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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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42/47

後ろに居て

「……っ!」


 吸い込んだ息でヒュッ! と喉が鳴った。


「嘘……だってあの子はもっと……」


「間違いないわよ、ミゼール以外に銀髪を見たのはあの子だけだもの。貴重な器だったけどハロルドが逃げ出した後では意味がないと思い、連れ出して森へ置いて来たの。その後、奇跡を信じて私は研究者をやめた。もう本当に、何も出来る事はないと思ったから」


「なん……」


 怒り、と一言で言い表すには足りない感情がリアンを襲っている。


「でもその奇跡が起こる兆候なんだと思ったわ。あの子が実際より幼く見えるのはデュナミスの実験の代償よ。やっぱりハロルドは研究を続けていたんだと分かって、私あの時大声で叫びそうな程嬉しかった」


「黙れっ!!!!」


 折れても構わない。

 そう覚悟して押さえ付けられていた手足を思い切り振りほどいた。


「ああああああ!!!」


 左の肩が外れそうなくらいに捻って、一瞬上半身が自由になったが、すぐまた押さえ込まれた。魔女達の体制が変わり、リアンの目の前に奇妙に変色した腕が見えたので思い切りそれを噛んでやる。


「ギアァアアアッ」


 噛まれた魔女は甲高い声で悲鳴を上げては暴れ回った。周囲の魔女にぶつかり、統制が崩れ甘くなったところから何とかリアンは脱出した。


「あら、凄いのね」


 その澄ました顔を殴り付けてやる……!

 怒りで訳が分からなかった。だがニナの前にミゼールが立ち塞がり、その魔力を向けられた途端、冷や水を浴びせられたようにキュンと身体が縮む。理屈でもない、感情でもない、本能でそうなってしまう。


「ああうー」


 ミゼールの真っ赤な瞳がリアンを捕らえて魔力が集中する。フロディが一瞬で絶命した様に、自分も無残な最期を遂げるのだろう、そうリアンが諦めた時、突然、身体から出続けていたミゼールの魔力が掻き消されて、その身体がズサーッと後方へ吹っ飛んだのが見えた。


「なに?!」


 更にリアンを押さえ付けていた魔女たちもみんな吹っ飛ぶ。

 一体何がと、ミゼールや魔女たちが吹っ飛んだのとは逆の方向を見ると、そこには真っ白な翼の……ルシェが居た。


「なっ……!! ルシェ?!」


 その目は魔女化の特徴が出て真っ赤だったが……、まだ、生きている感じがする。その瞳はリアンをちゃんと見ている。


「もう大丈夫だよ、ルシェの後ろに居て」


 そう言って微笑むルシェがルシェである事が分かる言葉だった。リアンのピンチに駆け付けたのは、野性的な男らしい男ではなく、天使の様な可愛い女の子だ……。


「どうして……どうしてルシェが……」


 その翼は純白だったが、その瞳が、何よりミゼールを強引に吹っ飛ばした事実が、ルシェがデュナミスを飲んだ事を表している。


「あっ……あっ……おおお、まさか……あなたは……! ああっ! 何と言う……何と言う……! 生きてて……良かった……!」


 ニナが感極まった様に地面に突っ伏し、嗚咽を漏らしている。そのニナを目指し、吹っ飛ばされたミゼールが頭をカクカク揺らしながら戻って来る様だ。


「ダメよルシェ! 何で……何で……!!」


「お姉ちゃん」


 リアンは急いてまとまらない言葉を続けようとしたがルシェがそれを遮った。

 そうだ、お姉ちゃん、と、最初からルシェはそう呼んでくれていた。ずっと会いたいと思っていた、可愛い妹。もう……そこに居たのだ。


「ごめんね、お姉ちゃん。時間がないから言っておくね。ルシェは……ルシェはね……、もうすぐ、ルシェじゃなくなるから……」


「……」


 やっぱりそうなのかと、リアンは突き落とされた気分になる。デュナミスは自我を奪う。魔力がゼロだったリアンだけが特別なのだろう。


「分かるの……。少しずつルシェがなくなっていくのを感じるの。だから……ね、そうなったら、ごめんね」


「そんな……ルシェ……イヤ……、イヤよ……やっと会えたのに! あなただったのに……!」


 いたたまれない気持ちのリアンの神経を逆撫でする様に、ニナがおぞましい話しを始める。生涯を賭けて見たかったものを突然目の前にし、感動で涙を流しながら。


「素晴らしいわ……。やはりあなたはミゼール以上の優秀な器。精神も落ち着いている……。ミゼールの時はそれはそれは大騒ぎだったと言うのに」


「何……言って……」


「ハロルドからしか受け取らないと言って暴れ、仕方がないから無理矢理飲ませたら……私が消える、私が居なくなるとさらに暴れたのよ。あの檻がなければ本部が崩壊していたんじゃないかと思えるくらいにね……。それに比べて、何て素晴らしい精神でしょう」


 まるで昔の、ちょっとした思い出話を披露する様な感覚でニナは淡々とミゼールの壮絶な戦いを語り、ルシェを称えた。

 その時のミゼールを想像するだけで、リアンは身体がぞわぞわと嫌なもので包まれる感覚を味わう。


「可愛そうに……」


 自分も今まさに同じ目に合っていると言うのに、ルシェはミゼールを憐れんで目を細めた。


「でも大丈夫だよ……、あなたの飲んだデュナミスなら……」

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