254話 魔神復活
「魔神よ、人間を奴らを滅ぼしてくれ!」
魔人が魔神に向かってそう言った。すると、魔神はゆっくりと閉じていた瞼を開き言った。
「貴様、誰に命令している?」
その口調は容姿からは想像がつかないほど恐ろしく、一瞬で萎縮してしまうほどの怒気を孕んでいた。
「うっ……や、やめ……」
魔神は闇魔法を巧みに操り俺の見えざる手のように動かし無礼な発言をした魔人の首を掴み、自分の目線まで持ち上げた。そして、魔神は言った。
「我は誰だ、言ってみろ」
「ま、魔神です……」
「貴様は?」
「た、ただの魔人です……」
「分を弁えろ」
魔神はそう言うとその魔人を投げ飛ばした。その威力は凄まじい物で、家屋を三棟倒壊させるほどだった。辺りに今までとはまた別の緊張感が走った。俺たちはどうしようもできずに立ち尽くしていると魔神と目が合ってしまった。俺は目線を逸らすことは失礼にあたるのではないかと思い、目線一つ動かせなかった。すると、魔神が言った。
「人間答えろ。何故人間が我が復活の瞬間を見てそのように平然としていられる?」
俺は突然の質問に困惑したが、嘘を付くわけにもいかず真実を話した。
「え、えっと仲間のおかげだと思います……」
「その仲間とは?」
なぜこんなにもグイグイ質問をしてくるのかと不思議でたまらなかったが、このまま話し合いに持ち込めれば良い方向に進むのではないかと思い答えた。
「仲間はたくさんいまして、光魔法に長けている者にサポートしてもらっています……」
「良い仲間を持ったな。それで、我を復活させた理由は?」
俺がこんな質問に答えられるはずがない。俺たちは復活を阻止しようとしていたのに、俺に復活させた理由を問うてきているのだから。俺が困惑していると、魔神教団の老人が割って入った。
「魔神よ、我はブーレペタ。貴方様を復活させたのは我らであります」
「ならこの人間は何者だ?」
「奴らは侵入者です。貴方様の復活を阻止しようとやってきた者たちです」
魔神の目線が先ほどより力強いものに変わり俺は身構えた。いつ闇魔法が飛んできてもおかしくない状況に瞬き一つできずにいると、魔神はゆっくりと俺に近づいてきた。俺は魔神と距離を取るためにゆっくりと下がった。すると、魔神眉間に皺を寄せて言った。
「離れるな」
何の用があってそんなに俺に近づきたいのか、そもそも魔神に間合いに入られたくないなど様々な感情が渦巻いていたが、反抗して殺されるのは嫌だから素直に従った。魔神が俺の目の前に来た。俺は何をされるのか怖くて目を瞑っていると、片手で頬を触ったり体をペタペタ確認するように触ってきた。俺はその行動に目を見開いて驚いていると、ブーレペタも俺と同じように驚いていた。
「もう良い下がれ」
俺は何のために行った行動なのか理解できなかったが、離れられるようになりすぐに下がった。魔神が見える距離ギリギリまで離れると、魔神はブーレペタと他の魔人にも俺と同じようなことをした。そして満足したのか俺と同じように下がるように言った。魔神の行動が理解できずにいると、魔神は魔神教団本拠地を見渡せるぐらいの高さまで浮遊して話し始めた。
「ここにいる全ての者に告ぐ、我は魔人側にも人間側にもつかないことに決めた。魔人が我を復活させた理由は大方想像できる。そして、人間側がそれを阻止しようとする理由も分かる。なら、我は争いに参加せず魔人と人間で戦えば良い。そうであろう?」
魔神の言葉に俺たちは驚きを禁じ得なかった。でも、魔神が言っていることは至極真っ当だ。復活させられて戦わされてどちらから一方が勝利するまで争いは続く。そんな面倒なこと、できるなら傍観者でいる方がマシだ。争いに参加して失う物はあれど得られる物は何もないのだから参加しないのは当然だ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! それじゃあ我らの苦労が無意味じゃないですか!」
ブーレペタや他の魔人が愚痴を口々に言った。魔神はそんな愚痴を一蹴するように言った。
「そもそも貴様らは自分の力で目標を達成しようとしたのか? 我の力頼りではないか? 我を復活させて後は全部任せようなどと考えていたのではないか?」
魔人たちは図星だったのか黙ってしまった。すると、ブーレペタがある提案をした。
「魔神よ、我らは人間に勝てない。だから貴方様を復活させたことは認める。だが、決して貴方様に全てを任せようなどとは考えておりません。我らの目標は一つ、世界を魔神の支配下に置くことです。そうすれば我らはより力を増し、貴方様は世界の支配者となる。これが我ら魔神教団の目標です!」
「世界の支配者か、それは良いな」
このままでは魔神がどちらにもつかないという中立のスタンスを崩して魔神教団側についてしまいそうだと思った俺は何か言って気を逸らさないとと思い思考を巡らせた。でも、俺たちには魔神が求める物や思考回路が理解できずどうしようか悩んでいると、カサムラーが言った。
「魔神よ、我ら魔の付く者と人間は貴方様が人間と闘っていた頃よりずっと親密になっています! 現に、我が同胞と契約した人間もおります。再び貴方様が闘われては人間と魔の付く者の関係は修復できないものになってしまいます。そのことも十分に考えてください!」
「それは真か?」
カサムラーの言葉に魔神が食いついた。まさか魔神は争いを好むような性格ではないのかと感じ取れるほどに食いついていた。カサムラーは今だとばかりに畳み掛けた。
「もちろんです。リフォン! ルナ!」
俺はまさか呼ばれるとは思っておらず魔神にビビりながらもカサムラーの所に行った。俺たちはバラバラになって闘っていたのでルナが少し遅れてやってきた。魔神は俺とルナを確認すると闇魔法を目の前に出現させた。俺たちは何事かと驚いたが、魔神はきちんと説明をした。
「これは我の魔の付く者を従属化させる闇魔法だ。本来ならルナという悪魔がこれに触れれば我に従属化してしまうが、契約をしているのなら免れるだろう。試してみよ」
ルナは俺に不安の表情を見せたが俺は大丈夫だとルナの目を見つめた。ルナがゆっくり手を伸ばし闇魔法に触れると何も起こらなかった。俺たちは安堵のため息を漏らした。
「どうやら人間と魔の付く者の関係は以前より良好なようだな。貴様、ルナというこの悪魔以外にも魔の付く者と契約しているだろう? その者を呼べ同じことをやらせよう」
俺はユディとルリを呼んだ。二人とも最初は怖がっていたが、ルナが大丈夫だったのを知っていたため二人はゆっくりと手を伸ばした。その結果、二人とも大丈夫だった。
「リフォンとやら、貴様は我ら魔の付く者と人間の架け橋となる存在だ」
俺たちがそんな話をしていると魔人たちが黙っていなかった。魔神に世界の支配者になってもらいたいという言葉や魔人の屈辱を晴らして欲しいという言葉を投げかけていた。すると、魔神は先ほど魔人たちを一蹴した時とは違い、魔人たちを諭すように話し始めた。
「貴様らの先祖が人間に迫害され貶され酷い扱いを受けてきたのは知っている。だがな、貴様らがその憎悪に支配され人間に復讐したら負のループは終わらないんだ。貴様らの子孫まで続くかも知れない。だから、その負のループを断ち切るんだ。我が最初にどちらの側にもつかないと言ったのはそのためだ。世界は変わってきているのだ。貴様らも変われ。我はもう争いなんていう無意味なことはしたくないのだ」
魔神の言葉に多くの魔人たちは納得はいかないが、魔神がそこまで言うのならという雰囲気になっていた。そんな時、ブーレペタが後ろの方で肩を震わせていた。
「そんなわけないだろー!」
ブーレペタがそう言った刹那瞳孔が光った。俺は瞬時に断絶壁を出現させた。何とか防ぐことができ一安心していると、魔神がブーレペタの方に向かって歩いた。そして、魔神は言った。
「貴様は新しい世界にはいらん」
魔神はブーレペタの頭に手を置き闇魔法を使った。すると、ブーレペタは真っ黒になり灰となった。シュルリーダが死んだ時と同じように灰となった。ブーレペタは今の一瞬で魔神によって殺されたことを理解した。先ほどまで良い人みたいな雰囲気だったのに急に魔神に戻って魔神は魔神なのだと理解させられた。
「話を戻すとしよう。我は人間について疎い。人間と魔の付く者の関係をより良くするには我も人間について知らねばならん」
俺たちは魔神に人間のことについて話すことにした。
次回もお楽しみに




