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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第35話 エルフの騎士団は、筋肉と光合成と「植物への愛」でできている

 【現在DP:54,000(ピノの食費で減少中)】

 【侵入者警報:正面入り口に「緑の集団」あり】

 平和な朝だった。

 ピノが育てた「目覚まし草(叫ぶ草)」の悲鳴で起床し、田中さんが作る「マンドラゴラの味噌汁」を飲む。

 そんな奇妙な日常が定着しつつある中、非常ベルが鳴り響いた。

「……また? 最近、来客が多くて肌荒れしそうですわ」

 私は日傘を差し、優雅にモニターを確認した。

 そこに映っていたのは、緑色の鎧に身を包んだ一団だった。

 エルフだ。

 長い耳。美しい金髪。

 しかし、決定的にイメージと違う点が一つあった。

「……首が、太い」

 そう。彼らは全員、ボディビルダー顔負けの「超・筋肉質マッチョ」だったのだ。

 鎧がパツパツに膨れ上がり、歩くたびに「メキッ、メキッ」と石畳が悲鳴を上げている。

『うわぁ……。あいつら、プロテイン飲んでるタイプのエルフだ』

「……あ」

 テーブルの下に隠れていたピノが、震えながら呟いた。

「……『森林警備隊』……。お父様の親衛隊……。通称『ゴリラ・エルフ』……」

「なんて不名誉な通称ですの」

 ピノは頭を抱えた。

「あいつら……『筋肉は裏切らない、植物も裏切らない』がモットーの脳筋集団……。私を連れ戻して、毎朝10キロのランニングと、弓の素引き1000回をさせる気だわ……!」

「それは地獄ですわね(引きこもりにとって)」

 私は扇子をバチリと鳴らした。

「安心なさい、ピノ様。我が社は従業員の福利厚生(ニート生活)を守りますわ。……迎撃します!」

 

 【ダンジョン入り口:防衛ライン】

 ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 地響きと共に、エルフの騎士団長オーク(名前が紛らわしい)が歩み出た。

 身長2メートル50センチ。大胸筋が歩いているような男だ。

「……貴様が、我が国の姫君をたぶらかした悪徳業者か」

 オーク団長は、丸太のような腕を組み、私を見下ろした。

「姫を返してもらおう。森へ戻り、健全な肉体労働ワークアウトに従事していただく!」

「お断りしますわ。彼女は現在、我が社の『チーフ・ガーデニング・オフィサー(庭師)』として、極めて重要なポストに就いていますの」

 私はニッコリと微笑んだ。

「それに、本人が帰りたくないと言っていますわよ?」

「問答無用! ……行くぞ、野郎ども! 自然に還れ(物理)!」

 『オォォォォォッ!!(野太い声)』

 マッチョエルフたちが一斉に突撃してきた!

「させるかッス! 俺のシールドで防ぐッス!」

 スケさんが前に出る。

 しかし。

「ぬんッ!」

「ぐはぁっ!?」

 オーク団長の裏拳一発で、スケさんがピンボールのように弾き飛ばされた。

 物理無効のスケルトンが、物理(筋肉)で押し切られた!?

「はっはっは! 鍛え抜かれた筋肉は、魔力をも凌駕するのだ!」

「なんて脳筋理論ですの……! クルミさん! 焼き払って!」

 クルミが、改造した火炎放射器を構える。

「汚物は消毒よぉぉぉ! 『ナパーム・フレア』!」

 ゴオオオオオオッ!!

 灼熱の炎がエルフたちに襲いかかる。

 勝った。

 植物を愛するエルフに、火は天敵のはず。

 だが――。

「……むッ! 危ない!」

 バッ!!

 オーク団長が、突如として身を翻し、炎の前に立ちはだかった。

 自分を守るためではない。

 彼の背後にあった「一輪のタンポポ」を守るために!

「ぐおおおおッ! 熱い! だが……この可憐な花を焼かせはせんッ!」

「……は?」

 クルミの手が止まった。

 他の騎士たちも同様だ。

「おい! 足元に苔が生えているぞ! 踏むな! 爪先立ちで歩け!」

「了解! ……ぬうぅん! 空気椅子スクワットの体勢で前進する!」

 彼らは、ダンジョン内に生えた雑草や花を避けるあまり、奇妙な動き(ポージング)でジリジリとしか進めなくなっていた。

「……なるほど」

 私は扇子で口元を隠し、ニヤリと笑った。

「弱点、見つけましたわ」

 

 【作戦変更:人質(植物質)作戦】

「ピノ様! 今すぐ『もっとも希少で、もっとももろそうな植物』を持ってきなさい!」

「え? ……う、うん。これ……『月光草の幼苗』……。振動で枯れる……」

 ピノが、ガラスケースに入ったひょろひょろの草を持ってきた。

 私はそれを高々と掲げた。

「お待ちなさい、筋肉ダルマたち!」

 ピタリ。

 騎士団の足が止まる。

「これが見えまして? これは絶滅危惧種の『月光草』ですわ。私が少しでも手を滑らせれば……あるいは、貴方たちの『足音』が大きすぎれば……この子はショック死しますわよ?」

「な……なんだとォォォッ!?」

 オーク団長の顔面が蒼白になった。

「卑怯だぞ! 植物を盾にするとは、貴様それでも人間か!」

「経営者(悪役令嬢)ですわ! さあ、下がりなさい! 下がらないと、この葉っぱを一枚、プチッとちぎりますわよ!」

 私の指が葉にかかる。

「やめろォォォ! 分かった! 下がる! つま先立ちで下がるからァァァ!」

 屈強な男たちが、涙目で後退していく。

 シュールだ。あまりにもシュールな光景だ。

『……ベアトリス。お前、本当に悪役の才能あるよ』

「お黙りなさいダンくん。勝てば官軍ですわ」

 しかし、このまま膠着状態が続くわけにはいかない。

 ここで、トドメの一撃が必要だ。

「田中さん! 例の『プロテイン』を!」

「はいっ! ピノちゃんの薬草園で採れた、特製スムージーです!」

 田中さんが、巨大なタンクを転がしてきた。

 中には、緑色のドロドロした液体が入っている。

「……聞け、森の戦士たちよ!」

 私は演説を打った。

「我がダンジョンは、植物を虐待しているのではありません。むしろ『育成』しているのです!」

「な、なんだと?」

「証拠をお見せしましょう。……これを飲みなさい!」

 私は、コップ一杯の緑色スムージーをオーク団長に差し出した。

 彼は疑わしげに匂いを嗅ぎ……そして、一気に飲み干した。

 ゴクッ……ゴクッ……プハァッ!

 その瞬間。

 バチィィィン!!

 オーク団長の鎧が弾け飛んだ。

 筋肉が、さらに一回り肥大化したのだ。

「こ、これは……!? マンドラゴラの活力と、世界樹のミネラルが……筋肉の繊維一本一本に染み渡るぅぅぅ!」

「どうです? 我が社の植物が生み出すパワーは」

 私は畳み掛けた。

「ピノ様を連れ戻せば、彼女はただの王女に戻ります。しかし、ここにいれば……彼女は世界最高の『マッスル・サプリメント(植物)』を生み出し続けるのです! 貴方たちの筋肉のために!」

「お……おおお……!」

 騎士たちの目が輝いた。

 彼らはピノを見た。

 そして、私の手にあるスムージーを見た。

「……団長。姫様は、ここで立派に『研究』をなされているようです」

「うむ。森に連れ戻すよりも、ここで我々にプロテインを供給していただく方が、国益(筋肉)に叶う!」

 オーク団長は、私に向かって敬礼した。

「……勘違いしていたようだ。貴殿は、植物と筋肉の理解者であったか」

「ええ、まあ(適当)」

「よし! 総員、撤収! ……ただし!」

 オーク団長は、ビシッとピノを指差した。

「姫様! 来月までに『プロテイン草(増量用)』を100株納品してください! それを条件に、王には『修行中』と報告しておきます!」

「……う、うん。それなら頑張る……」

 ピノが安堵のため息をついた。

 

 【戦闘終了後:ダンジョン・マート】

 エルフたちが去った後、ピノは薬草園でせっせと土を耕していた。

 

「……ふふ。これでまた引きこもれる……」

「ピノ様、納品分の種まきは終わりましたの?」

「……うぅ。結局、労働からは逃げられない……」

 一方、私の手元には、オーク団長が置いていった「謝罪の品」があった。

 それは、エルフの森の秘宝『世界樹の枝(建材用)』。

 

「……これ、市場価格で国が買えるレベルの木材じゃなくて?」

「ええ。加工すれば、最強のワンドが作れますわね」

 クルミが目を輝かせている。

 トラブル続きだが、我がダンジョンの資産価値は、右肩上がりで増え続けているのだった。

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