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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第30話 ヤンデレの愛を止めるのは、謝罪と感謝と「新しい契約」

 【場所:ダンジョン最深部・マスターの部屋(半壊)】

 【現在状況:古龍 vs 魔法少女(物理)の超絶バトル中】

 ドガァァァン!!

 グランの鋭い爪が空を裂き、クルミの背後の壁が爆発した。

 対するクルミも、空中にビットを浮かせ、全方位からレーザーの雨を降らせている。

「うふふ、すごい! 竜の鱗って耐熱合金より硬いのね! 解体してサンプルが欲しいわ!」

「……うるせぇ女だ。その羽、むしり取ってやる」

 部屋の中は、高熱の閃光と衝撃波で、高級家具(DP交換品)が次々と塵に変わっていく。

 私は、部屋の隅にある「ミスリル製耐爆シェルター」の陰から、ティーカップ(空っぽ)を手に戦況を眺めていた。

「……ベアトリス様、このままじゃダンジョンが崩壊します! 俺の給料袋も燃えちゃう!」

 田中さんが私の裾を掴んで震えている。

 確かに、グランの本気が加速すれば、ダンジョンごとこの山が消滅しかねない。

「ダンくん。……そろそろ、年貢の納め時ではなくって?」

 私は胸元(※前回、安全のために収納した場所)から、振動し続けているスマホを取り出した。

『……分かってる。分かってるよ……。俺がやらなきゃダメなんだな……!』

 ダンくんの声には、死地に赴く戦士のような悲壮な決意が宿っていた。

「よろしい。グラン様、一旦ストップですわ!」

 私の声に、グランがピタリと動きを止めた。

「……あ? あと少しでそのピンクをすり潰せるところだったんだが」

「そこまでです。……主役(元彼)が、お話ししたいそうですわ」

 クルミも、空中で静止した。

 彼女の視線が、私の手の中にあるスマホに吸い寄せられる。

『……ダンくん?』

「さあ、ダンくん。……ぶちかましなさい!」

 私はスマホを、部屋の中央に向かって高く掲げた。

 ダンくんは、残っている全てのDPを消費し、「外部スピーカー最大出力」と「ホログラム・エフェクト」を全開にした。

『……クルミ!!』

 その声は、爆発音を凌駕する大音量で響き渡った。

『聞いてくれ! まずは……その……刺されたこと、気にしてないから!』

『え……?』

『あと、俺を好きでいてくれたのは、素直に嬉しかった! でも……! 「標本にしたい」って言われた時に「あ、こいつに愛されると物理的に死ぬな」って確信したんだ!』

 クルミの手のステッキが、わずかに震えた。

『俺は死んで、この世界で「ダンジョン」になった。今は、ここで仲間たちと……この不遜で高慢な令嬢と一緒に働くのが、意外と楽しいんだ。……だから!』

 ダンくんは、ホログラムで自分の「人間の頃の姿」を空中に投影した。

 そして――

『頼む! 矛を収めてくれ! この通りだ!』

 空中に浮かぶホログラムのダンくんが、クルミに向かって「空中土下座フライング・ドゲザ」を決めた。

 異世界の公爵令嬢も、古龍も、魔王も見たことがない、日本の伝統芸能「DOGEZA」。

『……!』

 クルミの瞳から、スッ……と狂気のハイライトが消えた。

 彼女はゆっくりと地面に降り立ち、震える声で呟いた。

『……ダンくんが、私に……謝って、おねがいしてる……』

『そうだよ! お願いだクルミ、俺はこの場所を守りたいんだ!』

 静寂が部屋を支配する。

 クルミは、地面に投影されたダンくんのホログラムを、そっと撫でようとした。

 しかし、指は空を斬る。

『……ずるいよ、ダンくん。そんな顔されたら、私……何もできなくなっちゃう』

 彼女の背中の羽が、パタンと畳まれた。

 殺気が消える。

『分かったわ。……今日は、引いてあげる。これ以上壊したら、ダンくんに嫌われちゃうもんね』

「賢明な判断ですわね」

 私はシェルターから出て、彼女の前に歩み寄った。

「ですが、ただで帰すわけにはいきませんわよ。これだけの損害を出したのですもの」

『……お金なら、いくらでも払うわよ。アカシックの予算は無限だし』

「いいえ、お金(DP)も大事ですが、私が欲しいのは……貴女のその『技術』ですわ」

 私はニヤリと笑った。

「クルミさん。貴女、本当は世界征服なんて興味ないのでしょう? ならば、提携アライアンスを結びませんこと?」

『……提携?』

「ええ。貴女は『アカシック』のトップとして、表向きの組織を運営しなさい。その代わり、我がダンジョンに『最新の家電(魔導技術)』を提供すること。そして――」

 私はスマホを掲げた。

「――週に一度、リモート(ビデオ通話)で彼と面会することを許可しますわ。もちろん、私が監視しますけれど」

 クルミの顔が、パァァッ……と輝いた。

『週に一度!? ダンくんと顔を見てお話しできるの!?』

『ええっ!? 俺の意見は!?』

「黙ってなさい。……どうかしら、この条件。悪くないはずよ?」

 クルミは、拳を握りしめ、力強く頷いた。

『……わかったわ! 泥棒猫とは気が合わないけど、その提案、乗ってあげる!』

 

 【数時間後:復旧作業中のダンジョン】

「ふぅ……。ようやく静かになりましたわ」

 私は、新しく設置された「全自動マッサージチェア(アカシック製・試作機)」に身を預け、くつろいでいた。

『……おい。俺の週一の面会権、勝手に売買するなよ』

「いいじゃない。おかげでダンジョンのインフラは一気に200年分進化しましたわ。……ほら、田中さんも喜んでますわよ」

 キッチンでは、田中さんが「全自動カツ丼調理マシン」を導入し、爆速で料理を作っていた。

「すげぇ……! 1分で100杯作れる! これでブラックな労働環境ともおさらばだ!」

 広場では、クルミから「慰謝料」として贈られた最新の警備ドローンが、スケさんと一緒にパトロールをしている。

 

 世界を滅ぼしかねなかった「元カノ襲来」は、こうして「週一のオンライン面会」という平和な着地点を見つけたのだった。

「……さて」

 私は、窓の外に広がる秋の夜空を見上げた。

「コミケの合否通知、そろそろ届く頃ですわね。……次は、ペンで世界をひれ伏せさせますわよ!」

『まだやるのかよ、同人活動……』

 ベアトリスの野望(とカオスな経営)は、止まるところを知らない。

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