6ー6ー1 崩れる虚構
場所は廃校の元一階廊下部分、現虚空の上空。
そこにいるは、狂い咲きとも評されし異様な笑顔を浮かべて刀拳振るう天神和輝やスラオシャに、腰まで伸びた長い黒髪を震わせる、目に下半分が黒く染まった真紅の時計嵌まる妖と。
「いいぞー! やっちまえ和輝さーん!!」
「落ち着けスラオシャ! ラファエルも喜んどらんで手伝わんか!!」
「ほう、随分と成長して……」
「おいこら婆さん! あんた孫見る目で和輝ちゃん眺めとらんと何とかしてくれへんか!?」
嬉々として煽るラファエルを抑え怒鳴るミカエルに、慈愛に満ちた眼差しで和輝を見る飛鳥姫巫女命、悲鳴交じる叫び声を響かせるアンドロメダ。
「このままじゃ世界壊れてみんな纏めて何もない世界に放り込まれますよ!?」
「「え"!?」」
甲高い声で叫ぶ天照の言葉に強張った声を響かせるウリエルとサキエル、シオンとクリューネルがいた。
この事態を招来せし事情は暫し前、和輝が敵の前髪を切り落とし、その瞳に時計が嵌め込まれているのを見て取った時のことだった。
「コトリバコの破壊で殺すのが無理なら、それが完全に黒くなるまで殺せばいいのか」
「同じことは、何度も何度も言われたよ」
嗤う和輝は重く残忍な刃を振り下ろし、対する少女は次元を越えた重力無視するカッターナイフを突き出して。
眼下に広がる虚空にさえも隠れ出で、全方位より攻撃浴びせては弾かれて。
よおぉぉぉ、ここが祭りの会場かぁっ!!
応酬の最中唐突に、地獄の底より響くが如き低く重い昏い感情に満ちた声が鳴り響き。
……よおおぉぉぉ、スゥゥラオシャさんよおぉぉぉ!!!
歪な声を響かせるスラオシャを見た和輝も、狂気に満ちた低く昏い声を轟かす。
そこから、三つ巴の戦いは始まって。
―――何これ?
その後暫し経ち、乱闘会場に三人の少女が辿り着くや同じ感情を響かせる。
「ねぇ……ミク」
「何、ルナ」
「何か、忘れている気がしない?」
「うん」
隠蔽結界で身を隠しながら戦場見つめ時置いて、月菜が和輝を凝視しながら隣の望來へと感情含まぬ問いを投げ。
対する望來も、和輝を凝視しながら月菜と同じ昏く苦々しい表情浮かべ忌々しげに吐き捨てる。
ずっとずっと大切で、何でもいくらでも捨てられるくらい大切な何か……
和輝へと向かう銃口を左手で押さえ、絞り出すように声を吐く。
そういえば、何度か自然に……
どこか、霧にでも迷い込んでいるような……
そんな二人のことなぞ気にも留めぬ者たちの拳が唸り、戦闘は収まるどころか益々盛りがついていて。
「ほぉらどうした! 泣き喚いて命乞いしてみろよ!!」
「オマエガナァッ!!」
「命乞いの仕方が分からねぇのなら、永遠に無様に泣き叫んでみろや地獄でなぁ!!」
刃に漆黒の炎を纏わせ和輝は黒髪の怪異に反撃の隙与えることなく刀を的確に振り下ろし、それを援護する動きで繰り出されるスラオシャの拳あり。
刀を避けど迫る拳で何度も何度も虚空に落とされては這い上がる、怪異の瞳で輝く時計は這い上がる度に黒く昏く染まりゆき。
「あと何回だ!? 五回、六回、それとも三回か!?」
「うるっせぇゼロが6個ばかし足りねぇな!!」
和輝が少女の胴を横に割り、首を撥ねて頭部を4つに割った時のことだった。
―――うわぁっ!?
高みの見物決め込んでいた者たちが一体、襲う余波に目を剥く金髪の少女が掠る刃に叫んで震え縮こまる。
「ちょっとちょっとちょっと!? 何なのコレ何でこんなことがあり得るの!?」
「いや、だってあいつだし……」
微かな笑み浮かべ穏やかな声を紡ぐは事態の中心を引き摺り回さる茶髪の少女、解けた隠蔽魔法の先見て口の端を引き攣らせ。
動き固まる瞬間手を取る彼の者が隠蔽魔法を拡張しながら張り直し、和輝指差し教え乞い。
短く一言厄災のみを語る者、息を潜めて気配消す。
「何であんたはそんな達観したような目をしてるのかな心の友よ!!」
「あんたとは、心の友どころか普通の友達ですらなった記憶がないんだけど?」
「うぐ……」
「それより臭いから近づかないでくれる? 何漏らしたか……漏らしてるか、知んないけどさ」
「ひうっ!?」
茶髪の対応に最早涙目になるしか道がなかったという金髪いる他所で、ふと足止める和輝は魔法少女の正面で首を傾げて微かな声を響かせる。
ここか?
一瞬だけ止んだ攻撃を好機に取ったスラオシャの拳を回避し迫る致死の攻撃を刀でいなし、そのまま腕振り空間を縦に抉じ開ける。
ひゃぃっ!?
轟く硝子が割れた音に目を見開く魔法少女だが、対する和輝に写る表情は落胆で。
何だ、雑魚か
金髪の姿を確認するや、興味失ったを全身で語りながら視線外して迫る妖斬り飛ばし。
……何の匂いだ?
香る臭いに首傾げ、発生源の方へと目を向けた。
さ、さぁ……
そんな和輝の視線から逃れようと必死で目を逸らす他所、臭気の中心地より離れた茶髪の少女が息を吐き。
「あ、こいつ漏らしたから気にしないでやって」
「……漏らしたのか」
響く底冷えのするようと語らる声とそれに続く乾いた声に、目に涙を溜める金髪の少女は小刻みに震え息揺らし。
うわあぁぁぁんんんん!!!
その手より落ちる漆黒の珠のことなぞ知らずに足を上げ、丁度脛の位置で蹴り上げて。
何で!? 何でこんなところに石あるわけ!?
和輝へと吸い込まる珠の存在なぞ完全に忘れた挙動で蹲り、脛を抑えて転がり回る。
対して、和輝は砲弾が如く迫る漆黒の珠を、昏く悪意に満ちた笑みを浮かべ見つめていて。
〈漆黒の業火よ〉
低い声が響いた瞬間に、漆黒の珠は砕け業火に包まれ灰と化す。
「「キャアァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」」
それと同時に不協和音重なる叫び声が響いてガシャ髑髏は崩れ去り、影より起き上がりし異形も倒れ消え果てた。
それでも尚和輝や天界勢の前に佇む少女は健在で、正気疑う視線の重なりに歪む唇吊り上げる。
「キャキャキャキャキャキャキャ!!!! ざーんねんだったな!! おいどうだ? 今の気持ち教えてくれない!?」
「―――何で……」
「えぇ、だってその子。コトリバコとは何にも関係がないどころか、コトリバコに縛られてすらいませんから」
高らかに鳴り響く勝ち誇った笑い声の裏で呆然と紡がる音を消す、何事もなかったかのように答えを返すは桃髪の大天使。
は?
集まる視線気にした様子すら見せず、幼子を見据え嘲る声を響かせた。
「ねぇ、本当は存在しない忌み子ちゃん?」
その瞬間、無情で非情な荘厳な重鐘の音が鳴り響く。
黙ってないで、何か言ってくれない? ねぇ?
煽るラファエルの声を浴びれど何を言うでもなく立ち尽くす、黒髪の怪異の目に温度最早なく。
続く二度目の重鐘の音に舌を打つ、魂殺の大天使は忌々しげに吐き捨てた。
〈管理機構が偉そうに……!!〉
嫌悪と侮蔑混じる感情響いたその瞬間、三度目の鐘が鳴り響き。
「「なっ!?」」
巨大な破裂音と共に、そこに居た者たちの座標がそれぞれ移動する。
何が……
困惑の声を重ねて辺り見渡す天使たちだったが、そんな声は次第に無言へと変わりゆき。
みんな、どこ行った?
ラファエルと飛鳥姫巫女命を除く、平坦な声が空虚に響く。
そんな誰も見えなくなった世界の中に、和輝は一人酷薄な笑みを浮かべながら刀を構えていて。
「よぉ、俺以外が飛んだ気分はどうだ?」
「……最悪だね」
漆黒の炎を刀に纏わせ振るい、顔を歪める時計目の少女を切り裂いた。




