第37話 賢者の隠し湯は「裸の知識」が湧き出る、謎かけ温泉でした
【場所:ダンジョン最下層・隠し通路の先】
【現在DP:68,000】
「うわぁ……」
ダン坊が転倒して見つけた隠し通路の先には、神秘的な光景が広がっていた。
巨大な洞窟の中央に、エメラルドグリーンに輝く温泉が湧き出している。
天井からは光が降り注ぎ、湯気は幻想的な光の帯となって舞い上がっていた。
「……これが『賢者の隠し湯』ですわね」
私は日傘を畳み、その美しさに息を呑んだ。
肌で感じる魔力の濃度が違う。ここには、特別な力が宿っている。
「分析完了。この湯には、特殊な「情報伝達性魔力粒子」が含まれているわ。入浴することで、脳内の情報処理能力が向上する可能性がある」
「つまり……頭が良くなるってことッスか!?」
スケさんが目を輝かせた。
その時だった。
チャプン……。
湯の中から、小さな人影がゆっくりと現れた。
水色の髪を持つ、幼い少女の姿。
だが、その頭には巨大な「木桶」を逆さまにしたような帽子を被り、手には光る杖を持っている。
『よくぞここまで辿り着きました。我は、この『賢者の隠し湯』を守りし精霊、ユドロ』
「精霊ですって?」
ユドロは、キラキラと目を輝かせながら、私たちをじっと見つめた。
『さあ、賢者の湯に入りなさい。ただし、この湯に入るには、我の出す「謎かけ」を解かねばならぬ』
『また面倒なのが出てきたぞ……』
ダン坊の顔(スマホ画面)に、呆れた顔文字が表示された。
「謎かけ、ですって?」
『うむ。もし解けねば……罰として、「裸で踊りながら湯の周りを三周」してもらう!』
「は!?」
私は思わず声が出た。
なんてはしたない罰則だ!
『さあ、第一問!』
ユドロは杖をキラキラと振った。
『我が友は、常に私を温めてくれる。決して裏切らず、何も言わず、ただひたすらに熱い。さて、この「友」とは誰ぞ?』
シーン……。
その場に、重苦しい沈黙が訪れた。
ユドロは首を傾げた。
『……難しいか?』
「い、いいえ。あまりにも……」
あまりにも、どストレートすぎる謎かけだ。
誰もが顔を見合わせる。
私が答える前に、クルミがクールに手を挙げた。
「はい。その友とは……『湯』。つまり『賢者の隠し湯』のことね」
『おお! 正解! さすがクルミ殿! 頭が良き者と見受けたり!』
ユドロがパチパチと拍手をした。
クルミは得意げな顔をしている。
「ふん。当然よ。私の解析能力に、こんな低レベルな謎かけが通じるわけがないわ」
よし、これならいける。
クルミの知識力があれば、どんな謎かけも解けるはずだ。
『では、第二問!』
ユドロは、キラキラと目を輝かせた。
『常に冷たい顔をしておるが、実は一番熱い心を持つ。巨大な体でダンジョンを守るが、水場では浮き輪を手放せぬ。さて、これは誰ぞ?』
ピクッ。
グランの眉がピクリと動いた。
彼は、仏頂面で湯を見つめている。
「……グラン様、貴方のことですわね」
「黙れ。ボクはカナヅチではない」
クルミが自信満々に手を挙げた。
「はい! その答えは……『大家』!」
『おお! 正解!』
ユドロが再び拍手をした。
グランは顔を背けて、不機嫌そうだ。
「ふん。こんな分かりやすい謎かけばかりでは、時間の無駄だわ」
「その通りですわ。そろそろ入浴させていただけません?」
私が言うと、ユドロはフッと笑った。
『くくく……。では、最後の一問! これを解けば、湯に入ることを許そう。……ただし、これは「魂の謎かけ」じゃ。己の心と向き合って答えるが良い』
ユドロの表情が、一瞬だけ真剣なものに変わった。
湯の輝きが増し、周囲の魔力が濃くなる。
『……世界を支配したいと願う者も、世界を変えたいと願う者も、すべては己の欲望のため。では、汝の欲望とは何か? ……何を求めて、このダンジョンを経営している?』
シーン……。
重い沈黙が、洞窟を包み込んだ。
これは、これまでの謎かけとは違う。
クルミは、解析しようと脳をフル回転させるが、答えが出ない。
スケさんや田中さんも、困惑した顔で私を見ている。
何を求めて、ダンジョンを経営しているのか?
お金? 権力? 承認欲求?
私は、自分の心に問いかけた。
そして、フッと笑った。
「私の欲望、ですって?」
私は、湯の前に進み出た。
そして、顔を上げた。
「私の欲望は、『優雅なニート生活』ですわ」
ピクッ。
ユドロの眉が跳ね上がった。
「そのために、私はダンジョンを経営し、金を稼ぎ、従業員を増やし、設備を近代化する。すべては、私が何もしなくても、このダンジョンが勝手に回り、私に莫大な富をもたらしてくれる『不労所得システム』を構築するためですわ」
『ええっ!?』
ダンくんのスマホ画面に、驚愕の顔文字が表示された。
クルミは、目を見開いて私を見つめている。
「つまり、私の最終目標は、この玉座でティーカップを傾けながら、『世界で最も優雅で、最も働かない経営者』になること。……それが私の、正真正銘の『欲望』ですわ!」
私が言い放った瞬間。
ユドロは、目を見開き、そして――
ケラケラケラケラッ!!
腹を抱えて笑い出した。
『おお! 大正解! 素晴らしい! なんと清々しく、かつ邪悪な欲望か!』
ユドロは、杖を高く掲げた。
『見事! 我の謎かけを解いた者は、貴様が初めてじゃ! さあ、我が友よ! 存分に湯を楽しみ、己が知識を深めるが良い!』
ユドロの言葉と共に、湯がさらに強く輝いた。
「……はぁ。疲れましたわ」
湯の中にゆっくりと足を踏み入れた。
湯は温かく、肌に優しい。
頭の中に、知識が流れ込んでくるのが分かる。
それは、ダンジョンの効率的な運営方法や、新たなビジネスモデル、そして……。
「……あら? この『温泉旅館経営論』は?」
「ベアトリス様、それ、コミケの新刊ネタになりますよ!」
田中さんが湯の中から叫んだ。
湯から上がった私たちは、皆、頭がスッキリとしていた。
特にスケさん。
「俺、英語が喋れるッス! 『ハロー、マイフレンド! ボーン・トゥ・ビー・ワイルド!』」
「なぜその単語を覚えましたの……?」
クルミも、湯に入ってさらに進化したようだ。
「……ふふ。湯の解析が完了したわ。これで『情報伝達性魔力粒子』を、自在に操れるようになる。……ダンくんの身体を、もっと効率的にカスタマイズできるわね♥」
『やめろぉぉぉ!』
グランは、入浴後も不機嫌そうだ。
「……何故だ。ボクだけ、カツ丼のレシピしか思い浮かばないんだが?」
「それはグラン様の純粋な食欲が、湯の知識をフィルタリングした結果ですわ」
そしてピノは。
「……うぅ。この湯、集中力が上がる……。徹夜でゲームしても疲れにくい……。ここを私の『専用湯』にしたい……」
新たなニート拠点を見つけ、目を輝かせている。
「さて、この湯は、ダンジョンの新たな観光名所になるでしょう」
私は、湯から得た知識を元に、新たな企画書を書き始めた。
『賢者の隠し湯』の発見。
それは、私の「優雅なニート生活」に、また一歩近づく大きな足跡となるだろう。
『……このダンジョン、どこに向かってるんだ』
ダンくんの呟きは、湯気の向こうに消えていった。
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