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5 帝国軍侵攻

 俺が着いた場所は屋敷ではなく、王都の城壁の上だった。


 やはり帝国軍の動きは気になる。


 空は薄明るくなってきてはいるが、まだ夜で辺りは暗く、遠くの景色は見えなかった。


 城壁には見張りが誰もおらず、かがり火も焚かれていなかった。


 攻め落とされたかと俺様は思ったが、王都は平穏で静かだったので、帝国軍はまだ来ていないのだろう。


 ひょっとしたら王国軍が撃退したのかもしれない。



 少し落ち着いた俺様は、指輪から千里眼鏡めがねを取り出してかけて見る。


 助けてくれた兄妹が気になって仕方なかった。


「貴族領を映せ――なっ!」


 眼鏡に映ったのは悲惨な光景。まさに地獄絵図。


 義弟の領主館は燃え落ちて、全ての村々で火の手があがっている。


 領民同士は殺し合い、倒れた人々の中にあの兄妹の姿があった。


 もう生きてはいまい……誰一人として。


 俺様はあの女に殺意を覚える。


「今度会ったら刺し違えても殺す!」



 怒りに震えていると、朝日が昇り夜明けがきた。


 まぶしい太陽を背にやってくるのは、帝国の大軍だ。


 大地にひるがえるのは帝国の旗で、見間違えようもない。


 騎馬が地鳴りと土煙を上げている。


 迎え撃ったはずの、王国軍の姿はどこにもなく、希望は断たれた。

  


「ひー! もうお終いだー!」


 一人の兵士が離れた所で悲鳴を上げていた。


 今まで近くにいなかったので、様子を見に城壁の階段を上ってきたのだろう。


 俺様は駆け寄って声をかける。


「おい!」


「い、イキリ様、お助けをー!」


「それよりも王は、王国軍はどうなったんだ!? 教えてくれ!」


「……昨日、王は自ら軍を率いられて、城から打って出られました。ですが戻ってきたのは、傷だらけの伝令がただ一人。『負けた……王は討ち死に……』と言って事切れました」


「……そうか破れたか。無理もないな、平和になってからまともな軍事演習はしてなかったし、騎士達も毎日酒を飲んであぶらぎってたからなー……生だらな軍で勝てるわけがない。王子はどうしてる?」


「愛人と金貨を馬車に詰めこんで真っ先に逃げました。城を守っていた騎士達も逃げて、誰も残っていません」


「そうか……なら他の民にも逃げるように伝えてやってくれ。俺様にチートはないし、もうどうにもならん」


「は、はい!」


 兵士は慌てて階段を下りていく。


 城門はすぐには破れないだろう。だが城壁を乗り越えられたら、あっと言う間に帝国軍はなだれ込んでくる。


 民達が逃げる時間を少しでも稼ぎたい。


 俺様は指輪から召喚卵(イースターエッグ)を取り出す。


「いでよスケルトン! 城壁を守れ!」


 複数の骸骨兵が現れて、それぞれ持ち場につく。いわゆる召喚モンスターだ。


 単純な命令しか聞かないが、そこそこ強いので足止めにはなるだろう。


 俺様は下におりてから、ゴーレムも召喚して門を守るように命令した。


 それでも何時までもつかは分からない。


 あの兵士が伝えてくれたようで、王都から人々の避難は始まっていた。


 俺様も屋敷に戻ることにする。嫁や子供達が逃げたか気になっていた。



 久々に走って屋敷に着くと、門は開け放たれて馬車は全てなくなっていた。


「ほっ」


 もう逃げだした後だった。執事が上手くやってくれたのだろう。


 俺様が安心していると、駆け寄ってくる嫁がいた。


「旦那様!」


「乞食嫁! なぜ逃げていない!?」


「お帰りをお待ちしておりました。カズト様に救っていただかなければ、私はのたれ死んでおりました。だから最後までお供させて下さい」


「お父様……」


 十歳の娘が抱きついてきたので、俺様の心は揺れる。


 いやダメだ! ここで死なせるわけにはいかない!


 俺様は心を鬼にして突き放す。


「逃げるんだ! 帝国兵は容赦はしない。殺されるだけならマシだが、子供でも犯されて輪姦まわされるぞ! 義弟と女中達の最後はひどかった。そんな姿はもう見たくない!」


「……わかりました。それではこの子だけでも守ります」


「そうしてくれ。だが、今からでは逃げても追いつかれる……転移石はもうない」


「下水道に入ります。昔は住んでいた場所ですから抜け道は知り尽くしています。この子にも慣れさせていました」


「そうか、臭くて暗い下水道には帝国軍も入ってはこまい。娘を頼んだぞ!」


「はい……うっうううー!」


 泣く乞食嫁に幾つかのアイテムを渡し、娘には母の形見の腕輪をあげた。


 俺様にはもう必要がない。あとは生き延びてくれれば良かった。


「うわーん!」


 母親に手を引かれて去っていく娘に、俺様は背を向けて走り出す。


 泣き声を聞いてるのは辛いので、耳を塞ごうとするが、その必要はなくなる。


「うおおおおおおー!」


「きゃあああああー!」


 ガチャガチャと鎧の音に混じり、雄叫びと悲鳴が聞こえてくる。


 ついに帝国軍が王都になだれこんできた。

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