第19話 異世界から「24時間営業の神殿」が転移してきた件
【現在DP:50,000】
【異常事態発生:ダンジョン第1層に『異空間』が出現】
「……なんなの、あれは」
私は、扇子で口元を隠し、目の前の光景を凝視していた。
場所は、ダンジョンの入り口付近。
かつてガリラスや勇者が襲来したその場所に、今は「それ」が鎮座していた。
四角い箱のような建物。
壁は、向こう側が透けて見えるほど透明な「ガラス」張り。
そして、天井からは煌々(こうこう)と、昼間の太陽よりも白い「光(LED)」が降り注いでいる。
「見たことのない建築様式ね。……魔王軍の秘密兵器かしら?」
『いや、違う……。嘘だろ、マジかよ……』
ダンくんの声が、いつになく震えている。
『あれ……俺のいた世界の建物だ。通称「コンビ二」だよ!』
「コンビニ? ……変わった名前の要塞ね」
私が警戒しながら近づくと、ガラスの扉がひとりでに開いた。
ウィィィン……。
チャラリラリラ〜♪(入店音)
「ひっ!? 音響攻撃ッスか!?」
「メラン! 応戦なさい!」
「き、帰ってくださぁぁぁい!!(超音波)」
パリーン!!
メランの悲鳴で、ガラス扉が一枚粉砕された。
すると、建物の奥から、青ざめた顔の男がふらりと出てきた。
奇妙な縞模様の制服を着て、目の下にクマを作った、ひ弱そうな青年だ。
「い、いらっしゃいませぇ……。あー……ガラス代、弁償してもらえます……?」
「……貴様、何者?」
私が扇子を向けると、青年は力なく笑った。
「アルバイトの田中です……。深夜シフト中に地震が起きて、気づいたら森の中に……。これ、夢ですよね? 夢なら早く帰らせてください……廃棄弁当もらう時間なんで……」
完全に目が死んでいる。
この男、社畜の波動を感じるわ。
数分後。
私は店内の探索(という名の略奪)を開始した。
「……信じられない」
私は、棚に並ぶ商品を手に取った。
見たこともない素材で包装された、色とりどりの食料品。
しかも、この空間自体が、一定の温度に保たれている。
高度な空間魔法と、保存魔法の複合結界だ。
「この『オニギリ』という三角形の物体……。米を、海藻で包む? 随分と前衛的な料理ね」
『ベアトリス、それもいいけど、こっち! レジ横を見て!』
ダンくんに促され、私はカウンターへ向かった。
そこには、ガラスケースの中で暖められている、黄金色の肉塊があった。
「……これは?」
『「ホットスナック」だよ。揚げた鶏肉だ』
「揚げた鶏肉? コカトリスの唐揚げのようなものかしら」
私は興味本位で、ケースから一つ取り出した(店員の田中さんは気絶しているのでセルフサービスだ)。
紙袋に入れ、一口かじる。
サクッ……。
ジュワァァァ……。
「……ッ!?」
衝撃が走った。
なんだ、この味は。
肉自体の味ではない。もっと強烈で、もっと直接的に脳髄を刺激する、「魔法の粉」の味がする。
「塩? ……いいえ、もっと複雑な……。旨味を凝縮したような……」
『化学調味料の暴力だね。中毒性高いよー』
美味い。
悔しいけれど、宮廷料理人の作る上品なローストチキンより、今の私の舌にはこの「ジャンク」な味が突き刺さる。
「……おやおや。いい匂いがするねぇ」
その時。
背後から、重低音の声が響いた。
あーあ、来ちゃった。
鼻の利く大家、グランの登場だ。
「ベアトリス。自分だけ美味いもん食って、ボクにはなしか?」
「グラン様。これは……未知の『異界の食料』ですわ。毒見をしていたのです」
「毒見? ふん、ドラゴンの胃袋を舐めるなよ」
グランは私の手から紙袋を奪い取り、骨なしチキンを一飲みにした。
「……」
「……いかが?」
グランの動きが止まった。
爬虫類の瞳が、カッと見開かれる。
「……なんだ、この『背徳的』な味はァッ!!」
ゴォォォォォォォッ!!
感動のあまり、口から炎が漏れた。
店内が火事になりかける。
「肉汁の中に潜む、この人工的な旨味! スパイスの配合が絶妙だ! コカトリスの肉より柔らかいぞ!」
「(そりゃ成形肉だもの)」
「おい! もっとだ! ここにある肉、全部よこせ!」
グランはガラスケースごと引っこ抜こうとした。
待って。
それをされたら、この貴重な「文明の遺産」が失われてしまう。
「お待ちなさい! グラン様!」
「あぁ? 邪魔するな!」
「それを食べてしまったらおしまいですわ! この店ごと、私が『買収』しました。……これからは、この『魔法の粉』を解析し、量産するのです!」
私の商魂に火がついた。
この味。この保存技術。そして、この「プラスチック」という素材。
これらをこちらの世界で再現できれば、革命が起きる。
「田中さん! 起きなさい、田中さん!」
私は気絶していた店員を揺り起こした。
「ひぃっ! は、はい!?」
「貴方を雇いますわ。この店の『店長』として」
「えっ……?」
「給料は弾みます。金貨で支払います。福利厚生(温泉・ジム付き)も完備。その代わり――この店の在庫管理と、商品の『レシピ(発注)』のノウハウをすべて吐きなさい」
田中さんの目が、金貨という単語で輝きを取り戻した。
「き、金貨……? 時給換算でいくらですか……? 深夜手当は……?」
「一生遊んで暮らせる額よ。さあ、どうする?」
「やります! 働かせてください! コンビニ店員のスキル『品出し(高速)』を見せてやりますよ!」
こうして。
異世界からの漂流物「コンビニ」は、我がダンジョンの第1層テナントとして正式にオープンした。
【新施設:ダンジョン・マート(24時間営業)】
【特産品:ドラゴンも唸る『ジャンクチキン』】
文明の利器を手に入れた私は、さらに無敵になった。
……はずだった。
だが、この「異世界転移」は、ただの偶然ではなかった。
コンビニの雑誌コーナー。
そこに置かれた一冊の週刊誌を手に取ったダンくんが、凍りつくような声を上げた。
『……ねえ、ベアトリス』
「何よ。今、カップ麺のお湯を入れてるところなんだけど」
『この雑誌の日付……。俺が死んだ(転生した)日から、10年も経ってる』
「……それが?」
『そして、この表紙……』
ダンくんが見せた雑誌の表紙。
そこには、見覚えのある「白い仮面」をつけた人物の写真と共に、こんな見出しが踊っていた。
『現代の魔法使い!? 謎の組織「アカシック」が世界を牛耳る』
『……これ、俺を殺した組織だ』
カップ麺の蓋が、ハラリと落ちた。
どうやら、この「裂け目」は、ただの事故ではない。
ダンくんの過去――そして、私たちが戦うべき「本当の敵」へと繋がっているようだ。
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