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没落令嬢、ダンジョンと結婚(契約)してしまった件~死に場所を探して入った穴が、意外と感度のいい旦那様でした~  作者: beens
第2章 大家(ドラゴン)が地下からクレームに来た件

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第20話 いざ、異世界(秋葉原)へ! 令嬢の欲望は止まらない

 【現在DP:65,000】

 【システム通知:異界の裂け目、不安定化。一時的な移動が可能】

「……つまり、この『穴』をくぐれば、貴方のいた世界に行ける、と?」

 私は、コンビニのバックヤードに開いた、黒い歪みを見つめて言った。

 田中(コンビニ店長)は、怯えながら頷く。

「はい……。ここから異世界に転移してきたんです。元の世界に戻れるかは分かりませんが……」

『ベアトリス。このチャンスを逃すな!』

 ダンくんの声が、興奮で震えている。

『あの「アカシック」って組織。俺がこのダンジョンコアになる前に、追われてた連中だ。まさか、10年も経って、まだ暗躍してるとは……』

「なるほど。つまり、貴方の因縁の相手、ということね?」

『そう! だからこのチャンスに、俺の死の真相と、彼らの目的を探りたいんだ!』

 私は腕を組み、冷ややかに言った。

「その情熱は買いますけれど……。私の得になるのかしら?」

『もちろん! あっちの世界は『DPの宝庫』だよ! 見たことないアイテムの山! 電化製品! アニメ! 漫画!』

「……アニメ? 漫画?」

 私の貴族としての興味と、没落令嬢としての商魂が同時に刺激された。

 未知の文化、未知の娯楽。

 これは、DPを荒稼ぎする絶好の機会ではないか?

「よろしい。行きましょう」

『マジで!? ありがとうベアトリス!』

「ただし! 私の目的は、あくまで『珍しい商品』の買い付けよ。貴方の復讐劇に付き合うつもりはないわ」

 私は、スキップしそうなダンくん(コア)の壁を叩いた。

「スケさん、メラン! 遠足の準備よ!」

「イエッサー! お菓子は300円までッスか!?」

「ひぃっ! 異世界なんて怖いですぅ! 食べられちゃいますぅ!」

「だらしないわね。田中さん!」

「は、はい!」

「貴方も行くわよ。案内役として」

「ええ!? 俺はこっちで品出しが……」

「貴方の故郷でしょう? 迷子にならないかしら?」

「うぅ……」

 こうして、一行は異世界(現代日本)へと向かうことになった。


「……ここが、貴方のいた世界?」

 空間の裂け目を抜けた先。

 私たち一行は、ビルの谷間に立つ「路地裏」のような場所に降り立った。

 頭上には、金属製の巨大な「網(送電線)」が張り巡らされ、壁には奇妙な「ポスター」が所狭しと貼られている。

「は、はい……。ここは……東京都……の、秋葉原の裏通り……ですね」

「アキハバラ?」

 私の目には、そこは魔法も魔物もいない、薄汚れた灰色の世界に見えた。

 だが、ダンくんの興奮した声が響く。

『ベアトリス! 見て! あのデカい建物! あれが「アニメイト」だよ!』

「アニメイト? 神殿かしら」

『その隣の黄色い看板の店は「とらのあな」! 地下の赤い店は「メロンブックス」!』

「メロン……? 果物屋? 地下に?」

 私の理解を完全に超えている。

 と、その時。

 ドドドドドドドドッ!!

 路地裏から、数人の人影が飛び出してきた。

 彼らは皆、奇妙な布製の「リュック」を背負い、手に「紙の束(本)」を持っている。

「逃げろー! 新刊だー!」

「限定版は俺がもらうー!」

「ぐおぉぉぉ! 転売屋が邪魔だぁ!」

 彼らは私たち一行を見ると、驚いて立ち止まった。

 ――そりゃそうだ。

 ゴシックドレスの令嬢、スケルトン、透明な幽霊、そして憔悴しきったコンビニ店員。

 どう見ても不審者集団だ。

「おい、お前ら! こんなとこで何やってんだ!?」

「ひっ!? ご、ごめんなさい! 幽霊ですぅ!」

 メランが悲鳴を上げると、周囲の人々が「うわぁぁ! マジモンだ!」と叫んで逃げ出した。

「ふふふ。どうやら、私たちも『魔物』として認識されたようですわね」

 私は、人ごみをかき分けて先頭に立っていた男に、扇子を向けた。

 男は、手に持っていた「アニメのイラストが描かれた薄い本」を大事そうに抱えている。

「そこの貴方。その『書物』、一体何ですの? 魔導書かしら?」

「はぁ? 魔導書? これ『同人誌』だよ! 今日の新刊! えっちなやつ!」

「えっち?」

 私は男から本をひったくった。

 表紙に描かれたのは、セクシーなメイド服の少女。

 パラパラと中をめくると、それは私のメイド服姿によく似ていた。

「……ッ!! これは!」

 私の脳内で、何かが弾けた。

 この『えっちな書物』に描かれているのは、どこかで見たことのある構図。

 私がダンジョンで寛いでいる時の、あの姿ではないか。

「まさか……私が、こんな風に描かれているとでも!?」

 本の内容を読み進めるうちに、私の顔は真っ赤になった。

 入浴シーン。湯上がりの牛乳。スケルトンとの掛け合い。

 ……確かに、あの騎士団との戦いの後、私が温泉に浸かった「お風呂回」のことが描かれている。

『ベアトリス、その本……! それ、俺のいた世界で、君たちの物語が『アニメ』として放送されてたやつだ!』

「なんですって!?」

 ダンくんの声に、私はさらに驚いた。

 まさか、自分たちの生活が、遠い異世界で「物語」として消費されていたとは。

「おい、その本はなんだ!? どこで手に入れた!?」

 私は、呆然と立ち尽くす男の襟首を掴んだ。

「ひぃっ! 秋葉原の『とらのあな』で買っただけっす!」

「とらのあな……! あの果物屋が! 私の物語を勝手に!」

 私は、持っていた扇子をバチッと閉じた。

「行くわよ、皆さん! 『とらのあな』へ突撃! 私の肖像権侵害と名誉毀損の抗議よ!」

「ちょ、マスター! とらのあなは普通のお店ッス!」

「田中さん! この街の著作権法について説明なさい!」

「ええ!? 俺、そっちの法律は……!」

 こうして、ベアトリス一行は、異世界での第一歩を「版権問題」からスタートさせたのだった。

 ダンくんの過去の因縁? そんなものは、今や些細なことだ。

 何よりも、私の尊厳が最優先なのだから!

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