第26話 「なろう系」主人公(刺客)が来店。マナーが悪いので塩対応します
【現在DP:60,000】
【警戒レベル:黄色(不審な魔力反応あり)】
「いらっしゃいませー。……チッ(舌打ち)」
気だるげな挨拶と共に、自動ドア(スケさんが手動で開ける扉)が開いた。
入ってきたのは、一見するとただの若い冒険者の男だ。
黒髪に、少し着崩したレザーアーマー。
腰には剣ではなく、奇妙な「黒い棒」のようなものを下げている。
「うわ、マジか。ここが噂のダンジョン? 内装レベル高いなー」
男――カイトは、店内を見回しながら、馴れ馴れしい口調で呟いた。
その目は、値踏みするように私や、店員のスケさんたちを見ている。
「おいおい、スケルトンがウェイター? 受けるわー。知能レベル低そう」
「……」
「あ、こっちはバンシーか。物理無効だけど、聖属性でワンパンだな」
カイトはニヤニヤしながら、虚空に指を走らせた。
私には見えないが、おそらく彼にしか見えない「ステータス画面」を操作しているのだろう。
『……ベアトリス。あいつ、ヤバいよ』
インカムから、ダンくんの悲鳴に近い声が聞こえた。
『あいつの周りの魔力……「鑑定スキル」だ。しかも、神級クラスの。俺たちのレベルも、弱点も、全部見透かされてる』
「あら、そう。……無礼なお客様ね」
私は営業スマイルを貼り付け、カイトの前に立った。
「いらっしゃいませ、お客様。お一人様ですか?」
「んー? ああ、一人。……へぇ、君がオーナー? 『元・公爵令嬢ベアトリス』、レベル15……ふっ、雑魚じゃん」
カイトは鼻で笑った。
初対面のレディに向かって「雑魚」。
貴族社会なら、手袋を投げつけて決闘を申し込むレベルの侮辱だ。
「……お客様。ご注文はお決まりですか?」
「あー、とりあえず噂の『カツ丼』? 食べて評価してやるよ」
「かしこまりました。……前払い制となっております」
カイトは懐から金貨を放り投げた。
チャリーン。
金貨はカウンターの上で回転し、私の目の前で止まった。
「お釣りはいいよ。……チップだ」
数分後。
カイトは出されたカツ丼を一口食べると、またもやニヤリと笑った。
「なるほどねー。再現度は高いけど、素材の魔力処理が甘いな。俺なら『創造スキル』でもっと上手く作れるけど?」
「(……田中さん、包丁を持って震えないで。抑えて)」
カイトは水を飲み干すと、私を手招きした。
「おい、店長」
「はい、何でしょう?」
「単刀直入に言うわ。……このダンジョンの『コア』、どこにある?」
店内の空気が凍りついた。
食事をしていた冒険者たちが、ざわめきと共に箸を止める。
「……何のことでしょう?」
「とぼけんなって。俺は『アカシック』から派遣されたんだよ。……お前らのバックにいる『転生者』を回収しに来た」
カイトは、腰に下げていた「黒い棒」を抜き、テーブルの上に置いた。
それは、異世界(日本)の警察官が持っていたものによく似ていたが、より禍々しい装飾が施されていた。
――魔導銃だ。
「俺のスキルは『完全解析』と『無限収納』。そして、この銃は対魔力障壁を貫通する特別製だ」
彼は銃口を、私の眉間に向けた。
「レベル15の貴族令嬢じゃ、反応すらできないだろ? さっさとコアを出せよ。そうすりゃ、命だけは助けてやる」
カイトは勝ち誇った顔をしていた。
自分がこの世界の「主人公」であり、私たちはただの「NPC」だと思っている顔だ。
……哀れね。
「……お客様」
「あ?」
「店内での武器の抜刀は、固くお断りしておりますの」
「ハッ! 何言ってんだ? お前が俺に勝てるわけ――」
ドスッ。
鈍い音がした。
カイトの動きが止まる。
彼の背後には、いつの間にか「モップ」を持った老人が立っていた。
「……ん? 邪魔じゃよ、若造」
「あ……?」
カイトが振り返ろうとした瞬間、老人の持つモップが、目にも止まらぬ速さでカイトの手首を叩いた。
バキッ!!
「ぎゃあああああッ!!?」
銃が床に落ち、カイトが手首を押さえて絶叫した。
老人は――先代魔王ゼノンは、何事もなかったかのように床を拭き始めた。
「痛っ……!? な、なんだこの爺さん!? 鑑定……!?」
カイトが慌ててゼノンを睨む。
しかし、彼の顔色がサァッと青ざめた。
「……は? レベル……測定不能? 称号……『絶望の王』……?」
「ほっほっほ。最近の若いモンは、年寄りを労ることも知らんのかの」
ゼノンが殺気を放つ。
その重圧だけで、カイトの足がガクガクと震え出した。
「ば、バカな……! なんでこんな所に魔王クラスが……!?」
「さあね。ただの『清掃員』ですわ」
私は床に落ちた銃を拾い上げ、優雅に微笑んだ。
「お客様。当店のスタッフに暴力を振るいましたね? これは明確な『業務妨害』ですわ」
「ふ、ふざけんな! 俺は『転生者』だぞ! チートスキルを持ってるんだ!」
「チート? ……それが何か?」
ドシン、ドシン……。
奥の扉から、もう一人の従業員が現れた。
銀髪の少年――グランだ。
彼は口元にカツ丼の米粒をつけたまま、不機嫌そうにカイトを見下ろした。
「おい。騒がしくて昼寝ができねぇんだよ」
「ヒッ……!? 今度は……『古龍』!? しかも人型……!?」
カイトの顔が恐怖で歪む。
最強の魔王(清掃員)と、最強の古龍(大家)。
その二人に挟まれて、レベルだけの「自称・主人公」が勝てるはずもない。
「ぼ、僕は……アカシックのエージェントだぞ! 現代兵器も持ってるんだ!」
カイトは半狂乱になり、虚空から次々と武器を取り出した。
アサルトライフル、手榴弾、ロケットランチャー。
「死ねぇぇぇ!!」
彼がトリガーを引こうとした、その時。
「うるさいッスよ!!」
カァァァァン!!
厨房から飛び出したスケさんが、手にした「中華鍋」で、飛んできた弾丸を全て打ち返した。
「なっ……!? 物理無効をスケルトンが、弾き返し……!?」
「当店のフライパンは、ミスリル製(勇者の鎧を再利用)ですわ」
私は扇子を開き、カイトに宣告した。
「終わりですわ、カイト様。……貴方の敗因はただ一つ」
私は、彼の目の前に顔を近づけた。
「私の店で、食事の作法を欠いたことよ」
「やっちまいなさい! 皆さん!」
「御意」「了解」「ウィッス!」「うらめしやー!」
総攻撃が始まった。
――数分後。
ボロ雑巾のように伸びたカイトが、店の外に放り出された。
彼の持っていた「チートアイテム(銃火器)」は全て没収され、田中さんが「これ、どうやって使うんですか?」と興味津々でいじっている。
「……ふん。口ほどにもない」
私は没収した「通信機」を手に取った。
画面には、『ミッション失敗』の文字。
そして、発信元には「Akashic HQ(本部)」の表示。
『ベアトリス……。あいつ、ただの捨て駒だ』
ダンくんの声は、まだ緊張していた。
『アカシックは、こんなもんじゃない。次はもっと……本気で潰しに来る』
「望むところですわ」
私は通信機の「通話ボタン」を押した。
呼び出し音が鳴る。
相手が出る前に、私は一言だけメッセージを吹き込んだ。
「ごきげんよう。……次は『予約』をしてからいらしてくださる? 最高の『おもてなし』を用意して待っていますわ」
プチッ。
私はスマホを握り潰した(物理)。
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