第36話 スマホが「巨大な木人」に!? ダンくん、ついに歩き出す
【場所:ダンジョン工房(クルミ専用ラボ)】
【現在DP:68,000(世界樹の枝の価値を含まず)】
ガリガリ、ギコギコ……。
ダンジョンの奥深くにあるクルミのラボから、異様な音が響き渡っていた。
彼女は、世界樹の枝を前に、工具(レーザー切断機)を片手に目を輝かせている。
隣には、無数の設計図と、食べかけのカツ丼の空き容器が散乱していた。
「……ふふふ。まさか、このファンタジー世界でこんな良質な素材が手に入るとは。これで『ダンくん専用・最強機動要塞ボディ(愛称:ウォーカー)』が作れるわ!」
『ちょっ! ウォーカーってロボットじゃん! ロボットには乗りたくない!』
私の胸元で、ダンくんが必死に叫んでいる。
「何を言っていますの。あくまで『杖』として物理的に移動できるようになるだけですわ」
「そうよ、ダンくん。これは杖。杖だから、ファンタジーよ」
クルミはニヤリと笑った。
この悪魔のコンビが揃えば、どんな無茶な依頼でも「ファンタジー」という言葉で誤魔化されてしまう。
「クルミさん。くれぐれも、彼を「操り人形」のような趣味の悪い姿にはしないこと。あくまで、品格を保った『執事』のような……」
「ご安心を。品格と、そして『可愛さ』を両立させたデザインにしてあげるわ!」
『ヤバい! 嫌な予感しかしない!』
【数日後:ダンジョン・マート広場】
ゴゴゴゴゴ……。
ダンジョン全体に、重々しい足音が響き渡った。
従業員たちが固唾を飲んで見守る中、奥の扉から「それ」は現れた。
身長3メートル。
世界樹の枝を贅沢に使った、全身木製の巨体。
関節部には、クルミ特製の「生体魔法ケーブル」が張り巡らされ、滑らかな動きを可能にしている。
そして、その顔――。
そこには、スマホがすっぽり収まるようにくり抜かれた「顔」があり、ダンくんの画面が「目」のように光っている。
頭頂部には、ピノが育てた「光る苔」が植えられ、まるで髪飾りのよう。
全体的には、「巨大な木彫りの熊」のようなフォルムだ。
『やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
ダンくんの悲鳴が、広場に響き渡った。
『な、なんだこれ!? これが俺の新しい身体!? なんて趣味の悪いデザインなんだぁぁぁ!』
「うふふっ♥ 可愛いでしょ、ダンくん専用『歩行型コア・ゴーレム(愛称:ダン坊)』!」
クルミは頬を染めながら、ダン坊を見上げている。
確かに可愛い。
……悪趣味な意味で。
「……ふむ。まるで、生きた樹木のようですわ。これなら、ファンタジーの範疇ですわね」
「むしろ、木属性モンスターッスよ!」
スケさんが目を輝かせている。
「さあ、ダンくん。動いてみなさい」
私が指示すると、ダン坊はぎこちない動きで一歩を踏み出した。
ズシンッ!
床が揺れる。
さらに一歩。二歩。
その巨体が、意志を持って歩いている。
『う、動く! 動くぞぉぉぉ! 俺のこの手足が!』
ダンくんは、ぎこちないながらも、喜びの声を上げた。
彼にとっては、スマホの中で生きてきたこの一年、文字通り「夢」だったのだ。
『もっと早く! 走りたい!』
ダン坊は、両足を大きく振り上げ、広場を走り出した。
ドスドスドスドスッ!
その巨体が、猛スピードで走り回る。
しかし、コントロールがまだ完璧ではない。
「キャアアアアアアッ! こっち来ないでくださぁい!」
メランが悲鳴を上げ、半壊した壁に激突。
田中さんが避難したキッチンを、ダン坊の巨体が踏み潰していく。
「俺のキッチンがぁぁぁ! 最新の調理機材がぁぁぁ!」
「ダンくん! 暴れるんじゃありません! 設備が壊れますわ!」
私は日傘でダン坊の足元を叩いた。
「この! 止まりなさい! 止まれー!」
『止まり方を知らないぃぃぃ!』
その時。
ダン坊の足元から、無数の蔦が飛び出した。
ピノが、両手を広げて立っている。
「……はい、ストップ」
グググググ……。
世界樹の枝でできたダン坊は、ピノの植物操作能力の前には無力だった。
瞬く間に蔦に絡め取られ、巨体はピタリと静止した。
「……ふぅ。危なかった」
「さすがですわ、ピノ様。……しかし、これではダンくんが自由に動き回れませんわね」
私は首を傾げた。
せっかく動けるようになったのだ。彼に自由にダンジョン内を巡回させたい。
「だったら、私が『制御系アプリ』を作ってあげるわ」
クルミが、自身のタブレットを取り出した。
「ダンくん。この『ダンジョン・ナビ(クルミ専用)』アプリを使えば、貴方の居場所も行動も、すべて私に筒抜けになるわ」
『それ、監視アプリだろ!?』
「ふふっ♥ 私とダンくんの『愛の絆(GPS)』よ」
クルミは、ダン坊の胸部に、自身のタブレットを装着した。
これで、彼女が遠隔でダン坊を操作(監視)できるようになったのだ。
【数日後:ダンジョン巡回中】
ドスンドスン……。
ダン坊は、クルミが作った「ダンジョン・ナビ」の指示に従い、ゆっくりとダンジョン内を巡回していた。
その胸元のタブレットには、クルミの顔が映し出されている。
『ダンくん。今、第3層の魔物避けのトラップが故障したみたい。修理しといてね』
『はいはい……』
ダン坊は、巨大な指でトラップを修理していく。
その姿は、まるで巨大な便利屋だ。
「おい、ダン坊! ここ掃除しとけ!」
「ダン坊、ここを掘ってくれ!」
スケさんやゼノン爺さんからも、次々と指示が飛ぶ。
ダンくんは、文句を言いながらも、彼らの頼みを聞いていた。
『俺の新しい身体、完全に「雑用係」になってるぅぅ!』
『文句を言わないの。これもダンジョンのためよ』
クルミの声が響く。
「……ふふふ。素晴らしいですわ」
私は、紅茶を飲みながら、ダン坊を見守っていた。
元カレ(スマホ)が、巨大な木偶人形になって、ダンジョン中の雑用をこなしている。
こんなにも効率的で、そして愉快な光景はない。
『この身体、マジで色々と不便なんだよな……。特に、この顔にスマホが埋め込まれてるデザイン! 恥ずかしすぎて、外に出たくない!』
その時だった。
ダン坊が、不意に足元に転がっていた「古びた地図」につまずいた。
ドォォォォォォン!!
巨体が盛大な音を立てて転倒した。
『いてててて! 何だこれ!?』
ダン坊が倒れた先は、地下へと続く隠し通路だった。
古びた地図が、その通路の入り口を示している。
「あら? こんな場所に隠し通路が?」
私は地図を拾い上げた。
そこには、達筆な文字でこう書かれていた。
『地下最深部へ。賢者の隠し湯あり』
「賢者の隠し湯……?」
地図は、ダンジョンの最下層、これまで誰も踏み入れたことのないエリアを指し示している。
そこには、一体何が眠っているのだろうか?
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