二十一年目の判決
ローファンタジー
誰も知らない僕の本当の名前 更新中
あと毎日更新として
日常コメディ 目下捜索中です
こちらは1話完結として随時更新していく予定です。
どちらの作品もよろしくお願いしますm(_ _)m
ガチャリ、と鍵のかかっていない鉄扉が開き、室内に滑り込んできた大柄な男――弟の山村たかひろが、背後から鈴原の膝裏を容赦なく蹴り飛ばした。
「ぐあッ!」
体勢を崩して倒れ込んだ鈴原の背中に馬乗りになり、冷たいリノリウムの床へと強引にうつ伏せに押さえつける。
「動くな。少しでも暴れれば、この若造の頭を吹き飛ばす」
後頭部に歪な手製の銃を強く押し当てられ、鈴原は完全に動きを封じられた。
その背後から、もう一人の男――山村たかしがゆっくりと姿を現し、パイプ椅子に座ったままの栗原の正面に立った。
緑色のフードを深く被り、泥と無精髭にまみれた顔。その手には同じく手製の銃が握られ、銃口は栗原の心臓に向けられている。
栗原は、その顔を見た瞬間、小さく息を吐いた。
先ほどまでの思考のパズルが、最悪の形で完成したことを悟る、静かで重い溜息だった。
「……山村、たかし」
栗原の掠れた声に、たかしはわずかに目を見開き、そして歪に口角を吊り上げた。
「……ほう。何百人とぶち込んできた容疑者の一人を、よく覚えていたな。自分の出世作になった『獲物』の顔は忘れないってか?」
「……」
「忘れたとは言わせないぞ。十八歳の俺を、この大原警察署の取調室にぶち込み、やっていない殺人の書類を嬉々として書き上げたのはお前だ。お前は俺に言ったな。『ダメだよ、こんなことしちゃ親が泣くよ』……とな」
たかしの脳裏に、二十一年前の忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
【フラッシュバック:二十一年前の報道】
画面の中で、若き日の日暮テレビのキャスターが、興奮気味にカメラを指差している。
『――残虐非道! 現場に残された精液のDNA型が、容疑者のものと一致しました! 最新科学が導き出した結論です!』
『山村たかし容疑者の素顔は、「悪魔の申し子」そのものでした!』
隠し撮りされた自宅の映像。近隣住民の「あの子は昔から気味が悪かった」という無責任な証言。
たかしの母親が報道陣に囲まれ、フラッシュの嵐の中で泣き崩れる。
『人殺しの親!』『息子をどう教育したんだ!』
容赦ない言葉の暴力が、たかしの家族をズタズタに切り刻んでいく。
「当時の鑑定技術なんてのは、不正確なガラクタだったんだよ」
たかしは空いている方の手で懐からボロボロに汚れた封筒を取り出し、栗原の目の前の机に叩きつけた。
「見ろ。……俺が刑務所の中から弁護士を通して、今の、本当の最新技術で再鑑定させた結果だ。俺の無実の証明だッ!」
明確に『不一致』であることを示す鑑定結果。
だが――栗原はそれを見ても、微塵も驚かなかった。ただ、ひどく悲痛なものを見るような、深く暗い瞳でその書類を見つめていた。
「これを持って上告しようとした。だが、裁判所も警察も……そしてお前たちも、一度決めた『正義』を覆す勇気なんてなかった! 棄却だよ、栗原。この一枚の紙切れでは、俺の奪われた二十年は取り戻せなかったんだッ!」
たかしの叫びが、狭い取調室に響き渡る。
「お前たちが不完全な証拠で俺を犯人と決めつけた瞬間、俺の家族は崩壊した。親父は首を吊り、おふくろは狂って死んだ。メディアは面白おかしく俺を『悪魔』と呼び、世間は石を投げた。……全部、お前が作った『不正確な書類』のせいだッ!」
たかしは手製の銃を栗原の眉間に押し付けた。
「出所して、マツダ商店に行ったよ。あんたが勧めた塩辛を食うためにな。……だが、幸せなんてどこにもなかった。あるのは、俺の二十年を奪ったお前への、どす黒い殺意だけだ」
「……」
「お前の言う『幸せ』とやらを、すべて灰にしてやった。あの店も、この署も、そしてお前のキャリアも。……さあ、栗原。お前が信じた『正義』の結末だ。あっちで、俺の家族に詫びてこい」
狂気と憎悪に染まったたかしの言葉を、栗原は一切否定しなかった。
言い訳も、命乞いもしない。ただ静かに目を閉じ、突きつけられた冷たい銃口の感触を、己の罪の報いとして受け入れようとしていた。




