第39話 聖女様の悩みは「神様との通信(アンテナ)圏外」でした
【場所:旅館「冥府の宿」・VIPルーム】
【お客様:聖女エライザ様(お忍びモード)】
「……はぁ。最近、アンテナが1本しか立たないのです……」
高級座布団に正座した聖女エライザ様は、深いため息をついて茶を啜った。
清楚で儚げな美少女だが、その発言はどこか現代的(?)だった。
「……あの、エライザ様? 『アンテナ』とは何の隠語でして?」
「神託の感度のことですわ、女将さん」
彼女は涙目で訴えた。
「昔は『5G』並みにクリアに聞こえていた神様の声が、最近はノイズ混じりで……。特に地下や山奥に行くと『圏外』になってしまうのです!」
「なるほど。つまり……神様と『繋がらない』と」
「はい。これでは信者にお告げも伝えられません。私、神様に見捨てられたのでしょうか……?」
深刻な顔で落ち込む聖女。
しかし、私の隣で控えていたクルミが、眼鏡(伊達)をクイッと押し上げた。
「……分析完了。原因は『見捨てられた』わけじゃないわ」
クルミは懐から水晶玉を取り出し、エライザ様の頭上にかざした。
「貴女の周囲の『聖なる波長』が乱れているだけよ。最近、ストレスで肩が凝ってない? 肩のコリが霊的磁場を歪めて、受信障害を起こしているのね」
「そ、そういえば……教会本部の派閥争いで、肩と首がバキバキで……」
「それが原因よ。……ベアトリスさん、これは『物理的』に解決できるわ」
クルミがニヤリと笑った。
嫌な予感がする。
「……どうするつもりですの?」
「簡単よ。ここ(地下最深部)は電波……じゃなくて『神託』が届きにくいエリア。だから、強力な『中継アンテナ』を立てればいいの」
クルミが指差したのは、部屋の隅で「お茶汲みロボ」として待機していた、巨大な木製ゴーレム――ダン坊だった。
『……え? 俺?』
【旅館中庭:神託受信儀式】
ズシンッ!
ダン坊が、中庭の中央に仁王立ちした。
その頭上には、なぜか聖女エライザ様が「肩車」されている。
『ねぇ、これ何!? 俺、スマホだよ!? なんで人間の女の子を肩車してんの!?』
「黙りなさいダンくん。貴方のボディは『世界樹の枝』製。魔力伝導率は世界最高峰よ。つまり、貴方は今、世界で一番感度のいい『生きたアンテナ』なの!」
クルミが、ダン坊の足元に魔法陣を描きながら叫ぶ。
「エライザ様! そのままダンくんの『頭の苔』をしっかり掴んで、天に祈りを捧げてください!」
「は、はいっ! ……おお、神よ! 我が声を聞き届けたまえ!」
キュイイイイーン……!
ダン坊の身体を通して、エライザ様の祈りが増幅される。
世界樹の魔力が、青白い光となって天へと立ち昇った。
「すげぇッス! ダン坊の頭がピカピカ光ってるッス!」
「……うむ。まるで、伝説の『雷撃の塔』のようじゃな」
スケさんとゼノン爺さんが感心している。
しかし、当のダンくんは――
『重い! エライザ様、意外と体重ある!? あと、太ももが顔(画面)に当たって操作できない! 誤タップしちゃう!』
「神聖な儀式中に何を言っていますの! 我慢なさい!」
私は日傘を振り回して応援した。
「さあ、クルミさん! 感度は!?」
「……来てるわ! 『神託』の波長をキャッチ! ……でも、まだノイズがひどい!」
水晶玉を覗き込むクルミが叫んだ。
「もっと高く! ダンくん、背伸びして! 爪先立ちになりなさい!」
『無茶言うな! この巨体で爪先立ちは……くっ、うおおおおっ!』
ギリギリギリ……ッ!
ダン坊が、プルプルと震えながら爪先立ちをした。
身長がさらに30センチ伸びる。
その瞬間。
バチチチッ!
エライザ様の脳内に、クリアな「声」が響き渡った。
「……あ! 聞こえます! 神様の声が! HD音質で聞こえます!」
「やりましたわ! で、神様は何と!?」
私たち全員が固唾を飲んで見守る。
世界の命運を左右するお告げか、それとも破滅の予言か。
エライザ様は、恍惚とした表情で、神の言葉を復唱した。
「……『あー、あー。テステス。……聞こえるか? 我じゃ。……最近、供物がシケておるぞ。……もっとこう、脂の乗った肉とかないんか?』……と、仰っています」
ズコーッ!!
全員がひっくり返った。
ダン坊もバランスを崩しそうになった。
「……神様、ただのグルメな爺さんじゃなくて?」
「しっ! 不敬ですわベアトリスさん!」
エライザ様は必死に通信を続けた。
「『……おう、そこはダンジョンか? ……あそこには、美味いカツ丼があると聞いておる。……それを供えよ。……さすれば、世界を救うヒントをやろう。……あと、ポテチも頼む』……通信終了」
プツン。
光が消えた。
中庭に静寂が戻る。
「……」
「……」
エライザ様は、真っ赤な顔でダン坊から降りた。
「……も、申し訳ありません……。うちの神様、俗世の文化に詳しくて……」
「いいえ。……要するに、カツ丼をご所望なのですね?」
私はニヤリと笑った。
これはビジネスチャンスだ。
【数時間後:ダンジョン祭壇】
「神様ぁ〜! お待ちかねの『特製カツ丼・神盛り(金貨50枚)』ですわよ〜!」
私たちは、祭壇に湯気を立てる巨大なカツ丼を供えた。
すると、カツ丼は光に包まれ、一瞬で消滅した。
神様(どこかの次元にいる存在)が、デリバリーを受け取ったのだ。
直後。
エライザ様の頭の中に、再びクリアな声が響いた。
「……『うむ。美味い。サクサクの衣と、甘辛いタレのハーモニーが絶妙じゃ。……褒美に、教会の予算を倍増させてやろう。……あと、この店の女将に伝えておけ。「商売繁盛の加護(星5つ)」を与えてやる』……だそうです!」
カキーン!!
その言葉と共に、ダンジョンの入り口に黄金の看板が出現した。
『神様御用達・冥府の宿 〜星5つ認定〜』
「……勝ちましたわ」
私は震える手で扇子を握りしめた。
宗教界のトップと、そのバックにいる「神」までもが、我がダンジョンの顧客になったのだ。
「ベアトリス様、流石です! ……でも、神様って意外とチョロいんですね」
「田中さん、口を慎みなさい。神様は『舌が肥えている』だけですわ」
こうして、聖女様の悩みは「カツ丼デリバリー」によって解決した。
エライザ様はスッキリした顔で、大量のお土産(冷凍カツ丼)を持って帰っていった。
『……俺、神様との通信機にされたんだけど……。通信料(パケット代)、請求していい?』
ダン坊のぼやきだけが、虚しく響いていた。
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