第28話 ラスボス(元カノ)からの電話。世界征服の理由は「彼氏探し」でした
【現在状況:鹵獲した通信機に着信中】
【表示名:創造主 ♥着信音:『結婚行進曲(短調アレンジ)』♥】
プルルルルル……♪
プルルルルル……♪
破壊された多脚戦車の残骸の上で、小さな通信機が不吉な音を立てていた。
その着信音を聞いた瞬間、私のスマホ(ダンくん)が、かつてないほど激しく振動し始めた。
『ひぃぃぃッ!? やめろ! 出るな! ベアトリス、その電話に出ちゃダメだぁぁぁ!』
「あら? ずいぶんと取り乱していますわね」
私は優雅に通信機を拾い上げた。
ダンくんの怯えようは、ドラゴンや勇者に対するそれとは異質だ。
何かこう……「生理的な恐怖」を感じさせる。
『思い出した!あいつは……「クルミ」だ! 俺を刺した女だ! 俺を殺して異世界転生させた張本人なんだよぉぉぉ!』
「……ほう」
私は興味本位で、通話ボタン(緑色のスイッチ)をポチッと押した。
ブゥン……。
通信機からホログラム(立体映像魔法)が投影された。
そこに映し出されたのは、機械の体でも、恐ろしい怪物の姿でもなかった。
黒髪のロングヘア。
清楚な白いワンピース。
少し病的なまでに白い肌をした、日本人形のように美しい少女だった。
『……もしもし?』
鈴を転がすような、可愛らしい声。
しかし、その瞳は笑っていなかった。
ハイライトが……ない。
『私の可愛い部下たち(Kたち)が、お世話になったみたいね。……初めまして。貴女が、このダンジョンのマスターかしら?』
「ええ、そうですわ。ごきげんよう、マザー……いえ、クルミさん」
私が名前を呼んだ瞬間、少女の眉がピクリと動いた。
『……あら。どうして私の名前を知っているのかしら? この世界では名乗っていないはずなのに』
彼女は画面越しに、私の手元にあるスマホ(ダンくん)を凝視した。
そして、頬を赤らめ、うっとりとした表情で言った。
『……ああっ! そこにいるのね!? ダ・ン・く・ん♥』
ヒィィィィィッ!!(スマホのバイブ音)
ダンくんが恐怖で震動し、私の手から滑り落ちそうになる。
『やっぱり! 魔力反応で分かったわ! 貴方、そんな無機質な箱になっちゃって……! でも大丈夫、すぐに私が「新しい身体」に入れてあげるからね!』
「……お待ちなさい」
私は扇子で画面を遮った。
話が見えない。
「貴女、世界征服を企む悪の組織のトップでしょう? なぜ、たかが一人の男(しかも今はスマホ)に執着しますの?」
『たかが?』
クルミの表情が一変した。
周囲の空気が凍りつくような、絶対零度の視線。
『世界征服なんて、ついでよ』
「ついで?」
『ええ。ダンくんが壊れ(転生し)ちゃったから、この世界中を探し回るために組織を作ったの。邪魔な国は潰したし、便利な兵器も開発したわ』
彼女は、まるで「散歩のついでにコンビニに寄った」くらいの感覚で言った。
『全ては、愛する彼を見つけ出し、今度こそ「永遠に(標本にして)」一緒にいるためよ』
……なるほど。
狂っている。
清々しいほどに。
この組織「アカシック」の原動力は、科学でも野望でもなく、「メンヘラの執念」だったのだ。
「……そうですか。ご苦労様ですわね」
私はため息をついた。
「ですが、残念ながら彼は渡せませんわ」
『……なんですって?』
「彼は今、私のダンジョンの『コア』であり、私の『所有物(旦那様)』ですの。貴女のようなストーカーにお返しする義理はありませんわ」
パキパキパキ……。
画面の向こうで、クルミが持っていたティーカップが粉砕される音がした。
『……所有物? 旦那様?』
彼女の背後に、黒いオーラ(怨念)が立ち上る。
それは、先代魔王ゼノンですら「おっ、活きがいいのぅ」と引くレベルの禍々しさだ。
『……貴女、誰?』
「公爵令嬢、ベアトリス・フォン・アークライトですわ」
『ふーん……。要するに……「泥棒猫」ってことね?』
バチチチチッ!!
通信機から火花が散った。
これは科学的な干渉ではない。彼女の嫉妬心が、次元を超えて物理的な呪いとなって顕現しているのだ。
『許さない……。私のダンくんを……あんな高飛車な女が……! 毎晩一緒に寝てるの!? お風呂も一緒なの!?』
「ええ、一緒ですわ(※スマホとして持ち込んでいるだけ)」
『キィィィィィィィッ!!!』
絶叫。
画面の向こうで、何かの計器が爆発した音が聞こえた。
『決めたわ。世界征服は後回し。……まずは貴女を殺す』
「あら、怖い」
『貴女のその自慢のダンジョンごと、消し炭にしてあげるわ! 私の「愛の力(全戦力)」でね!!』
彼女はカメラに顔を近づけ、血走った目で宣言した。
『待っててね、ダンくん♥ すぐにその泥棒猫を解体ショーして、助け出してあげるから!』
プツン。
通話が切れた。
嵐のような静寂が戻る。
「……」
『……』
私たちは顔を見合わせた。
スケさんが、ポカーンと顎を外したまま言った。
「マス、マスター……。なんか、すごいのが来るッスね……」
「……ええ」
私は扇子を閉じた。
現代兵器? 巨大ロボット?
そんなものより、今の宣言の方がよほど恐ろしい。
あれは、兵士の目ではない。
「恋敵を排除しようとする女」の目だ。
「面白いですわ」
私はニヤリと笑った。
「受けて立ちましょう。元カノvs今カノ(雇用主)。……どちらの愛(支配力)が上か、教えて差し上げますわ!」
『ちょ、今カノって言った!? ベアトリス、俺の意思は!? 俺の意思はどこにあるのぉぉぉ!?』
ダンくんの叫びは、秋の空に虚しく吸い込まれていった。
こうして。
世界を巻き込んだ、史上最大の「痴話喧嘩」の幕が上がったのである。
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