第31話 研修生(ラスボス)は、主人の座と「スマホの充電器」を狙っている
【場所:ダンジョン・マート 休憩室】
【現在DP:88,000(アカシックからの技術提供ボーナス)】
「……で? 貴女、まだ帰っていらっしゃらなかったの?」
私は、事務デスク(アカシック製・空中浮遊型)に座り、目の前の「闖入者」を冷ややかな目で見据えた。
そこには、ピンク色の魔法少女服を脱ぎ捨て、なぜか「ウチの店の制服」を完璧に着こなしたクルミがいた。しかも、名札には『研修生:くるみ』と可愛らしく書かれている。
「ええ。本部の運営はKに任せたわ。私は『現場のニーズを直に汲み取る』ために、ここで働くことにしたの」
『嘘をつけ!! 俺を監視するためだろ!!』
私の胸元から、ダンくんが必死のツッコミを入れる。
クルミはそんなダンくん(スマホ)に向かって、頬を染めながら熱烈な視線を送った。
「ふふ、ダンくん。……『監視』なんて人聞きの悪い。これは『完全なる保護』よ♥」
「お待ちなさい。ここは私の城ですわ。採用の合否を決めるのは私――」
「あ、これ。今日の分の『維持費』と『開発機材』の目録ね。あと、ベアトリスさんのために『最高級の美容ナノマシン』も持ってきたわ」
クルミが差し出したリストには、目が眩むような桁数の金貨(換算)と、喉から手が出るほど欲しかった「自動翻訳機能付き原稿スキャナ」の文字が。
「……採用ですわ。よくいらっしゃいました、くるみさん」
『ベアトリス!! 貴女、俺を売ったな!?』
こうして、我がダンジョンの従業員に、元カノという名の「猛毒」が加わった。
しかし、彼女の仕事ぶりは……ある意味、完璧すぎた。
「おい、そこ! 床の摩擦係数が0.05%高いわよ! スケルトン、もっとナノレベルで磨きなさい!」
「ウィ、ウィッス! くるみ姐さん、怖すぎるッス……!」
スケさんは、クルミが改造した「高周波振動モップ」を渡され、文字通り死に物狂いで床を磨かされていた。
「田中さん、このカツ丼。栄養バランスが偏りすぎよ。……いい? 私が開発した『合成ビタミン粉末(味は無)』を混ぜるの。客の健康管理もダンジョンの仕事よ」
「え、えぇ……。でもそれ、食べると目が青白く光るんですけど……」
キッチンでは、田中さんが白衣姿のクルミに理詰めで詰め寄られ、泣きながら怪しい粉末を揚げ油に投入していた。
さらには。
「……爺さん。貴方の放つ『絶望のオーラ』、波長が古いのよ。もっとこう、脳の扁桃体にダイレクトに響く『超低周波ノイズ』を混ぜなさい。デバイスはこれよ」
「……む。最新の嫌がらせか。……面白い、試してみよう」
先代魔王ゼノンまでもが、クルミが持ち込んだ「ハイテク番台システム」に興味を示し、温泉の脱衣所を「精神攻撃エリア」へと改造し始めた。
「……大変。私のダンジョンが、どんどん『白くて無機質なハイテク要塞』に塗り替えられていくわ……」
私は、自分の椅子まで「座るだけで自動的に腰をマッサージし、強制的に原稿を書かせる拘束機能付きチェア」に改造されているのを見て、危機感を覚えた。
【その夜:ベアトリスの自室】
「……ダンくん。貴方の元カノ、有能すぎて怖いですわ」
私は、スマホ(ダンくん)を充電器(クルミ特製・魔力急速充填器)にセットしながら愚痴をこぼした。
『……だろ? あいつ、完璧主義なんだよ。気に入らないものは全部自分色に染め直さないと気が済まないんだ。……俺が殺されたのも、結局は「俺の人生を自分専用にリメイクしたかった」からだしな……』
「重すぎますわ……」
その時だった。
チリン、チリン。
部屋のドアが、ノックもなしに開いた。
パジャマ姿のクルミが、大きな枕と、なぜか「工具箱」を持って立っていた。
「……くるみさん。夜分に何のご用かしら?」
「ベアトリスさん。……ダンくんの『OSの定期メンテナンス』の時間よ。あと、ついでに貴女の部屋のセキュリティが甘いから、赤外線センサーを増設しに来たわ」
「お帰りくださいな。彼は今、私の隣で寝る時間ですわ」
「……ふーん」
クルミの目が、スッと細くなった。
「いい? 彼は元々私の恋人なの。……『優先順位』を間違えないで。貴女はただの『現オーナー』。私は『開発者兼・所有予定者』よ」
「あら、現オーナーの方が偉いに決まっていますわ。それに、彼は今の『自由なダンジョンライフ』を気に入っていますのよ?」
バチバチと火花が散る。
『……あのー、俺、もう寝ていい? 電源落としていい?』
「「黙ってなさい!!」」
二人の声が重なった。
その瞬間、ダンジョンの外壁を叩く、不穏な「音」が聞こえてきた。
ゴゴゴゴゴ……。
「……なんですの? またアカシックの追手?」
「いいえ。……私の部下は全員掌握しているわ。これは……もっと別の『何か』ね」
モニターを確認すると、そこには驚くべき光景が映っていた。
数千人の「人々」が、手に手にペンと紙を持ち、ダンジョンの入り口に殺到していたのだ。
彼らの目は血走っており、何かに取り憑かれたように叫んでいる。
「『壁サーの原稿を寄越せぇぇぇ!』『新刊を出すまで帰さねぇぞぉぉぉ!』」
「……あ」
私は思い出した。
先日、日本から帰る直前。私はネットの掲示板に、「異世界から最高の一冊をお届けしますわ(※場所はここ)」と、座標付きで書き込んでしまったことを。
「……あれは。……『同人ゴロ(異世界遠征勢)』ですわ!」
『ベアトリス!! 貴女の不用意な宣伝のせいで、ダンジョンが別の意味で攻略されようとしてるぞ!!』
ヤンデレ科学者、没落令嬢、そして飢えたオタク軍団。
我がダンジョンは、かつてない混沌に飲み込まれようとしていた。
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