殿のダンジョンに対し、『特別法人税・兼・国防協力費』として、売上の95%を徴収させていただきます」
ゲルドは、分厚い法令集をバサリと机に置いた。
「理由は分かりますね? 貴殿の商売は、王国の経済バランスを崩壊させている。……神公認だか何だか知りませんが、国の土地で商売をする以上、国に従っていただく」
「……95%。それは税金ではなく、強盗と言いますのよ?」
私は扇子で口元を隠し、冷徹な視線を送った。
確かに、最近の我がダンジョンは目立ちすぎた。
温泉、高級食材、神様の加護。
国としては、このドル箱を管理下に置きたくてたまらないのだろう。
「拒否すれば?」
「ふふ。……外をご覧ください」
ゲルドが指差した窓の外。
ダンジョンの周囲を、「王国騎士団・3000名」が完全に包囲していた。
完全武装の精鋭部隊だ。
「武力制圧も辞さない構えです。……さあ、賢明な判断を」
脅しだ。
しかし、彼は相手を間違えた。
私は、元・悪役令嬢。
そして現在は、世界一強欲な経営者(ニート志望)だ。
「……いいでしょう」
私は立ち上がり、インカムのスイッチを入れた。
「総員、聞きなさい! 只今より、当ダンジョンは王国との交渉を決裂! これより、『ダンジョン独立国』としての建国を宣言しますわ!」
「な、なんだと!? 独立だと!?」
「ええ。ここは私の私有地。そして神様公認の聖域。……貴方たちの法律は通用しませんわ」
私はゲルドを指差し、宣言した。
「出て行きなさい! さもなくば……『今日のランチ』がどうなっても知りませんわよ?」
「はっ! たかが飯ごときで脅すつもりか! 総員、突撃ぃぃぃ!」
ゲルドの号令で、3000の兵士がダンジョンになだれ込もうとした。
その時だ。
ドォォォォォン!!
入り口に、巨大な影が立ちはだかった。
木製ゴーレム、ダン坊だ。
その胸には『国境警備隊』の襷がかかっている。
『ここから先はパスポートが必要です! 不法入国者は強制送還します!』
「巨大な木偶人形だと!? 燃やしてしまえ!」
兵士たちが火矢を構える。
しかし、ダン坊の背後から、クルミの声が響いた。
「甘いわ。……発動、『対人結界・空腹モード』!」
ブォォォォン……。
ダンジョン全体から、奇妙な波動が放たれた。
それは攻撃魔法ではない。
ただ、強烈に「食欲を刺激する匂い」を拡散させるだけの結界だ。
ジュウウウウウ……♪
漂ってきたのは、揚げたてのカツの香り。
甘辛いタレの香り。
炊きたてのご飯の香り。
「ぐぅ……ッ!?」
「な、なんだこの匂いは……! 腹が……腹が減るぞぉぉ!」
最前線の兵士たちが、武器を取り落として腹を押さえた。
「……皆様、ご存知かしら?」
私は、巨大拡声器(魔法道具)を使って、戦場全体に語りかけた。
「王都の飲食店で提供されている『カツ丼』『ポーション』『魔導具』。……その素材の8割は、我がダンジョンが卸しているものですわ」
「な……に……?」
「つまり、私が流通を止めれば……王都の食卓は壊滅。貴方たちの今日の昼食も、夕食も、明日の朝食も……すべて『乾パン』と『水』になりますわよ?」
ザワッ……!
兵士たちに動揺が走る。
彼らにとって、ダンジョン産の美食は、すでに生活の一部だったのだ。
「そんな……! 俺の楽しみの『週一カツ丼』がなくなるのか!?」
「嫌だ! 嫁さんが『今日はダンジョン産の角煮よ』って言ってたのに!」
「乾パンは嫌だぁぁぁ!」
戦意喪失。
胃袋を掴まれた軍隊ほど脆いものはない。
「ええい、怯むな! たかが食事だ!」
ゲルド大臣が叫ぶ。
しかし、その時、空が割れた。
【介入:神の裁き(テキストメッセージ)】
ピカーッ!!
天から一筋の光が降り注ぎ、ダン坊の顔(スマホ画面)を直撃した。
『うわっ!? 画面が勝手に……! なんだこれ、緊急地震速報!?』
「いいえ、もっと上位の存在からの通知ですわ!」
ダン坊の巨大な画面に、空中に投影されるほどの巨大な文字が浮かび上がった。
それは、神代文字(古代ヘブライ語っぽいフォント)ではなく、誰にでも読める王国語だった。
【警告:神より】
【件名:カツ丼の供給について】
【本文:おい、下界の王よ。……余の「カツ丼(大盛り・つゆだく)」の定期便が遅れているのだが? もしこれ以上、ダンジョンの営業を妨害するなら……王都の「運気」を「大凶」にするぞ? 具体的には、タンスの角に小指をぶつける呪いを国民全員にかける】
シーン……。
戦場が凍りついた。
あまりにも地味で、しかし絶対に避けたい神の呪い。
「……か、神託だと……!?」
「王よ……聞こえますか……。神が『カツ丼をよこせ』と仰っています……」
兵士たちが空を見上げて祈り始めた。
もはや、勝負ありだ。
「……くっ、くそぉぉぉ! たかが一介の商店風情が、神まで味方につけるとは!」
ゲルド大臣は、膝から崩れ落ちた。
【終戦協定:ダンジョン公国誕生】
数時間後。
社長室のテーブルには、新たな協定書が置かれていた。
1.王国は、ダンジョンの自治権を認める。
2.税金は免除。その代わり、王家には優先的に「新作スイーツ」を献上する。
3.神様のカツ丼デリバリーは最優先事項とする。
「……これでよろしいですわね?」
私がサインを求めると、ゲルド大臣は震える手で署名した。
「……王家も、実は貴殿の『マンドラゴラ羊羹』のファンでな……。供給が止まるのは困ると仰せだ……」
「賢明なご判断ですわ」
こうして。
我がダンジョンは、名実ともに「ダンジョン公国」として独立を果たした。
国家元首は私、ベアトリス。
「……ベアトリス様。一国の主ですね」
「ええ。響きはいいですわね」
私は、窓から見える景色を見渡した。
行列を作る冒険者たち。
湯気を上げる温泉宿。
巨大なアンテナと化した旦那様(ダン坊)。
「でも、やることは変わりませんわ」
私は、扇子を広げ、高らかに宣言した。
「さあ、今日も稼ぎますわよ! すべては、私が引退して『優雅な年金生活』を送るために!」
「結局そこですかッス!」
スケさんがツッコミを入れる中、ダンジョン公国の第一歩が踏み出されたのだった。
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