第29話 魔法少女(物理)は、重力魔法(質量兵器)よりも重い愛を叫ぶ
【現在DP:62,000】
【侵入者警報:上空より1名、急速接近中】
キラキラキラ〜ン☆
ダンジョンの入り口広場に、ファンシーな効果音と共にピンク色の煙幕が広がった。
煙が晴れると、そこにはクレーターの中心に立つ、一人の少女の姿があった。
フリルたっぷりのピンクのドレス。
背中には天使の羽。
手にはハート型のステッキ(高出力ビーム砲)。
そして、病的なまでに白い肌と、虚ろな瞳。
「……見つけた♥」
彼女は――クルミは、可愛らしく首を傾げた。
「ダンくんをたぶらかす泥棒猫は、ここかしら?」
「……なんですの、あれは」
私は、モニター越しにその光景を見て、こめかみを押さえた。
痛い。
視覚情報が痛い。
ゴシック調で統一された我がダンジョンの美学に反する、強烈な原色だ。
『ひぃぃぃッ! 出たぁぁぁ! あの格好、俺が昔冗談で「魔法少女コスとか似合いそうだよね」って言ったのを覚えてたんだぁぁぁ!』
「……貴方のせいじゃないの」
『違う! あれはコスプレじゃない! あのステッキ、絶対ヤバいやつだ!』
私はため息をつき、マイクに向かって指示を出した。
「お客様、当店はドレスコードがございます。……痛々しい衣装でのご来店はご遠慮ください」
『あら、失礼ね』
クルミの声がスピーカーから響く。
『これは「愛の戦闘服」よ。科学の粋を集めた、対・異世界用決戦兵器なんだから』
彼女はステッキをくるりと回した。
「いくよ? 『マジカル・スパークル・カノン(反物質粒子砲)』!」
ズドォォォォォォォォン!!!!!
可愛い声と共に放たれたのは、直径5メートルの極太ビームだった。
一撃で、ダンジョンの第一層の壁が蒸発し、向こう側の景色(夕焼け)が見えた。
「……は?」
「ま、魔法障壁が……紙切れみたいに……!?」
田中さんが腰を抜かした。
冗談ではない。あの威力、グランのブレスに匹敵するではないか!
『うふふっ♥ 邪魔な壁は全部壊して、ダンくんを迎えに行くね!』
クルミが空中に浮かび上がる。
背中の羽から青白い炎(ジェット噴射)を吹き出し、超音速でダンジョン内部へと侵入してきた!
「総員、迎撃なさい! あの女を私の部屋まで通してはなりません!」
【ダンジョン第2層・迷宮エリア】
「止まれッス! ここから先は会員制ッスよ!」
通路の角から、スケさんが飛び出した。
彼は手にした「ミスリルの中華鍋」と「勇者の剣」を構え、果敢にも立ち塞がった。
物理攻撃無効のスケルトンナイト。近接戦闘なら無敵の強さを誇るはずだ。
「あら、ガイコツさん? 邪魔よ」
クルミは、空中でピタリと静止した。
そして、ステッキの先端から、ピンク色のリボンが伸びた。
「『マジカル・リボン・バインド(超硬度カーボンナノチューブ拘束)』!」
シュバババババッ!!
リボン(ワイヤー)が、目にも止まらぬ速さでスケさんに巻き付く。
「な、なんスかこれ!? 剣で切れないッス!?」
「うふふ。それはダイヤモンドより硬い繊維なの。……さようなら」
ギュンッ!
クルミが指を鳴らすと、ワイヤーが一瞬で収縮した。
バラバラバラ……。
スケさんの骨が、粉々に分解された。
「あだだだだッ! バラバラになっちゃうッスぅぅぅ! 再生まで30秒待ってくれッスぅぅ!」
「待たないわ。愛はスピードが命だもの」
クルミは瓦礫の山と化したスケさんを踏み越え、さらに奥へと進む。
「ひぃっ! 来ないでくださいぃぃ!」
次はメランだ。
彼女は物理攻撃が効かないバンシー(幽霊)。
壁抜けとポルターガイストで撹乱しようとするが――。
「幽霊さん? 科学的に証明してあげる♥」
クルミは、バイザーのようなものを目に装着した。
「『マジカル・アイ(霊体観測・位相干渉モード)』!」
「きゃあぁぁっ! 裸を見られてる気分ですぅ!?」
「そして……『ホーリー・ライト(高出力紫外線レーザー)』!」
ジュッ!!!
「あつつつつっ! 焦げる! 霊体が日焼けしちゃいますぅぅ!」
「消毒完了♥」
メランが煙を上げて退散した。
強い。強すぎる。
ファンタジーの法則を、圧倒的なテクノロジー(暴力)で蹂躙している。
【ダンジョン最深部・マスターの部屋】
ドガァァァン!!
重厚な扉が吹き飛んだ。
砂煙の中、ピンク色の悪魔が、ニッコリと微笑んで入ってきた。
「見つけた……♥」
クルミの視線が、私の手の中にあるスマホ(ダンくん)に釘付けになる。
その瞳孔が開いている。
「ダンくん……! 会いたかった……! やっと、やっと一緒になれるね……!」
『ひぃっ! 来るな! その「標本にする気満々の目」で俺を見るなぁぁぁ!』
私は優雅に椅子に座り、扇子で顔を仰いだ。
「騒がしいですわね。ノックもなしに入室するなんて、躾がなっておりませんわ」
「……泥棒猫」
クルミの視線が、私に向けられた瞬間、温度が氷点下になった。
「返して。それは私のものよ」
「お断りしますわ。彼は私の大事な『経営パートナー(社畜)』。貴女のようなストーカーには荷が重いですわよ」
私はスマホを胸元(谷間)にしまった。
『ちょ、ベアトリス!? どこに入れてるの!? 柔らかいけど!』
「黙ってなさい。ここが一番安全ですわ」
クルミの顔が歪んだ。
嫉妬。殺意。狂気。
あらゆる負の感情が混ざり合い、彼女の背後の空間が歪んで見える。
「……汚らわしい。その胸、切り落としてあげる」
ウィィィィン……。
クルミの持つステッキが変形した。
先端から、ブンブンと唸る高周波ブレード(チェーンソー)が出現する。
「『マジカル・ラブリー・チェーンソー(分子切断剣)』!」
「なんて物騒なネーミングですの」
「死ねぇぇぇっ! 泥棒猫ぉぉぉ!!」
クルミが床を蹴り、突っ込んできた。
速い。
人間の動体視力を超えている。
だが――。
ガギィィィィィィン!!
彼女のチェーンソーは、私の鼻先数センチで止まった。
防いだのは、私ではない。
「……おい。またかよ」
不機嫌な声と共に、銀色の髪の少年が割り込んだ。
グランだ。
彼は素手(竜鱗で硬化済み)で、チェーンソーの刃を受け止めていた。
「昼寝の時間だって言ったろ。……今度はなんだ? ピンク色の羽虫か?」
グランの黄金の瞳が、クルミを射抜く。
最強の古龍 vs 最凶のヤンデレ。
役者は揃った。
「あら、グラン様。良いところに。この害虫駆除をお願いできます?」
「……断る。ボクは眠いんだ」
「そうですか。では、今夜の夕食の『特盛カツ丼』は無しですね」
「……」
グランのこめかみに青筋が立った。
そして、チェーンソーを握り潰さんばかりの力で掴んだ。
「……10秒で片付ける。カツ丼は卵2個だ」
「交渉成立ですわ」
クルミは、自分の武器を掴むグランを見て、少し驚いたように目を見開いた。
「……あら? 解析不能? この世界には、まだ私の知らない『定数』があるのね」
彼女はニヤリと笑った。
「面白いわ。……科学と、生物。どっちが上か、実験してあげる!」
【システム警告:ダンジョン崩壊の危機】
【推奨:早急な避難、または『保険』への加入】
こうして、私の部屋(玉座の間)を舞台に、怪獣大戦争が始まろうとしていた。
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