第35話 エルフの騎士団は、筋肉と光合成と「植物への愛」でできている
【現在DP:54,000(ピノの食費で減少中)】
【侵入者警報:正面入り口に「緑の集団」あり】
平和な朝だった。
ピノが育てた「目覚まし草(叫ぶ草)」の悲鳴で起床し、田中さんが作る「マンドラゴラの味噌汁」を飲む。
そんな奇妙な日常が定着しつつある中、非常ベルが鳴り響いた。
「……また? 最近、来客が多くて肌荒れしそうですわ」
私は日傘を差し、優雅にモニターを確認した。
そこに映っていたのは、緑色の鎧に身を包んだ一団だった。
エルフだ。
長い耳。美しい金髪。
しかし、決定的にイメージと違う点が一つあった。
「……首が、太い」
そう。彼らは全員、ボディビルダー顔負けの「超・筋肉質」だったのだ。
鎧がパツパツに膨れ上がり、歩くたびに「メキッ、メキッ」と石畳が悲鳴を上げている。
『うわぁ……。あいつら、プロテイン飲んでるタイプのエルフだ』
「……あ」
テーブルの下に隠れていたピノが、震えながら呟いた。
「……『森林警備隊』……。お父様の親衛隊……。通称『ゴリラ・エルフ』……」
「なんて不名誉な通称ですの」
ピノは頭を抱えた。
「あいつら……『筋肉は裏切らない、植物も裏切らない』がモットーの脳筋集団……。私を連れ戻して、毎朝10キロのランニングと、弓の素引き1000回をさせる気だわ……!」
「それは地獄ですわね(引きこもりにとって)」
私は扇子をバチリと鳴らした。
「安心なさい、ピノ様。我が社は従業員の福利厚生(ニート生活)を守りますわ。……迎撃します!」
【ダンジョン入り口:防衛ライン】
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
地響きと共に、エルフの騎士団長オーク(名前が紛らわしい)が歩み出た。
身長2メートル50センチ。大胸筋が歩いているような男だ。
「……貴様が、我が国の姫君をたぶらかした悪徳業者か」
オーク団長は、丸太のような腕を組み、私を見下ろした。
「姫を返してもらおう。森へ戻り、健全な肉体労働に従事していただく!」
「お断りしますわ。彼女は現在、我が社の『チーフ・ガーデニング・オフィサー(庭師)』として、極めて重要なポストに就いていますの」
私はニッコリと微笑んだ。
「それに、本人が帰りたくないと言っていますわよ?」
「問答無用! ……行くぞ、野郎ども! 自然に還れ(物理)!」
『オォォォォォッ!!(野太い声)』
マッチョエルフたちが一斉に突撃してきた!
「させるかッス! 俺の鍋で防ぐッス!」
スケさんが前に出る。
しかし。
「ぬんッ!」
「ぐはぁっ!?」
オーク団長の裏拳一発で、スケさんがピンボールのように弾き飛ばされた。
物理無効のスケルトンが、物理(筋肉)で押し切られた!?
「はっはっは! 鍛え抜かれた筋肉は、魔力をも凌駕するのだ!」
「なんて脳筋理論ですの……! クルミさん! 焼き払って!」
クルミが、改造した火炎放射器を構える。
「汚物は消毒よぉぉぉ! 『ナパーム・フレア』!」
ゴオオオオオオッ!!
灼熱の炎がエルフたちに襲いかかる。
勝った。
植物を愛するエルフに、火は天敵のはず。
だが――。
「……むッ! 危ない!」
バッ!!
オーク団長が、突如として身を翻し、炎の前に立ちはだかった。
自分を守るためではない。
彼の背後にあった「一輪のタンポポ」を守るために!
「ぐおおおおッ! 熱い! だが……この可憐な花を焼かせはせんッ!」
「……は?」
クルミの手が止まった。
他の騎士たちも同様だ。
「おい! 足元に苔が生えているぞ! 踏むな! 爪先立ちで歩け!」
「了解! ……ぬうぅん! 空気椅子の体勢で前進する!」
彼らは、ダンジョン内に生えた雑草や花を避けるあまり、奇妙な動き(ポージング)でジリジリとしか進めなくなっていた。
「……なるほど」
私は扇子で口元を隠し、ニヤリと笑った。
「弱点、見つけましたわ」
【作戦変更:人質(植物質)作戦】
「ピノ様! 今すぐ『もっとも希少で、もっとも脆そうな植物』を持ってきなさい!」
「え? ……う、うん。これ……『月光草の幼苗』……。振動で枯れる……」
ピノが、ガラスケースに入ったひょろひょろの草を持ってきた。
私はそれを高々と掲げた。
「お待ちなさい、筋肉ダルマたち!」
ピタリ。
騎士団の足が止まる。
「これが見えまして? これは絶滅危惧種の『月光草』ですわ。私が少しでも手を滑らせれば……あるいは、貴方たちの『足音』が大きすぎれば……この子はショック死しますわよ?」
「な……なんだとォォォッ!?」
オーク団長の顔面が蒼白になった。
「卑怯だぞ! 植物を盾にするとは、貴様それでも人間か!」
「経営者(悪役令嬢)ですわ! さあ、下がりなさい! 下がらないと、この葉っぱを一枚、プチッとちぎりますわよ!」
私の指が葉にかかる。
「やめろォォォ! 分かった! 下がる! つま先立ちで下がるからァァァ!」
屈強な男たちが、涙目で後退していく。
シュールだ。あまりにもシュールな光景だ。
『……ベアトリス。お前、本当に悪役の才能あるよ』
「お黙りなさいダンくん。勝てば官軍ですわ」
しかし、このまま膠着状態が続くわけにはいかない。
ここで、トドメの一撃が必要だ。
「田中さん! 例の『プロテイン』を!」
「はいっ! ピノちゃんの薬草園で採れた、特製スムージーです!」
田中さんが、巨大な樽を転がしてきた。
中には、緑色のドロドロした液体が入っている。
「……聞け、森の戦士たちよ!」
私は演説を打った。
「我がダンジョンは、植物を虐待しているのではありません。むしろ『育成』しているのです!」
「な、なんだと?」
「証拠をお見せしましょう。……これを飲みなさい!」
私は、コップ一杯の緑色スムージーをオーク団長に差し出した。
彼は疑わしげに匂いを嗅ぎ……そして、一気に飲み干した。
ゴクッ……ゴクッ……プハァッ!
その瞬間。
バチィィィン!!
オーク団長の鎧が弾け飛んだ。
筋肉が、さらに一回り肥大化したのだ。
「こ、これは……!? マンドラゴラの活力と、世界樹のミネラルが……筋肉の繊維一本一本に染み渡るぅぅぅ!」
「どうです? 我が社の植物が生み出すパワーは」
私は畳み掛けた。
「ピノ様を連れ戻せば、彼女はただの王女に戻ります。しかし、ここにいれば……彼女は世界最高の『マッスル・サプリメント(植物)』を生み出し続けるのです! 貴方たちの筋肉のために!」
「お……おおお……!」
騎士たちの目が輝いた。
彼らはピノを見た。
そして、私の手にあるスムージーを見た。
「……団長。姫様は、ここで立派に『研究』をなされているようです」
「うむ。森に連れ戻すよりも、ここで我々にプロテインを供給していただく方が、国益(筋肉)に叶う!」
オーク団長は、私に向かって敬礼した。
「……勘違いしていたようだ。貴殿は、植物と筋肉の理解者であったか」
「ええ、まあ(適当)」
「よし! 総員、撤収! ……ただし!」
オーク団長は、ビシッとピノを指差した。
「姫様! 来月までに『プロテイン草(増量用)』を100株納品してください! それを条件に、王には『修行中』と報告しておきます!」
「……う、うん。それなら頑張る……」
ピノが安堵のため息をついた。
【戦闘終了後:ダンジョン・マート】
エルフたちが去った後、ピノは薬草園でせっせと土を耕していた。
「……ふふ。これでまた引きこもれる……」
「ピノ様、納品分の種まきは終わりましたの?」
「……うぅ。結局、労働からは逃げられない……」
一方、私の手元には、オーク団長が置いていった「謝罪の品」があった。
それは、エルフの森の秘宝『世界樹の枝(建材用)』。
「……これ、市場価格で国が買えるレベルの木材じゃなくて?」
「ええ。加工すれば、最強の杖が作れますわね」
クルミが目を輝かせている。
トラブル続きだが、我がダンジョンの資産価値は、右肩上がりで増え続けているのだった。
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