第24話 取調室の味を再現せよ! 食材は「オーク・キング」の太もも肉
【場所:ダンジョン第1層・「ダンジョン・マート(旧コンビニ)」バックヤード】
【現在DP:55,000(※日本での散財により減少)】
「……いいこと? 田中さん。私たちのミッションは、あの感動をもう一度、ですわ」
私は、純白のフリル付きエプロン(DP交換品)を装着し、仁王立ちしていた。
目の前の調理台には、異様な存在感を放つ食材たちが並んでいる。
「はい……。でもベアトリス様、食材のレベルが高すぎませんか……?」
元コンビニ店長であり、現・料理長の田中さんが、震える手で食材を指差した。
1.オーク・キングの太もも肉(推定レベル80。鋼鉄より硬い筋肉の塊)
2.コカトリスの産みたて卵(殻がダイヤモンド並みに硬い。黄身を見ると石化する噂あり)
3.黄金小麦のパン粉(スケさんがすり鉢で粉砕した、勇者の置き土産である堅パン)
4.謎のタレ(私が記憶を頼りに調合した、醤油とみりんと砂糖の代用品)
「甘ったれるんじゃありません! あの『カツヤ』の味を超えるには、並の豚肉では不可能です!」
「いや、普通の豚肉の方が絶対美味しいと思うんですけど……」
「黙りなさい! さあ、調理開始よ!」
私の号令と共に、地獄のキッチンが動き出した。
工程1:肉の下処理(物理)
「スケさん! 肉を叩きなさい! 繊維を断ち切るのです!」
「サー・イエッサー! オークの筋肉、手強いッスよ!」
ドスン! ドスン!
まな板の上に置かれた巨大な肉塊。
スケさんは、両手にミートハンマー(という名の戦棍)を装備し、猛然と殴りかかった。
「オラオラオラオラオラァッ!!」
「もっと! 親の仇のように叩くのです!」
「あだだだだッ! 手首の骨にヒビがッ! でも、肉が柔らかくなってきたッス!」
鋼鉄の肉が、数千回の打撃によって、ようやくプルプルのピンク色へと変化した。
これで「箸で切れるカツ」の準備は整った。
工程2:卵の撹拌(石化対策)
「次は卵ですわ! メラン!」
「ひぃぃっ! 黄身を見たら石になっちゃいますぅ!」
「だから目を閉じて混ぜるのです! 心の目で!」
メランがボウルに入ったコカトリスの卵を、高速で撹拌する。
カカカカカカッ!!
超高速振動により、黄身と白身が完全に融合し、黄金色の液体へと変わっていく。
「いいわ! その黄金比率! 素晴らしい!」
工程3:揚げ(火属性魔法)
「田中さん! 温度管理は任せましたわよ!」
「はいっ! 170度でキツネ色になるまで……って、油の量がドラム缶レベル!?」
『俺が温めるよー!』
ダンくんが床下から熱を送り、巨大な中華鍋(大釜)の油を一気に加熱する。
そこへ、パン粉を纏ったオーク肉を投入!
ジュワアァァァァァァァッ!!!!!
爆音と共に、香ばしい香りが立ち込める。
揚がっていく。
魔物の肉が、文明の衣を纏い、黄金の宝物へと昇華されていく。
「……美しい」
「揚がりました! 今です、タレを!」
揚げたてのカツを、煮立たせたタレと玉ねぎ(マンドラゴラの頭部)の中にダイブさせる。
そして、溶き卵を回し入れる!
蓋をして、数十秒。
「……完成ですわ」
【実食タイム:ダンジョン最深部・大家の部屋】
「……おい。なんだこれは」
寝起きで不機嫌なグランの前に、私は巨大な丼を置いた。
蓋の隙間から、暴力的なまでに食欲をそそる香りが漏れ出している。
「地球の『取調室』で振る舞われる、究極の贖罪料理――『エンペラー・オーク・カツ丼』ですわ」
「……カツ丼?」
「食べてみれば分かります。さあ、蓋をお開けください」
グランが疑わしげに蓋に手をかけ、パカッと開けた。
カッ!!(黄金の光)
「うおっ、眩しッ!?」
半熟卵のトロトロ加減と、出汁を吸った衣の艶が、まるで宝石箱のように輝いている。
グランはゴクリと唾を飲み、レンゲでカツとご飯を掬い上げた。
「……いただく」
パクリ。
モグ、モグ、モグ……。
ピタリ。
グランの動きが止まった。
「……」
「お気に召しませんでしたか?」
「…………」
次の瞬間。
ドォォォォォォォォォォン!!!!
グランの背中から、真紅の炎の翼が噴出した。
「美味ァァァァァァァいッ!!!!!」
洞窟が揺れた。
天井からパラパラと岩が落ちてくる。
「なんだこの破壊力は! オークの肉が口の中で解ける! 脂の甘みが、この甘辛いタレと絡み合って……脳髄を直撃するぞ!」
「(よし、勝ったわ)」
私はガッツポーズをした。
「それに、この卵! コカトリスの濃厚な魔力が、衣を包み込んで……まるで布団だ! 温かい布団の中で二度寝しているような幸福感だ!」
グランは一心不乱に丼をかき込み始めた。
ガツガツガツッ!
あっという間に、5キロはある巨大カツ丼が消滅した。
「……ふぅ。……悪くない」
グランは空になった丼を置き、満足げに腹をさすった。
「ベアトリス。これ、毎日作れ」
「毎日? それは無理ですわ」
「あ?」
「オーク・キングの肉は希少部位ですもの。……週に一度の『限定メニュー』なら考えますけれど?」
私はニヤリと笑った。
飢餓感こそが、最高のスパイス。
毎日食べさせれば飽きる。焦らすことで、彼の胃袋を完全に掌握するのだ。
「……チッ。相変わらず性格が悪いな」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
「いいだろう。その代わり、この『カツ丼』の日だけは、ボクが直々に肉を狩ってきてやる」
「交渉成立ですわね」
こうして。
我がダンジョンに、新たな伝説のメニューが加わった。
【新名物:古龍も唸る『地獄のカツ丼』】
【効果:HP全回復、MP全回復、満腹度120%、一定確率で石化耐性付与】
田中料理長の初仕事は、大成功を収めた。
しかし、私たちは忘れていた。
「カツ丼」が、元々何を目的とした料理だったのかを。
数日後。
この匂いにつられて、とんでもない「迷い客」がやってくることになる。
「……いい匂いだ。ここなら、私の『話』を聞いてくれるかもしれない……」
ダンジョンの入り口に立ったのは、ボロボロのローブを纏った、一人の陰気な老人。
彼こそが、かつて世界を恐怖に陥れたという――「先代魔王(リストラ済み)」だった。
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