第27話 「団体様、ご来店!」 戦車の解体ショーを始めます
【現在DP:62,000】
【緊急警報:多数の敵性反応、接近中】
ウゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!
ダンジョン内に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
モニターには、上空からの映像が映し出されている。
森の木々をなぎ倒し、地響きを立てて進軍してくる「それ」は、異世界の知識を持つダンくんをして、絶句させる代物だった。
『……嘘だろ。あんなものまで持ち込んでるのか!?』
「あら、大きな馬車ですこと」
私は紅茶のカップを置き、冷静に画面を見つめた。
そこに映っていたのは、黒鉄の装甲に覆われた、巨大な「多脚戦車」だった。
全長は30メートルを超え、背中には巨大な砲身を背負っている。
周囲には、完全武装した兵士(ドローン部隊)が数百体。
『あれは「ギガント」……! アカシックが開発した、対・要塞攻略用兵器だ! 物理障壁も魔法障壁も、あの主砲一発で蒸発させられる!』
「へぇ。蒸発、ね」
私は優雅に立ち上がり、扇子をパチリと鳴らした。
「つまり、あの中には『高価な部品』と『希少金属』がたっぷり詰まっている、ということですわね?」
『えっ? そこ?』
「ダンくん。ダンジョンの増築には鉄骨が不足していましたの。……ちょうどいい『資材』が向こうから歩いてきてくれましたわ」
私はインカム(通信機)のスイッチを入れた。
「総員、配置につきなさい! 本日は『団体様』の貸切営業となります!」
【ダンジョン入り口・防衛ライン】
ズシン……ズシン……。
巨大戦車ギガントが、ダンジョンの入り口広場に到達した。
そのスピーカーから、機械的な音声が響く。
『警告。即時降伏セヨ。サモナクバ、殲滅スル』
そのコックピットには、冷徹な目をした指揮官、ディレクター・Kが座っていた。
彼はカイトのような軽薄な若造ではない。任務遂行のためなら手段を選ばない、冷酷な管理職だ。
「……ふん。所詮はファンタジー世界の未開人だ。科学の力の前にひれ伏すがいい」
「指揮官! 前方に人影あり!」
Kがモニターを見ると、そこには優雅に椅子に座り、ティータイムを楽しんでいる公爵令嬢の姿があった。
「ようこそ、お客様。ご予約は?」
「……撃て」
Kは問答無用で射撃命令を下した。
ドガガガガガガッ!!
戦車の機銃が火を吹く。
数千発の弾丸が、私めがけて殺到する――はずだった。
カァン! カンカンカンッ!!
「ち、指揮官! 弾が……弾かれています!」
「なんだと!?」
私の前には、透明な壁――いいえ、超高速で回転する「何か」があった。
「ふんッ! 遅いッスよ!」
スケさんだ。
彼は両手に持った「中華鍋(ミスリル製・改)」を風車のように回転させ、全ての弾丸を弾き返していたのだ。
「物理無効のスケルトンに、最強硬度の鍋を持たせる……。これぞ『絶対防御』ですわ」
「おのれ……! ならば、魔法で!」
Kが指示を変える。ドローン部隊が一斉に魔法陣を展開した。
「ファイアボール! サンダーボルト! 一斉射撃!」
ドォォォォォォン!!
爆炎が広場を包む。
しかし、煙が晴れた後、そこには無傷の私たちが立っていた。
私の横には、あくびをしている老人が一人。
「……ぬるいのぅ」
先代魔王ゼノンが、飛んできた魔法を片手で握り潰していた。
彼は掌を開き、そこに凝縮された魔力弾を、フッと息で吹き消した。
「ワシの現役時代は、もっとこう……殺意が高かったぞ? 最近の魔法は味がせん」
「な、なんだあの爺さんは……!? 魔力探知機が振り切れているぞ!?」
Kが動揺する中、私は次の指示を出した。
「さあ、反撃の時間ですわ。……田中さん! 例の『新兵器』を!」
「は、はいっ! 行きますよ……!」
物陰から、元コンビニ店長の田中さんが現れた。
彼が抱えているのは、先日のカイト戦で鹵獲し、ダンくんが解析・改造した「魔導ロケットランチャー(弾頭はスライム)」だ。
「食らえぇぇぇ! ブラック企業の恨みぃぃぃ!」
シュボッ!
発射された弾頭は、ギガントの足元に着弾した。
ボヨンッ!!
爆発はしなかった。
代わりに、超強力な粘着力を持つ「ピンク色のローション」が大量に飛散し、戦車の関節部に絡みついた。
「なっ!? 機動力が……! 足が動かん!」
「ぬるぬる地獄へようこそ。……メラン! 今よ!」
「はいですぅ〜! 耳栓のご用意を〜!」
キィィィィィィィィィィン!!!!!
バンシーの叫び声(超音波)。
それは生物だけでなく、機械の精密回路をも狂わせる。
ギガントの照準システムがエラーを吐き、モニターがノイズだらけになった。
「くそっ! 計器が狂った! ええい、こうなれば……主砲だ!」
Kは最後の手段に出た。
ギガントの背中の巨大砲身が唸りを上げ、青白い光を収束させ始める。
『エネルギー充填120%。目標、ダンジョン全域』
「消し飛べぇぇぇ!!」
ズガァァァァァァァン!!
極太のレーザー光線が発射された。
それは山一つを貫通するほどの威力。
田中さんが「終わった……」と膝をつく。
だが、私は動じなかった。
なぜなら、我がダンジョンには「彼」がいるからだ。
「……グラン様。お待たせしました。『デザート』の時間ですわ」
ドォォォォォォォォン!!
上空から、銀色の影が降ってきた。
人型ではない。
本来の姿――全長100メートルを超える、古龍の姿で。
『……痒いな』
グランは、戦車の主砲を、なんと「口で受け止めた」。
エネルギーをガリガリと噛み砕き、ごくんと飲み込む。
「な……!? バカな……!? 粒子砲を食べた……!?」
「古龍にとって、純粋なエネルギーはただの『おやつ』ですわ」
グランは巨大な首を巡らせ、眼下の戦車を見下ろした。
その瞳は、獲物を見る捕食者の目だ。
『……で? これがメインディッシュか? 鉄臭くて不味そうだが』
「お待ちになってグラン様! 溶かしてはダメですわ! それは私の『新しいキッチン』になる予定なのですから!」
私は叫んだ。
『チッ。面倒くさい女だ』
グランは巨大な前足(爪)で、戦車の砲塔をつまみ上げた。
まるでミニカーを扱うように。
「ひぃぃぃッ!? お、降参だ! 降参する!」
Kの悲鳴がスピーカーから響く。
勝負あり、ね。
【戦後処理:ダンジョン前広場】
巨大戦車ギガントは、無惨にも解体されていた。
装甲板は剥がされ、スケさんたちが嬉しそうに運んでいく。
「いやー、いい鉄が取れたッス! これで新しい鍋と、トレーニングマシンが作れるッス!」
「田中さん、中の電子部品は使えそう?」
「はい! このCPU、現代のスパコン並みです! これがあれば、ダンジョンの管理システムを自動化できます!」
そして、捕虜となったKと部下たちは――。
「ほら、そこ! 手が止まっているぞ!」
「ひぃッ! す、すいません!」
彼らは囚人服(縞模様)を着せられ、ダンジョンの拡張工事現場でツルハシを振るっていた。
監視役は、鬼の形相をした先代魔王ゼノンだ。
「働かざる者食うべからず。……今日のノルマを達成したら、カツ丼を食わせてやる」
「カ、カツ丼……! やります! 掘りますぅぅ!」
もはや、彼らにエリートのプライドはない。
あるのは、食欲と生存本能だけだ。
「……ふふ。大漁ですわね」
私は扇子で口元を隠し、満足げに微笑んだ。
これでダンジョンの設備は一気に近代化される。
アカシックが敵を送り込めば送り込むほど、我がダンジョンは潤っていくのだ。
しかし。
モニターの隅に、新たな警告が表示された。
【システム通知:鹵獲した通信機に『着信』あり】
【発信者:アカシック総帥・「創造主」】
Kの通信機が点滅している。
どうやら、Kの失敗を見て、ついに「ラスボス」が直々にお出ましのようだ。
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