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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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ニナ

「え……」


 あまりにも突然、あまりにも一瞬、あまりにも無残に、あんなにも憎らしかったフロディが、息、絶えた。


「足りない足りないと言うから、私が量を増やしたんじゃないですか……。どうやらその時に主も上書きされたようですね。それから、その魔石は偽物ですよ? そんな事も分からないからこの辺りをすべて浄化するなんてナンセンスな事を言うんでしょうけど」


 凄惨なフロディの最期を目の当たりにしても、ニナは何の動揺も見せない。フロディの亡骸に向かって淡々とそう言うのだ。


「あ……あ……」


 助かった……? 

 リアンの方はあまりの事に理解が追い付かない。とりあえずは助かったらしいと判断したリアンは未だ魔女に押さえ付けられたままではあったが、ようやくはぁっと安堵の溜息を漏らした。


「ニナさん……ありがとうございます……あの時省いた説明をしたいので、その……そこのカバンを拾ってもらって良いですか?」


 フロディが居なくなっても、魔女達の力は衰えていなかった。やめろと命令する人間が居なくなったのだ。逆に半永久的に押さえ続けられるかも知れない。

 ニナは言われた通り肩紐の取れたカバンを拾って中を確認した。


「これは……?」


「昨日、ハルが徹夜で作ったデュナミスの解毒薬です。この人達に飲ませて下さい。口を開けないようなら、そこに落ちてる注射器で打ち込めばいけます」


 リアンの言葉に小さく まさか と呟いてから、それでもニナはリアンを押さえ続けている魔女にそれを飲ませた。両手はしっかりリアンを押さえているので簡単なものだ。


「なっ……ああ……」


 まさかと疑っていたニナの目の前で、1人の魔女が人の姿へと変わった。一瞬左腕が自由になったが、すぐに別の魔女がまたリアンを押さえ込んだ。本当に健気で哀れだ。


「あうっ、すみません……多いので先にミゼールに飲ませて下さい。彼女にも効きます。あたしは無理ですが」


「……」


「あの……ニナさん?」


 ニナの反応がないのでそう問い掛ける。見るとニナは空になった瓶を握りしめながらブルブルと震えていた。


「昨日……? 徹夜で……?」


「は……はい」


 ニナの言葉を肯定してやると、ニナは口元を歪ませて笑い出す。


「ふっ……、ふふふっ……! 何故……何故こんなものを一晩で作れるの……私達が十年掛けて作ったデュナミスを、一瞬で溶かしてしまう薬? あははっ……あははは!」 


 参ったと言う様にニナは笑い、そのまま立ち上がって天を仰いだ。


「そう……! やはりハロルドは天才……」


 そうして、くるりと眼球を下に向けてリアンを見下し、罵る。


「……だけどリアン・アミット……、あなたの方が半端だったせいでせっかくのデュナミスも台無しね……」


「えっ……」


「完璧なデュナミスを以ってしても、あなたではミゼールに勝てないでしょう……」


 ガチャン……!


 そう言ってニナはカバンごと解毒薬を地面に叩き付けた。じわりと紫の液体がカバンから染み出てみるみる地面に吸収されしまう。


「なっ……! 何て事するんですかニナさん! あたしを、助けてくれたんじゃないんですか?!」


「あなたを助けて何の得があるの?」 


 そう言いながらニナは更にそのカバンを何度も踏み付けた。割れていなかった何本かも音を立てて割れていく。またいくらか紫の液体が染み出て来る。


「私はねぇ、見たいの。完璧なダナを。それだけなの。その為にすべてを捧げて来たの。私の夢、私の人生、それをハロルドに賭けてたの。世界が清浄される瞬間に私は立ち合いたいの。その瞬間に焼かれても良いの……!」


 独り言のように言いながら、もうすっかり粉々になったであろう瓶を、スカートをたくし上げながら執拗に踏み付ける。

 ああ、そうか。ニナも研究者なのだ。今は慰め役をしていると言っていたが、研究者は生涯研究者なのだろう。その危うさはハルに良く似ている。そう思ったら、リアンは妙に納得してしまった。もちろん、だからと言って許せる話しではない。


「だからこんな出来損ないの魔女に焼かせるわけにはいかないのよ。ここにはハロルドも、あの子も居るのに」


 チラリと崖上を確認するニナ。


「え?」


 その視線と、あの子……と言う言い方に引っ掛かる。

 ここに居るのはハルとルシェだ。ルシェの存在はあの時ニナに話して聞かせたが、話しを聞いただけのルシェの事を「あの子」などと普通は呼ばない。それじゃあまるで、元から知っているみたいな言いかたじゃないか。


「待って……何言ってるの?」


「焼かせないって言ったのよ。言わばここは、私が作り出したダナを生み出す事が出来る唯一の聖地なんだから」


「作り……出した?」


「あら、余計な事を言ったわね」


 取るに足らない事だと、表情を変えずに言うニナにぞわりと毛が逆立つ。


「でも私、夢を叶える為に出来る事は何でもしようと思ったのよ」


 だから仕方ないじゃない……? そう言ったニナの声は、もうリアンの耳に届かなかった。あまりの胸糞悪さに、だ。何故ならリアンはすっかり思い出してしまった。

 あの日、ルシェが自分を森に置き去りにしたのは赤い髪の女性だったと言った事を……。


「どうせデュナミスの研究はやめられっこないと思っていたけど……ハロルドは頑固なところがあるから背中を押してあげたのよ。……彼、気付いたかしら、あの子が私からの贈り物だって。てんで鈍いしロマンチストだからもしかしたら運命の出会いと信じているかも知れないわね」


 ハルをバカにしているつもりはなく、純粋にハルと言う人間を考察し、それを少し残念に思っている様な表情を見せたニナ。その後で、ほんの少し口元に笑みを浮かべて言ったニナの言葉に、リアンは激高する。


「でも驚いたわ、まさかあの子が……、あなたの妹だったなんて」

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